国民に告ぐ その三   鳥取木鶏研究会 9

アメリカによる巧妙な属国化戦略

いかにして日本人は祖国への誇りをかくも失ったのだろうか。もちろん戦後のことである。

終戦と同時に日本を占領したアメリカの唯一無二の目標は「日本が二度と立ち上がってアメリカに歯向かうことのないようにする」であった。

それは国務省、陸軍省、海軍省合同で作成した「日本降伏後における米国の初期の対日方針」に明らかである。

その為に、日本の非武装化、民主化などを行なったが、それに止まらなかった。第一次大戦後、二度と立ち上がれないほどドイツを非武装化し弱体化したが、たった20年でヨーロッパ最強の陸軍を作ってしまったのをよく知っていたからである。

日本人の「原理」を壊さない限り、いつかこの民族が強力な敵国として復活することを知っていたからである。特に昭和19年秋に始まった神風特攻隊から硫黄島、沖縄と続く理性を超越した鬼気迫る抵抗に震撼した直後だけに、なおさらだった。

まず、新憲法を作り上げ、前文に「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」と書いた。

日本国の生存は他国に委ねられたのである。

第九条の「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。

国の交戦権は、これを認めない」は、前文の具体的内容である。

自分が守らない場合、どこかの国に安全保障を依頼する以外に国家が生き延びる術はない。アメリカ以外にないことは自明であった。

 

即ち、日本はこの時、アメリカの属国となることが決定されたのである。戦争に倦む日本人に対して平和を高らかに謳い上げ、アメリカが平和愛好国であることを印象づけた上で属国化する、という実に巧妙なやり口であった。

 

さらには、念の為、第一条で国民の心の拠り所であった天皇を元首からただの象徴にした。さらには皇室典範を新たに定め、十一宮家を皇籍離脱させ、万世一系を保つのがいつか極めて困難になるように仕掛けた。国民の求心力の解体を目論んだのである。

それくらいで満足するようなアングロサクソンではない。漢字全廃への第一段階として当用漢字を導入したのは、日本の文化を潰し、愚民化するためであった。

世界から絶賛されていた教育勅語を廃止した上で作った教育基本法とは、公への奉仕や献身を大事にするという日本人の特性、すなわち底力を壊し、個人主義を導入するためであった。これでもまだ足りなかった。

魂を空洞化した言論統制

実はアメリカが日本に与えた致命傷は、新憲法でも皇室典範でも教育基本法でもなかった。占領後間もなく実施した、新聞雑誌放送映画などに対する厳しい言論統制であった。終戦の何年も前から練りに練っていたウォー・ギルト・インフォーメーション・プログラム(WGIP=戦争についての罪の意識を日本人に植え付ける宣伝計画)に基づいたものである。

自由の旗手を自認するアメリカが、日本人の言論の自由を封殺するという、悪逆無道を働いたのであった。これについては、江藤淳氏の名著「閉ざされた言語空間」(文春文庫)に余す所なく記されている。

この根本的狙いは、日本の歴史を否定することで日本人の魂の空洞化を企図したものであった。

その為に、先ず日本対アメリカの総力戦であった戦争を、邪悪な軍国主義者と罪のない国民との対立にすり変えようとした。400万近い国民が米軍により殺戮され日本中の都市を廃墟とされ、現在の窮乏生活がもたらされたのは軍人や軍国主義者が悪かったのであり米軍の責任ではない。なかんずく、世界史に永遠に残る戦争犯罪、即ち二発の原爆投下による30万市民の無差別大量虐殺を、日本の軍国主義者の責任に転嫁し自らは免罪符を得ようとしたのである。アングロサクソンが日本の立場にあったら必ず復讐を誓うから、日本の復讐を恐れ軍部のせいにしたという側面がある。

 

この作為的転嫁すなわち歴史歪曲を実行するため、早くも昭和2012月には学校における歴史地理修身の授業を中止し、「太平洋戦争史」なる宣伝文書を制作し各日刊紙に連載した。

「太平洋戦争史」は各学校で教科書としても使われ、NHKラジオでも「真相はこうだ」として10週間にわたり放送された。アメリカによる洗脳が始まったのである。これがうまく行けば、日本人の間に当然ながら渦巻いていた対米憎悪のエネルギーがアメリカではなく、自分達国民を(だま)してきたということで徐々に軍部や軍国主義者に向い、そしていつかは日本の残虐性と好戦性の源ということで伝統的秩序の破壊に向うだろうとの深い読みがあった。マインドコントロールであった。「太平洋戦争史」で教育された人々がこのパラダイムを次ぎの世代に伝えたから、未だに歴史教科書に色濃く残っているのである。GHQは同時に「神道指令」を発令し、神道を弾圧することで皇室の伝統、すなわち日本人の心の拠り所を傷つけようとした。

