伊勢神宮・内宮 三重県伊勢市

「お伊勢さん」「大神宮さん」と呼ばれるが、単に「神宮」というのが正式な名称。
神宮とは、伊勢の宇治の五十鈴(いすず)川上にご鎮座の皇大神宮(こうたいじんぐう、内宮=ないくう)と、伊勢の山田の原にご鎮座の豊受大神宮(とようけだいじんぐう、外宮=げくう)の総称で、古くは伊勢太神宮(いせのおおみかみのみや)とも言われた。
この両大神宮の正宮(しょうぐう)には、別宮(べつぐう)、摂社(せっしゃ)、末社(まっしゃ)、所管社(しょかんしゃ)が所属しており、全てで125の宮社、これらの宮社をふくめた場合も神宮という。
別宮とは、ご正宮の「わけみや」の意味で、所属の宮社のなかでも重んじられ皇大神宮に十所、豊受大神宮に四所の別宮がある。
摂社は、『延喜神名式』(927年)に所載されている社で、末社とは、神名帳にはのせられていないが、神宮の儀式のことをまとめて神祇官へ提出した文献である『儀式帳』(804年)にのせられている社のこと。以上の宮社のほかに、正宮及び別宮の所管の社があり、これを所管社という。所管社の中には御前社が所属しているものもある。これらの諸宮社は、伊勢、松阪、鳥羽の三市、度会(わたらい)、多気(たき)、志摩(しま)の三郡にわたってご鎮座。

皇大神宮(こうたいじんぐう)は通称「内宮」と申し上る。神路山・島路山を源とする五十鈴川の川上にご鎮座。
ご祭神は、天照坐皇大御神(あまてらしますすめおおみかみ)。このご神名はお祭りに際して神前で畏まって称え申し上げる最高のご名称で常には皇大御神や天照大御神。
わが国最初の正史(せいし)『日本書紀』(にほんしょき)の伝えによると、皇大御神は光華明彩(ひかりうるわ)しく、六合(あめつち)の内(うち)に照り徹(とお)らせり、と称えられ、皇孫(すめみま)・天津彦彦火瓊瓊杵尊(あまつひこひこほのににぎのみこと)を高天原からこの国に降されますときにあたって、尊の御位と地上の永遠を祝福して

豊葦原(とよあしはら)の千五百秋(ちいほあき)の瑞穂国(みずほのくに)は、是れ吾が子孫(うみのこ)の王(きみ)たるべき地(くに)なり。宜しく爾(いまし)皇孫、就(ゆ)きて治(しら)せ。行矣(さきくませ)。宝祚(あまつひつぎ)のさかえまさんこと、まさに天壌(あめつち)と窮(きわま)りなかるべし。

と、お言葉を与えらた。また、天と地の続く限り、瑞穂の国が栄え行くために、皇大御神は高天原でご自身がおつくりになっている田の「稲の種」を手渡されました。米をつくるくらしが、この国の繁栄と平和をもたらすとお教えになられた。

国の内に隈なく光が照り徹ると称えられる皇大御神の御神体は、八咫鏡(やたのかがみ)で、八坂瓊勾玉(やさかにのまがたま)と草薙剣(くさなぎのつるぎ)を加えて三種の神器(じんぎ)と呼ばれる。

この御鏡を代々宮中で天皇ご自身がお祭りされていたが、崇神(すじん)天皇の御代に皇居の外、大和の笠縫邑(かさぬいのむら)に神籬(ひもろぎ)を立ててお祭り。神籬とは榊のような常緑樹で囲われた神聖なお祭りの場を意味する。そこでは、天皇にお代わりして、豊鍬入姫命(とよすきいりひめのみこと)が皇大御神をお祭りされていましたが、垂仁(すいにん)天皇の御代に至り、倭姫命(やまとひめのみこと)が新たに皇大御神をお祭り申し上げるにふさわしい地を求められることになる。
倭姫命は大和の国を始め伊賀、近江、美濃の諸国を巡られたのち、伊勢の国の度会(わたらい)の地、宇治の五十鈴川の川上に到られ、皇大御神のお教えのままに「祠(やしろ)」をたててお祭り申し上げることになる。祠は社とも書き、家(や)や屋(や)の代(しろ)という意味で、大きなお祭りに際してそのつど新たにたてられる建物のこと。
神籬や祠のように臨時にたてられる建物が、神の宮(神の宮殿)、つまり神宮と呼ばれるほどに大きな規模になるのは、天武(てんむ)天皇から持統(じとう)天皇の御代にかけてのこと。20年に1度の大祭、神宮式年遷宮もこの時代に始まる。
内宮の宮域は、5,500ヘクタールの広さ、大別して神域と宮域林とに区分され、さらに宮域林を第一宮域林、第ニ宮域林に分けている。神域とは内宮のご社殿を中心とした付近およそ93ヘクタールの地域で、ご鎮座以来まったく斧を入れることのなかった禁伐林です。参道に立ち並ぶ鉾杉(ほこすぎ)は神域の森厳さを保ち、またモミ、マツ、ヒノキ、カシ、シイ、クス、サカキ、など繁り、暖帯北部の代表的な林相をなしている。第一宮域林は、神域の周辺並びに宇治橋付近、それに市内から遠望される地帯1,000ヘクタール余の地域で、大部分が天然林で、天然スギを主として、シイ、カシ、サカキ等の林をなし、神宮の風致上、大切な区域で、風致の改良、樹木の育生に必要な場合以外は、伐採(ばっさい)しないことになっている。第ニ宮域林は、第一宮域林以外の4.400ヘクタール余の区域で、五十鈴川水源の保持並びに宮域の風致の増進を目的とするとともに、ご造営用材の備林としてのヒノキの植樹が計画的に実施されている。 神宮では、斯界の権威者に委嘱して、神宮境内地保護委員会と神宮自然保護委員会が組織され、神宮の太古のままの大自然をそのままに守っていこう