〜中学生の皆さんへ〜

子供の頃からの食生活・生活習慣と成人病

1998.12.5 鳥取生協病院小児科 森田元章
(鳥取東中にて)

はじめに
 皆さんは自分の一生について考えたことがあるだろうか。
 これから大人になって、それぞれいろんな職業について社会に出て行くには、体が元気であるということが前提になる。健康を害していたのではせっかく持った能力も十分に発揮できないことになってしまう。
 ここにいる多くの人は、長生きの話なんて、お年寄りや、人生の半ばを過ぎた中年の人が聞く話だとみんな思っているかもしれない。
 でも、困ったことに、昔は歳をとらないとかからないと思われていた病気、例えば糖尿病や心筋梗塞などが、最近では若いうちから出てしまう人がだんだん多くなっているのだ。中には子供のうちから糖尿病などの成人病が出てしまう人もある。私は小児科の医者だが今糖尿病の人を何人か見ている。みんなの周りには、気をつけないと寿命を縮めたり、若くして成人病を引き起こす誘惑がいっぱいある。それで、今日は食生活と生活習慣について話をさせてもらうことにした。
 一言でいうと、悪い食習慣と生活習慣は、老化を早く進めるのだ。
 今、みんなは若いし、小さいころにはよく風邪を引いて医者にかかった人でも元気になっていると思うし、ほとんどの人が病気らしい病気は持っていないと思う。実は、中学生、高校生のころというのは人生の中で、もっとも病気が少ない時期なのだ。
 でも、皆さんのお父さんやお母さんはどうだろうか。一見元気そうに見えても、そろそろ何か病気の一つや二つは持っていたり、病気ではなくても検査で異常があるといわれた人は多いと思う。また、おじいさんやおばあさんになると、病気を持っていない人を探すほうが難しくなる。
 生き物には、みんな老化というものがある。人間だって同じだ。老化はだんだん病気として現われてくる。時には突然やってくる。今日は、みんなが大人になっても元気で活躍できるように、健康についての話をする。学校では習っていないような話もするかもしれないが、常識として知っておいてほしい大事な話なのでよく聞いてほしい。

1.人の寿命について
 寿命というのは生き物の種類によって大体決まっている。ヒトは最大110〜120歳くらいまでしか生きられない。泉重千代さんは120才まで生きた。今、日本で最高齢の人は113才だそうだ。有名な人では金さん銀さんが106?才だ。
 犬は20〜25年、猫は35年、象は70年、大サンショウウオは100年、鯨は130年だそうだ。鳥類が意外に長くて、烏や鶴は60~70年、コンドルは100数十年生きるそうだ。
 日本人の平均寿命は現在世界のトップレベルにあって、男77.01才,女83.59才(1996年統計)である。
 ところで、人はどんな病気で死ぬのか。日本人の死因で多いものを調べてみると、
 全年齢では……1位:悪性新生物(がん),2位:脳血管疾患(脳卒中),3位:心疾患(心臓病)。これを日本人の3大死因という.
 これを少なくできたら,人の寿命はもっと伸びるはずだ。だが、ここにいる皆の世代が老人になったとき、ここまで長生きができるのかどうか、怪しいといわれている。それは、皆の食生活や生活習慣が、これから話す成人病を起こしやすいものになっているからなのだ。

2.成人病とは
 成人してから多くの人がかかる病気のことだ。例えば,糖尿病,高血圧,高脂血症.心筋梗塞,狭心症,脳卒中,がん,骨粗鬆症などで、これらはみんな老化に基づく病気である.
 みんなはまだ中学生だし、若いと思っているだろうが,身体の中ではすでに老化が始まっている.背が伸びるなど成長している部分もあれば、血管等のように老化が始まっている部分もあるのだ。
 老化というものには大変個人差がある。80才を超えても20才の人と変わらない心臓や脳を持っている人もいれば、30代や40代でも老人のような病気を持っている人もある。老化というのはどんなふうにに現われてくるのだろうか。外見からいうと、腰が曲がる、しわが増える、白髪が増える、染みができるなどだ。機能の面からいうと、思考力の低下、視力、聴力の低下、代謝の衰え、血圧が上がる、腎機能が低下する、筋力が衰える、生殖力の衰えなどがある。これらにも大きな個人差がある。

 代表的な病気について説明しよう。
(1)糖尿病は膵臓という内蔵の老化に基づく病気
 おしっこの中に糖が出る病気.糖が出ること事体は問題ないが,いろんな病気をひき起こす原因になる.目が見えなくなる.腎臓が悪くなる.神経がうまく働かなくなる.そして、動脈硬化を促進する。
 若いうちはみんなインスリンというホルモンがよく出るので問題ないが,いろんな条件が重なると,加齢とともに膵臓のインスリンを出す働きが落ちてしまう人がある.
 インスリンは血液中の糖を細胞の中に取り込んで血糖を下げる働きがある.
 インスリンが十分出なくなると血糖が高くなり,糖尿病になる.糖尿病になると、老化が早まってしまう。今、糖尿病の人は全国に300万人いるといわれているが、ちゃんと調べれば1千万人以上いるといわれている。

(2)狭心症,心筋梗塞,脳卒中などは血管の老化に基づく病気
 具体的には血管の老化は動脈硬化という形で進んでいく. 
 動脈硬化が進むにつれて,動脈の管の中がだんだん細くなり,ぼろぼろになっていく.糖尿病があったり、血圧が高かったり、コレステロールが高いと動脈硬化が進む。
 心筋梗塞や脳卒中はそのなれの果てである.
 人間が若さを保つ秘けつは若々しい血管を保つことだといってよい.

