R・クー氏を大激怒させたアノ男…
         続報竹中・木村コンビが銀行を“大口撃--11月10日記事

竹中・木村路線を超辛口批判

リチャード・クー氏
リチャード・クー氏

与党と大手銀行の大逆襲で、不良債権処理加速策が骨抜きになった小泉・竹中劇薬コンビの総合デフレ対策。景気底割れの危険もあり、「不良債権処理よりも10兆円規模の財政投入が先だ」。ハードランディング路線を追撃するのは、野村総合研究所チーフエコノミストの論客、リチャード・クー氏である。日本経済を肺炎と糖尿病の併発に例え、「治療法の順序が違う」と説明する。「このままだと米国大恐慌の二の舞」と、独自のデフレ不況の緊急処方箋(せん)を提言する。

竹中平蔵氏
竹中平蔵氏

 竹中平蔵金融・経済財政担当相の金融庁プロジェクトチームのポイントは当初、(1)自己資本の計算方法の見直し(2)貸出資産の査定厳格化による引当金の積み増し(3)公的資金の再注入と銀行の国有化、経営責任の追及−の3点だった。 金融のルールを根本的に変える強硬路線に、与党と大手銀行が猛反発して、先月22日の中間報告が見送られた。

 追撃の手は緩まず、結局、「竹中大臣に一任」とノー天気で経済オンチの小泉純一郎首相と竹中氏のコンビは腰砕けとなり、大幅修正で大惨敗。同30日公表の総合デフレ対策は新味も中身もなく、カラッポだった。

木村剛氏
木村剛氏

先行減税の規模拡大や補正予算の財政支出の裏付けもない。銀行も自己防衛策から貸し渋りや貸し剥(はが)しが一気に進み、デフレ圧力は高まるばかりで、再び景気底割れが懸念される。市場では「いよいよ51社リストなど問題企業の処理が始まる。いずれ大手行にも公的資金が注入される。平均株価が8000円割れに向かい、大失速する」(米系運用会社)と警戒する。

もともと、竹中改革に異議を唱えていたクー氏は、経済の現状に「教科書にもない超非常事態だ」と追撃の構えで、処方箋が描けないデフレ不況の原因を分析する。

 「ゼロ金利なのに、大半の企業が(金銭貸借の)バランスシートをきれいにするために懸命に借金返済をしている。上場企業3500社のうち2000社。非上場も含めれば年間20兆円もの返済になる。家計は貯金を続け、銀行に金は集まるが借り手がいない状態。そっくりそのまま、デフレギャップになっている」
家計を中心に、もう少し分かりやすく言えば、こうである。
「家庭で1000円の所得があったとして、900円を使い、100円を貯金したとする。昔なら、すぐ銀行を介して100円の借り手の企業が現れて経済が回るが、今は100円は放置されたまま。次に手にする所得は900円になる。また1割を貯金するが借り手がなく、810円しか市場に流通しない」

 「こうして縮小均衡が進んでいく。縮小過程ではアダム・スミスの言う『神の見えざる手』がマイナスに働いてしまう。デフレ不況の最後は、貯金ができないほど貧乏になるまで止まらない」

 一方で、『土地神話』の崩壊で、資産価値は下落の一途をたどる。
商業不動産は、バブルのピーク時の85%、ゴルフ会員権は93%もそれぞれ下落する。株価は外国人投資家が買い支え、何とか6−7割の下落にとどまっているが、企業の資産はますます目減りし悪循環に陥る。

 「今の日本経済は肺炎と糖尿病を併発している患者だ。2つの治療は一部矛盾する。肺炎はすぐ栄養をつけなくてはいけないが、糖尿病にはダメだ。でもこういう局面では肺炎の治療が先。それを竹中さんは糖尿病から治そうとしている

 クー氏は病気治療に例えたうえで、小泉政権にこう処方箋を示す。

 「まず、小泉さんは国民に現状をよく説明しなければならない。ミクロで見れば個々の企業が借金返済をすることは正しい行為だが、マクロで見れば経済が縮小均衡に陥り景気が悪くなる。だから、政府が財政出動をして穴を埋めなければならないんだと。きちんと説明すれば、公共事業などへのアレルギーは解消されるはずだ」
 「次に金額。大きければ大きいほど、プロアクティブ(能動的)なほどいい。
最低5兆から10兆円の財政出動は必要」