これらを着実に実行するため、私信までを開封した。私自身、セロテープで閉じられた父宛の封筒を幾度となく見ている。更には、雑誌新聞などの事前検閲であった。

占領軍や合衆国に対する批判、極東國際軍事裁判(東京裁判)に対する批判、アメリカが新憲法を起草したことへの言及、検閲制度への言及、天皇の神格性や愛国心の擁護、戦争における日本の立場や大東亜共栄圏や戦犯への擁護、原爆ま残虐性についての言及、などが厳しく取り締まられ封印された。

細かくは、米兵と日本人女性との交際への言及なども対象となった。日本人数千人の協力の下で、この極秘裏の検閲は数年間にわたりなされたのである。識字率が異常に高く、またお人好しの日本人には有効だった。歴史を否定し愛国心を否定するものだった。

WGIP(ウォー・ギルト・インフォーメーション・プログラム)に協力的でない日本人は公職追放されたり圧力が加えられた。

余りにも一方的な嘘の不当な押し付けに抵抗する人は多くいたが、そういった人々を含め20万人もが公職追放されたのであった。

WGIPに協力することは就職口を得ることであり、生き延びることであり、出世につながることとなった。このWGIPは7年近い占領のすんだ後でも日本人に定着したままとなった。ソ連のコミンテルン(ソ連共産党配下の國際組織)の影響下にあった日教組がGHQの方針をそのまま継承し教育の場で実行したからである。

 

GHQが種をまき日教組が大きく育てた「国家自己崩壊システム」は今もなお機能している。特に教育界、歴史学界、マスコミにおいてである。WGIPの禁止条項はなんとアメリカが引揚げて60年近くたった今も生きているのである。

 

東京裁判への批判、新憲法や教育基本法を押しつけ、検閲により言論の自由を奪い洗脳を進めたアメリカへの批判、愛国心の擁護、原爆や無差別爆撃による市民大量虐殺への批判、などは全て正当でありながら公に語られることは稀である。

無論、教科書に載ることはない。ある歴史学者は「このようなことを口にする者が歴史学科で就職を得ることは今でも難しい」と語っている。テレビで語られることも殆どない。かくして日本人は魂を失い誇りを失って行ったのである。

「文芸春秋」6月号の梯久美子氏の記事によると、86歳になる建築家の池田武邦氏は、海軍兵学校を出て海軍士官となってからずっと軽巡洋艦「矢矧(やはぎ)」に乗っていたが、昭和204月の沖縄戦で戦艦「大和」とともに海上特攻に出撃し撃沈され九死に一生を得た。

彼は昭和30年代に小学校の息子さんに「お父さんはなんで戦争なんか行ったの」と詰問され、それ以降、戦争のことを一切話さなくなったそうだ。「どんな思いで戦ったのか、戦友はどんなふうに死んでいったのか。艦全体が家族のようだった矢矧のこと。言っても分って貰える筈がないと心を閉ざしてしまった。戦争の話をするようになったのは80歳を過ぎてからです」と今語る。

 

4年ほど前に見たあるテレビ番組は、50歳前後の俳優が89歳の父親とベトナム沖の島を訪れるものであった。陸軍大尉であったこの父親がB級戦犯として5年間収監されていた島である。ここで俳優が老いた父親を高圧的に非難するのだった。「戦争は人殺しだよね。悪いことだよね」と父親の反論に耳を貸さず幼稚な言い分をがなり立てる様にいささか驚いた。軍人だった父親のいる多くの家庭で見られた風景に違いない。「日本がすべて悪かった。日本軍人は国民を(だま)して戦争に導いた極悪人だ。自衛戦争を含めすべての戦争は悪だ」。と言う洗脳教育から大多数の国民がまだ解き放たれていないのだ。

 

だからこそ、戦場で涙ながらに老いた父母を思い、新妻や遺される赤子の幸せを祈り、日本に平和の訪れることを願いつつ、祖国防衛のために雄々しく戦った人々は散華した者を犬死と嘲られ、かろうじて生き残った者は難詰めされ罵倒されるという。理解を絶する国となってしまったのである。だからこそこの国から誇りが消えたのである。