美しい日本歌   梁塵秘抄ーりょうじんひしょう
平成17年2月

 1日 梁塵秘抄は、平安時代の後期にはやった今様(いまよう)の歌謡を後白河法皇が選んでまとめた歌謡集。

今様(いまよう)とは7・5か8・5の4句形式の歌謡のことで平安末期の今様(いまよう)・催馬楽(さいばら)・神楽そのほかの歌謡を分類したもの。

 2日 1179年(治承3)頃成立。もともと歌詞10巻と口伝10巻の計20巻からなる。 今様五百数十首は,秀れた抒情性をもち,法文歌と四句神歌・二句神歌とに分けられる。
 3日

法文歌は,浄土教の興起とともに,布教の具として用いられた。四句神歌・二句神歌とは,定型にとらわれない,世俗の民謡といったもの。

口伝集は,法皇50歳ごろのもので,今様の芸をきわめた名人としての自負のもと,今様修練の経過などが記されている。

 4日

「梁塵」ということばは,中国の故事から来ているいい方である。美声の持ち主がいて,その声により梁(はり)の塵(ちり)が,舞いたつという。

全盛をきわめた今様も,時代が下り13世紀以降には,早歌などに,とってかわられてゆく。
 5日

中世の流行歌「今様」を後白河院が編んだ「梁塵秘抄」に登場するのは遊女、傀儡子、博徒、修験僧など秩序の外側に生きる人々だった。

分けても、歌と舞いを生業として諸国をめぐる「遊女」の口の端にかかったとおぼしき歌は多い。遊びの歌、男女の歌、日常の喜びや悲しみの歌、思いをいかにも生き生きとリズミカルに表現する歌の数々。
 6日

「一首一首の前で立ちどまり、そのことばを吟味しながら、できるだけゆっくり作品を享受し経験する」

それにより、精確な読みの向うに、不思議に明るい日本の風土が見えてくると云われる。
 7日

長歌―祝 

そよ、君が代は千世に一たびいる塵の白雲かかる山となるまで 

 8日

そよ、我やどの梅の立枝や見えつらん思ひのほかに君が来ませる 
9日 そよ、我やどの池の藤浪さきにけり山ほととぎすいつか来なかん
10日

そよ、秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞ驚かれぬる 
11日

そよ、神無月ふりみ降らずみ定めなき時雨ぞ冬のはじめなりける
12日

古柳―春

そよや、こ柳によな、下り藤の花やな、さき匂えけれ、えりな、むつれたはぶれや、うち靡きよな、青柳のや、や、いとめでたきや、なにな、そよな。
13日

今様―春

新年はるくれば、門に松こそたてりけれ、松は祝のものなれば、君が命ぞながからん。
14日

仏歌

釈迦の正覚なることは、この度初めと思ひしに、5百塵點劫よりも、彼方に仏と見え給ふ。
15日

仏歌

弥陀の誓ぞたのもしき、十悪五逆の人なれど、一たび御名を称ふれば、来迎引接疑はず。

16日

普賢経

積れる罪は夜の霜、慈悲の光にたとへずば、行者の心をしづめつつ、実相真如を思ふべし 

17日

方便品

我等が宿世のめでたさは、釈迦牟尼仏の正法に、この世に生れて人となり、一乗妙法きくぞかし。

18日

提婆品

常の心の蓮には、三身仏性おはします、垢つききたなき身なれども、仏になるとぞ説きたまふ。
19日

観音品

観音深く頼むべし、弘誓の海に船浮かべ、沈める衆生引き乗せて、菩提の岸まで漕ぎ渡る。
20日

神分

熊野へ参らむと思へども、徒歩より参れば道遠し、すぐれて山きびし、馬にて参れば苦行ならず、空より参らむ羽たべ若王子。
21日

僧歌

―ひじりーの住所はどこどこぞ、箕面よ勝尾よ、播磨なる書写の山、出雲の鰐淵や日の御崎、南は熊野の那智とかや。
22日

雑歌

女の盛りなるは、十四五六歳二十三四とか、三十四五にし成りぬれば、紅葉の下葉に異ならず
23日

神社歌

千はやぶる加茂の社の姫小松、萬代までに色は変わらじ。
24日

松尾

ちはやぶる松の尾山の蔭見れば、今日ぞ千年のはじめなりける
25日 春日 めづらしき今日の春日の八乙女を、神も嬉しと偲ばざらめや
26日

大原

大原や小塩の山も今日こそは、神代のことも思ひ知るらめ
27日 住吉 住吉の松さえ変るものならば、何か昔のしるしならまし 
28日

熊野

紀の国や牟婁の郡におはします、熊野両所は結ぶはやたま