(3)がんも免疫力の老化に基づく病気
 がんとは役に立たない細胞がどんどん際限なく増えていき、人のからだと栄養を食いつぶして生命を奪っていく病気である。最近の研究によると癌細胞というのは誰の体の中にもしょっちゅう生まれているが、体に免疫力があるとそれをやっつける仕組みが働いている。老化によってそのはたらきが低下すると癌が起こってくるのだといわれている。

(4)骨粗鬆症は骨の老化による病気
 骨には二つの重要な働きがある.1.身体を支える 2.身体のミネラルの調節をする
カルシウムが不足していると骨粗鬆症が起こってくる.骨折しやすくなる.腰が曲がる.
女性は閉経期を過ぎると,骨の中のカルシウムが急速に失われていくので男よりも早く腰が曲がる.しかし80才くらいになると男も変わらなくなる.

3.成人病は予防できる
 成人病は,いま生活習慣病と呼ばれるようになった.日常の生活ととても関係が深いからである.
(1)糖尿病を防ぐには
 一般に子どものうちから成人型の糖尿病になる人は大変少ないが、たまには中学生や高校生からでも糖尿病になる人がある.家系に糖尿病の人があって太っている人は正常の体型に近づけるよう努力をしてほしい.
 将来糖尿病になっていく人は大変多いわけだから、子どものうちからカロリーのとり過ぎにならないような食習慣を身につけておくことだ。大人になってからではなかなか治せない。
 もう一つは日頃から面倒がらずに体を動かす習慣を身につけておくことだ。スポーツするのも大変よいことだ。

(2)血管の老化を防ぐには
 まず、食べ過ぎないこと
 スナック菓子、ジュース類をたくさん取り過ぎないこと。肉だけでなく魚をよくとること.野菜を食べること.等が大事だ。インスタントものに便り過ぎない食事にすることだ。インスタントものは塩分が多かったり、添加物がたくさん入っていることが多いから、なるべく家で料理したものを食べるほうがいい。
 厚生省は1日に30品目以上の食品をとるよう勧めている。実際にはなかなか大変だが、これに近づくようにすれば血管の老化は防げるだろう。
 適度に運動すること.
 たばこを吸わないこと……たばこは血管を収縮させるので危険.
 塩辛いものを多くとらないこと.塩辛いものを多くとると高血圧になりやすいことは以前から知られている。

(3)がんを防ぐには
 今、日本人では,大腸癌,肺癌が増えている.
 まず、たばこを吸う習慣をつけないことだ。
 タバコは習慣になるとやめられなくなる.大人になって健康に悪いからやめようと思うけどなかなかそれができなくて苦労している人は私達の周りにもたくさんいる.
タバコというのは嗜癖性がある.つまり,習慣になって止められなくなるのだ.だから、はじめから吸わない方がいい.初めての時は吸うと咳き込んでしまってうまく吸えないが,練習しているとだんだん深く吸えるようになる.そうすると止めようと思っても止められなくなってしまう.もし今,興味本位で吸っている人があれば,今のうちに止めておこう.
 タバコの害はたくさんある.第1は直接煙を吸い込む呼吸器系に害が起こる。長年吸い続けていると肺胞が壊れて肺気腫という病気になる。肺の中のガス交換をするところの面積が狭くなっていくのだ。第2は、みんなよく知っているように、がんにかかりやすくなる。10代からたばこを吸い始めると影響は大きく、吸わない人に比べて肺癌が5.7倍,喉頭癌が34.5倍多く発生する.肺や喉頭の癌ばかりではない。胃腸、膵臓、膀胱などの癌も増える。第3は心筋梗塞や脳血栓の原因になる.たばこを吸う人ではコレステロールを増加させる。また、たばこを吸っている人では、コレステロールが高くないのに心筋梗塞が起こることがある。たばこの主成分であるニコチンは血管を収縮させる働きがあるからだ。第4は妊娠中の女性で、赤ちゃんを流産したり、未熟児が生まれたりする原因にもなる。さらに、胃や十二指腸潰瘍の原因にもなる。まだまだ、たばこの害は数え切れないくらいある。
 また、みんなは受動喫煙という言葉を聞いたことがあると思う。自分はたばこを吸わないのに身近に吸っている人がいると、煙を吸わされて健康被害を被ってしまうというものだ。親がたばこを吸っていると、その子供は風邪や中耳炎になりやすくする,さらに家族の喫煙は赤ちゃんの突然死の危険因子としても挙げられている.夫がたばこを吸っているとその妻はたばこを吸っていなくても肺癌にかかって死ぬ率が、たばこ1日19本以下の人で1.5倍、1日20本以上吸う人で1.9倍高くなるという報告もある。こうなると、みんなは結婚相手を選ぶときはたばこを吸う人は避けたほうがいいかもしれない。
 最近では嫌煙権ということがいわれるようになり、乗り物や公共の施設では禁煙の箇所が増えてきたことはいいことだ。でも、大人の世界ではまだまだたばこを吸う人は多い。禁煙を啓蒙しなければならない医者や看護婦の中にもたばこを吸う人が多いのも困ったことだ。一旦たばこを吸う習慣がついたらやめるのがそれだけ難しいということだ。だから、初めから吸わないのが一番いい。
 日本のタバコには「吸い過ぎに注意しましょう」と書いてあるだけだが,欧米では「害があります」とはっきり書いてある.
塩辛いものを多くとらないこと.胃癌が増える.
肉類をとり過ぎないこと.大腸癌が増える.線維を多くとっていると大腸癌は減るといわれている。

