成16年11月--今日の格言・箴言30 韓非子@ 

韓非子―異端の書
ホームページの愛読者から、韓非子をやって欲しいと言われた。20年前に、垣間読んだ、その時、友人に、そんなもの読んでいるとかと言われたことがあった。異端の書、韓非子に挑戦する。平成16111日 徳永圀典

 1日 韓非子に
関して
「覇道的統率論」 韓非子は人間の本質を見据えた「統率論」である。希望的観測を排除した冷徹な思想である。覇道であり、韓非もそれを認めている。
 2日 秦の始皇帝は韓非を最も認めていたが、皮肉にも韓非は、結局は始皇帝により獄で毒殺されている。
 3日 猜疑心強く人は何か企んでいると見る、暗く、鋭く、厳しい異端の書というべきである。
 4日 「焚書坑儒」ふんしょこうじゅー (民間の医薬、ト筮、種樹以外の本を焼却、又、儒生を生き埋めした) 韓非による他派の攻撃は凄まじい。始皇帝は韓非の思想に惚れて、あの「焚書坑儒」を実行した。
 5日 韓非子は体制維持の上では極めて有利且つ都合のいい学問と言われる。 内容的には為政者が人民に勧めるべきものではない。寧ろ、密かに為政者が読み、「術」として応用したらいいものかもしれない。
 6日 「術」とは君主が自分でしっかりと握っていなくてはならないものである。 或いは君主が密かに胸のうちで操作していくものと言われる。
 7日 「法」とは官吏が規範として習熟しておくべきものである。 この「法」と「術」に基づけば、どんなに暗愚の君主でも、一国を治めていけると韓非は固く信じていたという。明日から引用解説を開始する。
 8日

「三亡」

乱をもって治を攻むる者は亡ぶ。邪をもって正を攻むる者は亡ぶ。逆をもって順を攻むる者は亡ぶ。

乱の状態の者が正道の者を攻めれば自らが亡ぶ。逆境にある者が順境にある者を攻めれば自ら亡ぶ。

 9日

「秦、統一の理由」

かの一人の奮死はもって十に対すべく、十はもって百に対すべく、百はもって千に対すべく、千はもって万に対すべく、万はもって天下に剋つべし。

死にもの狂いで戦うのと、なんとか生き延びようと考えつつ戦うのでは、同じ人間の働きでも全く異なる。その違いを述べている。秦は賞罰を絶対化して戦勝し統一を果たした。

10日 「徹底」

迹を削りて根を遺すことなかれ。禍と隣することなければ禍すなわち存せず。

物事を行う際の徹底性である。「水に落ちた犬は打て」と、将来の禍根を絶てという。圧勝しても手を抜かない。

11日

「慎身」

戦々栗々−せんせんりつりつーとして、日に一日を慎め。いやしくもその道を慎まば、天下有すべし。

毎日、びくびくと恐れるくらいの注意を払って、我が身を慎めという。このことを守り通すことが出来るようなら天下をも手に入れることが可能という。

12日 「難言」

至言は耳に忤−さからーいて心に倒す。賢聖にあらざればよく聴くなし。

君主は耳に逆らうことを聞いて「行ないに利あり」などと受け取らない。筋道ある諫言でも愚かな君主は斬首したり、とんでもない処罰を加える。まして凡人に於いておやであろう。

13日 「愛臣」

愛臣はなはだ親しければ、かならずその身を危うくし、大臣はなはだ貴ければ、かならず主の位を易―かーう。主妾―しゅしょうーの等なければ、かならず嫡子を危うくし、兄弟服せざれば、かならず社稷を危うくす。

君主は孤独でなくてはならぬ。特定の臣下を寵愛すると君主は我が身が危うくなる。臣下は地位が高くなるにつれ必ず君主の地位を狙う。それくらい疑ってかかれという。

14日 「刑は容赦なく」

名君のその臣を蓄−やしなーうや、これを尽くすに法をもってし、これを質すに備えをもってす。故に死を赦さず、刑を宥−ゆるーさず。

下克上による滅亡は多い、その対策である。法律を整備して、法に触れたら、死刑であろうが、断固として執行し決して許したり手心を加えない。

15日 「部下に本音を漏らすな」 君はその欲する所を見−しめーすなかれ。君その欲する所を見せば、臣まさにみずから雕琢―ちょうたくーせんとす。君はその意を見すなかれ。君その意を見せば、臣まさにみずから表異せんとす。 君主が欲する所を示せば、臣はそれに合わせ自分を変える。意見を知らせたら臣下は気に入られるように言う。臣下の生地を把握するようにポーカーフェイスを保ち、言葉と行動を照合し一致するかどうかの「形名参同」が必要。
16日 「状況を見る」

