安岡正篤先生  特別講話
                      その五
            徳永記録

人間の長所、短所
「渦福は糾あざなえる縄の如し」とは人間世界の真実で、よく言いますように長所と短所というものもそうで、長所と短所というものが別々にあれば始末がいいが、
実際は長所が短所であり、
短所が長所である。

だから短長補短、長を採って短を補うというけれども、
そう簡単にはゆかぬ。
なにしろ長所が短所であり、
短所が同時に長所なんだから、
長所を生かそうと思うと短所も伸びてくる。
短所をなんとかしようと手を入れると、ついでに長所も却って
だめにしてしまう。

そこで人間の事業とか、或は政治とかいうものは非常に難しい。
それと同じことで、幸福を願っていると幸福がかえって禍になる、禍かと思っていると、それがとんだ幸福を伴う。
     (男子志を立つべし)

英雄も然り
三国の群雄にしても、悪戦苦闘しておる時に一番意義があり、また本人も真価というか、天分というものを養っておるのでありまして、彼らの成敗利鈍というものは、多く彼らが得意の時に問題を惹起している。
   (男子志を立つべし)