烏帽子山--海抜909米・関西百名山 和歌山県

那智の滝の源流に聳える山である。我々は那智川を渡り東の谷に沿って行く。暗い谷である、先ず「陰陽の滝」、巨岩のゴロゴロしている谷を右、左と岩飛びしながら進む。やがて尾根か谷沿いかの分岐点を経て急斜面となる。「ハニヤスの滝」さらに登り「松尾の滝」の直下に立つ。一枚岩の滝である。やがて頂上直下の急登となる。ここに帽子岩の巨岩があり我々はよじ登る。ここから山頂はすぐだ。太平洋から熊野方面の山々が遠近望できる。ここでウドンやらコーヒーを沸かして頂いた。快晴の中、友とこうして至福のひとときを噛み締めた。
下山は三の滝から二の滝を経て青岸渡寺方面へと向かう。流石は那智の滝の源流本谷だけあり、深く長い鬱蒼たる大杉が林立し、昼なお暗い大谷である。鬼杉谷と言うらしい。
「三の滝」を右に見てなお下ると、ここから神域との表示があり思わず心の襟を正す。それだけの荘厳なる森林厳粛が感じられる。急な下りを降りて行くと、開けた河原に倒木が倒れ、薄暗い空間に、あっと思わず身震いした、もう荘厳と言うのか森厳と言うのか、大きな滝が実に静かに、静かに遥かに流れている。私は、瞬間、神を見たと親友に言った。心に深く、畏れを覚えた。この聖なる地に来ていいのかと。思わず私は手を合わせた。神の現前し給える思いであった。それが「二の滝」であった。申すまでもなく「一の滝」とは「那智の滝」の事である。
帰宅して調べたら、やはり誰でもそう思うらしくて、古人のあの著名なる「西行」の「山家集」にもこの滝の事を
「如意輪観音の滝」と申している。高さ23米幅7米だが、中ほどに、ふくらみがあり、優しい滝である。気品に風格を備え、柔和さを湛えており神秘さえ覚えた。悠久の昔から静寂の中に落下し続けてきたであろう。日本人はこのような滝とか巨岩の大自然に神を感じてきた民族である、私も間違いなく純粋な大和民族の一人だと痛感した。
ここからは本谷沿いに下山して行く。昼なお暗い杉の巨木の中を進み青岸渡寺に下山した。感動の烏帽子山とその周辺であつた。