人主の道は、静退―せいたいーもって宝となす。みずから事を操らずして、拙と功とを知り、みずから計慮せずして福と咎―きゅうーとを知る。

静かにして身を退けて状況を伺うのがベスト。俺が俺がは三流トップ。これが出来れば、わざわざ口を開かなくても臣は君主の意向に応える。

17日 「トップの才覚」 不賢にして賢者の師となり、不智にして智者の正となる。臣はその労を有し、君はその成功を有す。これをこれ賢主の経と謂うなり。 「見るも見るとせず、聞くも聞くとせず、知るも知るとせず」と君主・トップの在り方を端的に述べている。
18日 「国家の歴史」

国つねに強きはなく、つねに弱きもなし。法を奉ずる者強ければ国強く、法を奉ずる者弱ければ国弱し。

国交も広義の法である、相手を理解しようとする、これは交際上の法である。

19日 「風評」

誉をもって賞をなし、毀−そしりーをもって罰をなさば、賞を好み罰を悪む人は、公行を釈−すーてて私術を行い、比周して相為−なーさん。

コネや人々の評判を重要視してはいけない。一般的な人間の評価に於いても評判の過大視は危険。

20日 「亡国の様相」 亡国の廷に人なし。 重臣がめいめい自分の事ばかり考えて国の事を考えなくなる。これは亡国の様相であり。
21日 「羅針盤」

それ人臣のその主を侵すや、地形のごとく、漸に即きてもって往き、人主をして端を失い、東西面を易えて、しかも自ら知らざらしむ。

下克上を防ぐには羅針盤が必要、それは法に他ならない。
22日

「鶏は時を、猫には鼠を」

上の者が能をひけらかしたりするから仕事が巧くいかなくなる。上下関係に一工夫を要す。

それ物は宜しき所あり。材は施す所あり。各々その宜しきに処る、故に上すなわち為すなし。鶏をして夜を司らしめ、狸をして鼠を執えしめ、みなその能を用うれば、上すなわち事なし。

23日

「偉そうにするな」

聖人の道は、智と巧とを去る。智巧去らざれば以って常と為しがたし、民人これを用うれば、その身災い多く、主上これを用うれば、その国危亡す。

上の者が自分を飾らず、じっと構えて下の者にありのままの姿を見せる。下の者が調子よく会わせられなくなる。法に基づき賞罰をキチンと行うのみだ。

24日 「上下の争い 黄帝言えるあり、曰く、上下一日百戦すと。下はその私を匿し、もってその上を試み、上は度量を操り、もってその下を割く。 立場からくる対立は烈しい。国であれ企業であれ、革命の後には必ず権力闘争が始る。
25日

「両雄並び立たず」

一棲両雄なれば、その闘いはがんがんたり。豺狼―さいろうー牢にあれば、その羊繁せず。一家二貴なれば、事すなわち功なし。夫妻政を持すれば、子適従するところなし。

一つの小屋におんどりが二匹いたのでは喧嘩となる。要するに国でも同じ、君主に匹敵する臣下が出ないように警告している。

26日

「金品で抱き込む」

およそ人臣の道にて姦をなすところの者に八術あり。一に曰く同牀。何をか同牀という。曰く、貴夫人、愛孺子、便僻好色、これ人主の惑うところなり。

臣が君主を陥れる方法は八つある。1.君主の女に金を渡して手なづける。2.君主のお気に入りを味方にする。3、親戚とか君主が心を開く人間を利用する。

27日 「殃を養う」

四に曰く殃−おうーを養う。なにをか殃を養うという。曰く、人主は宮室、台地を美しくするを楽しみ、子女、狗馬を飾るを

好み、もってその心を娯しましむ。これ人主の殃なり。君主の好みを褒めつつ夢中にさせる。本業をそっちのけにさせる。

28日

「世俗」

それ厳刑重罰は、民の悪むところなり。而れども国の治まる所以なり。百姓を哀憐し、刑罰を軽くするは、民の喜ぶところなり。而れども国の危うき所以なり。

厳刑重罰は人々が嫌うが、これこそ国を治めるものだ。民を憐れみ刑罰を軽くすると国は乱れる。国を治めるには世俗と戦わねばならぬ。

29日

「慈善事業の欺瞞性」

それ貧困に施与することあらば、功なき者賞を得、誅罰に忍びずば、暴乱の者止まじ。

仁義による政治の批判、慈善事業的発想には欺瞞性があるという。慈善を受ける人々を駄目にしてしまう要素があるのに施す側が自己満足する。また、私腹を肥やす人間が増える。現代にも存在。

30日

「清廉潔白は使えない」

古に伯夷・叔斉なる者あり。武王譲るに天下をもっていれども受けずして、二人は首陽の陵に餓死す。此の臣の若きは、重誅を畏れず、重賞を利とせず、罰をもって禁ずべからず、賞をもって使うべからざるなり。此をこれ無益の臣と謂うなり。

清廉潔白の士なんて使えない。伯夷・叔斉は清廉の士であった。かかる士は滅多に出ない