美しい日本の歌・歌・歌・歌 西行ーさいぎょうー 平成16年3月
「願はくば花のしたにて春死なむそのきさらぎの望月の頃」
知らぬお方はあるまいと思うほど人口に膾炙された歌である。私は、なぜそのように死ねたのか、大変興味があり、何時の日にか文献を漁り調べたいと永年思い続けていた。私にはそれに迫る一つの思いがある、それは「食事を数年に亘り節制し減少して狙いをつけたのではないか」という事であった。西行にとり桜は待賢門院そのものであり、桜の下に死にたいとの思いではないかと。
1日 | 出家 | そらになる心は春の霞にて世にあらじともおもひ立つかな |
23歳頃、強い心に転化して行く春霞のような心か。 |
2日 | 恋歌 | いとほしやさらに心の幼なびて 魂切れらるる恋もするかな |
西行は生臭坊主、然し虚空の如き心を求めるのも強烈。 |
3日 | 心定まらず | 世の中を捨てて捨てえぬ心地して 都離れぬわが身なりけり |
捨て切れない心は自然、ここに西行らしさがあるのか。 |
4日 | 桜 | 吉野山こぞの枝折―しおりーの道かへてまだ見ぬかたの花をたづねん | 西行には吉野山の歌が多い。 |
5日 | 待賢門院への思い |
花に染む心のいかで残りけむ捨てはててきと思ふ我身に |
待賢門院は西行には終に桜と同化したのかも。 |
6日 | 嵯峨の草庵 | 小倉山ふもとに秋の色はあれや 梢の錦かぜにたたれて |
西行の草庵の風景であろうか。 |
7日 | 再び待賢門院 | 紅葉みて君がたもとや時雨るらん むかしの秋の色をしたひて | 生前に秘めていた恋慕の情に慰めをか。 |
8日 | 吉野山1. |
誰かまた花をたづねて吉野山こけふみわくる岩つたふらん |
都を離れたくなかった西行も吉野に心を定着か。 |
9日 | 吉野山2. | 吉野山花の散りにし木のもとにとめし心はわれを待つらん | 花への憧れは愛する人への情熱のようだ。 |
10日 | 桜は待賢門院か |
ねがはくは花のしたにて春死なむそのきさらぎの望月の頃 |
西行の桜は待賢門院そのものではないか。 |
11日 | 大峰山三重の滝 みかさね |
身に積る言葉の罪も洗はれて心澄みぬるみかさねのたき |
仏教の三業の罪とは身・口・意 |
12日 | 熊野詣で | 木のもとに住みける跡を見つるかな那智の高嶺の花を尋ねて | 花山院の籠った庵室の跡らしい。 |
13日 | 那智の瀧 | 何事のおはしますかは知らねどもかたじけなさの涙こぼるる |
昨年末登山の那智奥山の二の滝は如意輪観音様のようであった。西行もこの瀧に感動していた。 |
14日 | 秋の夕暮れ | 心なき身にもあはれは知られけり鴫ーしぎー立つ沢の秋の夕暮れ |
秋の夕暮れに「三夕の歌」夕は、せき。寂蓮法師「寂しさはその色としもなかりけり槙立つ山の秋の夕暮れ」藤原定家「見わたせば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋ーともやーの秋の夕暮れ」 |
15日 | 心 |
こころから心に物を思はせて身を苦しむる我身成けり |
西行の心の疼きか。 |
16日 | 心 | 惑ひきて悟り得べくもなかりつる心を知るは心なりけり |
肺腑が抉られるようである。 |
17日 | 出家 |
惜しむとて惜しまれぬべきこの世かは身を捨ててこそ身をも助けめ |
早くから自己に目覚めて出家した西行の感慨か。 |
18日 |
讃岐の旅-崇徳院御陵 |
かしこまる四手に涙のかかるかなまたいつかはと思ふあはれに |
日本を呪って薨去された崇徳院御陵参拝には余程の覚悟が必要であり、その思い。明治天皇は勅使を派遣され収まった。 |
19日 | 伊勢大神宮 | 榊葉―さかきばーに心をかけん木綿―ゆふーしでて思へば神も仏なりけり | 木綿をかけた榊葉に心を込めて祈ると、このような心になるのか。 |
20日 |
富士山 |
風になびく富士のけぶりの空に消えてゆくへも知らぬわが思ひかな |
明澄でなだらかな調べがある。 |
21日 |
虚空の心 |
おろかなる心の引くにまかせてもさてさはいかにつひの思ひは |
新古今集にある。死ぬ時の覚悟を自問自答。 |
22日 | 花ー大峰山にて |
春ごとに花に心をなぐさめて六十路―むそじーあまりの年を経にける |
毎年、吉野界隈を訪れた、桜と共に老いていく自分を歌ったのか。 |
23日 | 大峰の月 | 深き山に澄みける月を見ざりせば思出もなき我身ならまし | 岩の上に座して修行した時であろうか。 |
24日 |
熊野 |
霞しく熊野がはらを見わたせば波のおとさへゆるくなりぬる | 田辺あたりの海岸の磯馴松あたりで見渡したのであろうか。 |
25日 | 陸奥の衣川 | とりわきて心も凍みて冴えぞ渡る衣河見に来たる今日しも |
数年前、衣川を見たことがあり、それを想起した。 |
26日 |
江口の里 |
かりそめの世には思をのこすなとききし言の葉わすられもせず |
遊女の返歌―髪おろし衣の色はそめぬるになほつれなきは心なりけり |
27日 | 吹上ー紀ノ川の歌枕 | 天降る名を吹上の神ならば雲晴れ退きて光あらはせ | 雨宿りした神社で歌らしい。 |
28日 | 高野 |
雲につきてうかれのみゆく心をば山にかけてをとめんとぞ思ふ |
浮かれる心を山のように不動にしたい西行か。 |
29日 | 不動の心 | 籬−ませーに咲く花に睦れて飛ぶ蝶のうらやましくもはかなかりれり |
孤独な道を歩む西行も、終に心は動じない。 |
30日 | はかなさ |
さらぬだに世のはかなさを思ふ身に鵺―ぬえーなきわたるあけぼのの空 |
人の世のはかない定めを歌った。 |
31日 |
心の詩人 |
ともすれば月すむ空にあくがるる心のはてを知るよしもがな |
精神力で生き抜いた西行に同感することしきり。 |