祇園精舎
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花の色、 盛者必衰の理をあらはす
奢れる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。
たけき者も遂には滅びぬ、偏に風の前の塵に同じ。
遠く異朝をとぶらへば、秦の趙高・漢の王莽・梁の周伊・唐の禄山、これらは皆旧主先皇の政にも従はず、楽しみをきはめ、諌めをも思ひ入れず、天下の乱れむ事を悟らずして民間の愁ふる所を知らざっしかば、久しからずして、亡じにし者ども也。
近く本朝をうかがふに、承平の将門・天慶の純友・ 康和の義親・平治の信頼、此等は奢るる心もたけき事も、皆とりどりにこそありしかども、まぢかくは六波羅の入道 前太政大臣平朝臣清盛公と申しし人のありさま、伝うけ給るこそ、心も詞も及ばれね。