山田無文老師・現代意訳「般若心経」 

偉大なる智慧の真理を自覚する肝心な教え 

自由に真理を観る眼の開けた菩薩は、その深い英智に依って、肉体も精神も、すべて空であると達観して、一切の苦悩災厄から免れる。 

舎利(しゃり)(ほつ)よ。

肉体は、空を離れては無い、空は肉体を離れては無い。

「肉体はそのまま空」であり、「空はそのまま肉体」である。

感覚も想念も意欲も、或は自我という精神組織も、みなその通りである。 

舎利弗よ。

 すべては空であるから、生ずるということも無けれ

ば、滅することも無い。(よご)れもしなければ、奇麗にもならない。増えもせねば減りもせん。だから空の中には、肉体も無く、感覚も想念も意欲も自我も無い。眼も無く、耳も無く、鼻も無く、舌も無く、(からだ)も無い。色も無く、香も無く、味も無く触れられるものも無く、想われるものも無い。

(かっ)て見た世界も無ければ、(かっ)(おも)うた世界も無い。盲目的本能も無ければ、盲目的本能の無くなることも無い。

また老死の苦しみも無ければ、老死の()の尽きることも無い。苦悩も無ければ、苦悩の(もと)である(どん)(あい)

も無い。苦悩からの救いも無ければ、そのための修業も無い。

知ったというものも無ければ、得たというものも無い。本来、得らるべき何ものも無いからである。

菩薩方は、このような徹底した英智に依って、心中何のこだわりも無い。

こだわりが無いから、恐怖も無い。

恐怖が無いから、あらゆる混迷(こんめい)邪見(じゃけん)想念(そうねん)から救われて、永遠に静寂なる境地を得られる。

三世(さんぜ)の諸仏も、この偉大なる英智に依って、その尊厳なる普遍的人格を自覚されたのである。

だから、この偉大なる英智こそ、最も神秘的な呪文(じゅもん)であり、最も光輝ある呪文であり、地上最高の呪文であり、他に比類なき呪文である。

この呪文が世の一切の苦難を排除することは、まさしく真実であって、一点の虚妄(きょもう)も無い。

 では、その偉大な英智の呪文を示そう。

    救われた。救われた。

完全に救われた。

    みんな完全に救われた。

 ここがお浄土だつた。
                            完

             平成19年10月12日 記す 
             徳永日本学研究所 代表 徳永圀典