美しい日本の歌・歌・歌・歌 古今和歌集4.古今和歌集巻六 冬歌
早や、しはす、師走となる。春が去り、ついこの間のような夏も往き秋も終わり遂に冬を迎えた。
12月1日 | 山里は冬ぞさびしさまさりける人めも草もかれぬと思へば 源宗干朝臣 |
人もいないし草も枯れて冬は更にさぴしくなるなあ。 |
12月2日 | ゆうされば衣手さむしみよしののよしのの山にみ雪ふるらし 読人しらず |
夕方になると袖までも寒い、これではあの吉野山は雪であろうか。 |
12月3日 | この河にもみじば流るおく山の雪げの水ぞ今まさるらし 読人しらず |
奥山の雪溶け水が増えたようだ、散った紅葉葉が流れているから。 |
12月4日 | みよしのの山の白雪つもるらしふるさとさむくなりまさるなり 坂上これのり |
吉野山に白雪が積もっているようだ、この奈良の都がこんなに寒くなってきたから。 |
12月5日 | 白雪のふりてつもれる山ざとはすむ人さへや思ひきゆらむ 壬生忠峯 |
深く雪の積もっている山里では心細く雪と同じように消えいるような思いをしているであろう。 |
12月6日 | 冬ながらそらより花のちりくるは雲のあなたは春にやあるらむ きよはらのふかやぶ |
冬でありながら空から花が散ってくるとは雲の向こうは春になっているのだろうか。 |
12月7日 | ふゆごもり思ひかけぬをこのまより花と見るまで雪ぞふりける つらゆき |
冬篭りのこの季節想像しなかったのに葉もない木々の間すら散る花と見えるように雪が降っているよ。 |
12月8日 | あさぼらけありあけの月と見るまでによしののさとにふれるしらゆき 坂上これのり |
夜明けの月の照ってるような白雪を詠んだ。 |
12月9日 | けぬがうへに又もふりしけ春霞たちなばみ雪まれにこそ見め よみ人知らず |
消えない中に雪がまた積もれ。春となると雪が見られないから。 |
12月10日 | 梅の花それとも見えず久方のあまざる雪のなべてふれれば よみ人知らず |
梅の花がどれか分からない、雪があたり一面なので。 |
12月11日 | 花の色は雪にまじりて見えずともかをだににほへ人のしるべく 小野たかむらの朝臣 |
梅の花は雪で見えないがせめて香りだけでも匂わせて欲しい。 |
12月12日 | 梅のかのふりおける雪にまがひせばたれかことごとわきてをらまし きのつらゆき |
積雪の中の梅の花を詠んだもの。 |
12月13日 | 雪ふれば木ごとに花ぞさきにけるいずれを梅とわきてをらまし きのとものり |
雪でどの木にも花が咲いたようだ、どれが本当の梅であろうか枝を折る区別ができない。 |
12月14日 | わがまたぬ年はきぬれど冬草のかれにし人はおとづれもせず みつね |
待ってもいない新年は明日くるが別れた人からは何の便りもないよ。 |
12月15日 | あらたまの年のをはりになるごとに雪もわが身もふりまさりつつ 在原もとかた |
毎年毎年年末には雪がますます降るが私も益々年老いていくよ。 |
12月16日 | 雪ふりて年のくれぬる時にこそつひにもみぢぬ松も見えけれ よみ人しらず |
風雪に耐えて最後まで色を変えなかった松の素晴らしさは雪がふり寒くなり年も暮れる頃に初めてわかるよ。 |
12月17日 | 昨日といひけふとくらしてあすかがは流れてはやき月日なりけり はるみちのつらき |
飛鳥川の流れのように月日の経つのは早いよ。 |
12月18日 | ゆきふりて人もかよはぬみちなれやあとはかもなく思ひきゆらむ 凡河内みつね |
雪で誰も通らぬ道のように私の心まで跡形もなく消え入るようだよ。 |
12月19日 | 浦ちかくふりくる雪は白浪の末の松山こすかとぞ見る ふぢはらのおきかぜ |
海岸近くの雪は白波があの松山を越すように見えるよ。 |
12月20日 | 白雪のところもわかずふりしけばいはほにもさく花とこそ見れ 紀あきみね |
一面に雪が降りそそいでいると巌にも咲いた花に見えるね。 |
12月21日 | みよしのの山の白雪ふみわけて入りにし人のおとづれもせぬ 壬生忠峯 |
吉野山の深い積雪を踏み分けて山奥に入ってしまったあの人からはその後何の音沙汰がないよ。 |
12月22日 | ふゆごもり思ひかけぬをこのまより花と見るまで雪ぞふりける つらゆき |
冬ごもりなのに思いもかけぬのに、葉もない木々から散る花のように雪が降っているよ。 |
12月23日 | けぬがうへに又もふりしけ春霞たちなばみ雪まれにこそ見め よみ人しらず |
先の雪がまだ溶けないのに更に積もるよ。春霞たなびくようになると雪は見られなくなるからと雪を賞玩。 |
12月24日 冬の歌最終歌 |
ゆく年のをしくもあるかますかがみ見るかげさへにくれぬと思へば きのつらゆき |
過ぎ去った年を惜しむよ。澄んだ鏡に映る自分の影までも人生の暮れに近づいてしまっように思われるのでね。 |
12月25日 賀の歌 |
わが君は千世にやちよにさざれいしのいはほとなりてこけのむすまで よみ人知らず--君が代の元歌 |
あなたは千年も万年も長生きしていらっしゃいませ。小さな石が成長して大磐石となり苔が生えるようになるまで。 |
12月26日 | 渡津海の浜のまさごをかぞへつつ君がちとせのありかずにせむ よみ人知らず |
浜辺の砂粒を数えて、あなたの千年も続く長寿の年齢にしよう。 |
12月27 | しほの山さしでのいそにすむ千鳥きみがみ世をばやちよとぞなく よみ人しらず |
しほの山の千鳥は、あなたの寿命を「やちよ、やちよと鳴いていますよ。やちよ--8千年- |
12月28日 | わがよはひ君がやちよにとりそへてとどめおきてば思ひいでにせよ よみ人しらず |
私の寿命を、あなたの8千歳もの長寿に加えて残したらその分を生きる時の思いでにしてください。 |
12月29日 | かくしつつとにもかくにもながらへて君がやちよにあふよしもがな 光考天皇 |
天皇の父の従兄弟である遍照の古希祝いに賜った御歌。 |
12月30日 | ちはやぶる神やきりけむつくからにちとせの坂もこえぬべらなり 僧正へんぜう |
この杖は神が切って作ったのか、これをつくと若返って千年の齢も越えてしまいそうだ。 |
12月31日 | さくら花ちりかひくもれおいらくのこむといふなる道まがふがに 在原業平 |
桜の花よ、ここかしこの区別もつかないように散り乱れてくれよ。老いの道が分からなくなる程に。 |
ご愛読ありがとうございました。皆様、良いお年をお迎え下さい。徳永圀典