近代文明死活問題 

教育の荒廃 

給食の本質

昨今の小学校給食について考えてみます。大変設備もよくなり、お母さん方には弁当を作る手間がはぶけて、一般には評判がよいようであります。 

然し、給食制度というものは、多くの児童に一律に同じ物を与えるわけで、そこに個々の児童に対する母親の微妙な配慮というものが無い。そこで統計を見ましても、児童の味覚が次第に麻痺しつつある。つまり味の分からぬ子供が増えつつあるということであります。 

戦後教育の欠陥

これは重大な問題でありますが、ひとり給食だけの問題ではありません。今日のような学校教育、学校学問をやっておると、機械のような人間になってしまいそうです。

理屈や議論は上手であるが、人間が全く分からない。人間的には出来ていないものに育ってゆきます。大学は今や断片的知識、概念的・論理的知識の単なる伝達所のようになって、本当の学問・教育の意義を喪失してしまっております。現在のような大学教育ならば、テレビやラジオでも十分できるということであります。

破滅にむかいつつある

こういうことをおしひろげてゆきますと、この人間世界、文明世界というものは、次第に混乱・破滅に向ってゆきましょう。

今や、余りにも発達した結果、近代文明は破滅に瀕しておるということは厳然たる事実であります。これをどう是正するかということが専門家の頭痛の種であります。 

シングュラーポイント

かってsingular point−特異点ということをお話したことがありますが、これは物理学上の専門用語で、或る現象というものは、初めのうちはよく分からないが、或る点に達すると急激に目立って来る。

これが特異点というもので、それから後は急速度で進展します。ガンと気がついた時は、既に特異点に達しておるので、それから後は急速に悪化してゆきます。 

近代文明死活問題

そのガンが最も早く発見出来ないものかと申しますと、それは可能であります。処がまだ早い時点では、病人がそれを意識するような痛み等の感覚がないものですから、医者が率直にガンだというと、殆どの患者は、ガンでないものを癌だと言ったと反感を持つ。 

そしてガンでないと言ってくれる医者を無意識に探して「俺は癌ではない」と自ら慰め、安心しておるうちにシングュラーポイントを迎えて、始めて「そうだったのか」とがっかりした時には、もう死期が迫っておるということになる。近代文明が丁度それと同じで、今や人類・死活の問題であります。 

安岡正篤先生の言葉