「3つ目に景気が好循環に入るまでブレーキを決して踏んではならない不良債権処理は好循環に入ってからの話だ」

バブル後の「失われた10年」の1990年代、政府は再三、景気・株価対策を打ち出し、計140兆円もの公共投資・減税などを行ってきた。

ところが、本格回復に至らずカンフル剤に終わった−と批判を浴び続けている。だが、クー氏の見方はまったく違う。

140兆円を投じたから、株と土地下落だけで1300兆円ものデフレ圧力を止められ、ゼロ成長が続けられた。実は2回、好循環に入るチャンスがあった。96年の橋本内閣と99年の小渕内閣。だが好循環に入った途端、大蔵省(当時)がブレーキを踏んで財政再建を始め、マイナス成長に陥ってしまった」

クー氏が小泉・竹中のハードランディング路線で危惧(きぐ)するのは、30年代の米国大恐慌の二の舞である。
「腐ったところは大企業でも、どんどん淘汰(とうた)すべきという竹中発言は、米国を大恐慌に陥れたフーバー大統領の財務長官、アンドリュー・メロン氏と完全に一致する。GDP(国内総生産)の半分が吹っ飛び、株価が10分の1、失業率が20%以上。不良債権処理を強引に進めればそうなりかねない」

強硬路線のより所とされる過剰債務企業をリストアップした「51社リスト」や、竹中氏とチームを組む日銀OBの木村剛氏が作成した“危ない企業”の「
30社リスト」をどうみるか。

はっきり言って、子供だまし。繰り返し言うが、不況の原因は全体の7−8割の企業が借金返済に必死という現実。30社や51社を整理すること自体に意味はない。整理したら残りの企業はおびえきってしまい、お家取り潰(つぶ)しかと、余計に借金返済に精を出す。その分、さらに景気は縮小して悪循環に。行き着く先は、まさにハードランディングのシナリオで大恐慌だ」

返す刀で、竹中氏ご執心のデフレ・スパイラルをインフレに誘導するインフレターゲティング論も切り捨てる。

「日銀の速水(優)さんが『来年はインフレですよ』と言ったところで、今、借金返済をしている方々が『わかった。債務超過であることを忘れて、お金を借りよう』とはならない。銀行がこれ以上貸し出しを増やそうとすれば、相当貸し出し基準を落とさなければならない。それは背任行為であり犯罪だ」

ところで、竹中氏の相棒で脚光を浴びる木村剛氏は、経済小説『通貨が堕落するとき』(講談社)の中で、クー氏がモデルと思われる人物を登場させているが、これには怒りを露にした。

「私は彼が大嫌いだ。〈ニューヨーク連銀出身で、日本語が達者な外国人。大手証券のエコノミスト〉−だれですか? まわりを見回しても私しかいないじゃないですか。〈銀行から金をたっぷりもらって、銀行に耳障りのいいことばかり言っている。超2流のどうしようもないヤツ〉として登場するが、私は銀行から金は一切もらっていない。人を中傷しなければ自分の意見を作れないような人間は許せない」

傷口が広がるばかりで、辛うじて命脈を保つ日本経済。クー氏の処方箋に対し、早くも株価を一時、大失墜させた小泉・竹中・木村の劇薬コンビはどう応えるか。

【リチャード・クー】 野村総合研究所経済研究部主席研究員、チーフエコノミスト。1954年神戸市生まれ。76年米カリフォルニア大学バークリー校を経て、ジョンズ・ホプキンス大学大学院で経済学博士課程修了。81年ニューヨーク連邦準備銀行に入行。国際調査部、外国局などで活躍。84年から野村総研に入社。「ロサンゼルス・タイムズ」のコラムニスト、早稲田大客員教授のほか、公職として経済審議会専門委員、防衛研究所防衛戦略会議委員も務める。テレビの激論番組などにも出演する論客。95−97年人気アナリストランキング・エコノミスト部門1位(日経金融新聞)。
ZAKZAK 2002/11/06