(4)骨粗鬆症を防ぐには
 カルシウムをしっかりとる.二十歳までにどれだけ強い骨が作れたかで一生が決まるといってよい.大人になってからも大事だが、骨の強さは子供の時期にほとんど決まってしまうといわれている。
 日本人がとる栄養素の中で一番不足しているのがカルシウムだ。日本人の所用量は大人で600mg、育ち盛りのみんなは900mgといわれているが、それを大きく下回っているのが現状だ。
 どんな食品の中に多く含まれているか……牛乳,乳製品、小魚,大豆製品、海草類、野菜をしっかりとることだ。
 身体をしっかり動かす.スポーツをする.しっかりスポーツをした人の骨は丈夫になっている.ただし,やり過ぎはマイナス.
 スペースシャトルの話:宇宙に行くと無重力なのですぐに老化が始まる.スペースシャトルの中ではたくさんの実験が行われた.すぐに骨の中のカルシウムが抜けてくる.向井千秋さんは医者として乗り込んだ,グレン飛行士は76才で宇宙飛行をした.あの中では老化を研究する人体実験も行われたそうだ.着陸してから飛行士がおりてくるまでに2時間くらいあった.実はおしっこや血液をとって検査をしていたらしい.
 今、みんなの中にはダイエットをしている人がたくさんいるのではないかと思う。
中学生時代は思春期と呼ばれ、体が子供から大人へと大きく変化していくときだ。また、心も大きく成長していくときだ。そういう時期は自分の顔や体のことがすごく気になるものだ。また、ほかの人が自分をどう見ているのかということもすごく気になるものだ。
 今,マスコミが,やたらやせているのが美しいと宣伝するものだから、女の子では中学生くらいになると多くの人がダイエットするようになる。でもダイエットというのは必要な人だけが健康のためにやればよいもので、だれでもかれでもがやるものではない。
 ダイエットが必要な人とは、肥満している人だ。体重が標準の1.2倍以上ある人はやったらよい。1.3倍以上ある人はぜひやってほしいし、1.5倍以上ある人は絶対にやってほしい。それは、健康のため、成人病の予防のためである。
 女子に限って標準体重の話をしてみよう。中学生女子の標準体重は身長150cmだと45kg前後、160cmだと51kg前後だ。だから、その1.2倍以上ということで、身長150cmの人は55kg以上、160cmの人は62kg以上だったらダイエットを考えてもよいということになる。だからそれ以下の人はダイエットはしないでほしい。
 だれにもやってほしいダイエットは、1日3食きちんと食べる。おやつの時間と食事の時間をきっちりけじめをつける、規則正しい生活をするといったことだ。
 女の子では、皆さんの年齢では少し太っているくらいが健康である.この大事な時期に必要無い人までダイエットをすると、将来骨折したり、腰が曲がったりということでつけが回ってくる。どうしてもダイエットをしたい人はおやつを食べるのをやめて食事をしっかりとってほしいと思う。
 男の子の中にも妙なダイエットをする人が時々ある。男の子は背を伸ばしたいという人が多い。スポーツ雑誌などを読んで、牛乳だけをがぶ飲みする人がある。ほかのものを食べると贅肉がつくからといって、牛乳だけを1日何リットルも飲んで結局痩せ細って栄養失調で入院した人もある。カルシウムは必要なだけとればよいのであって、たくさんとったから余計背が伸びるというものではない。変なダイエットをすると伸びるべき身長も栄養失調のために伸びなくなってしまうこともあるから気をつけよう。
 今みんなは一番カロリーが必要な時,お腹も一番すく時期である.くれぐれも成長期に必要もないのにダイエットをしてはいけない.
 ダイエットをし過ぎると将来骨粗鬆症が起こるだけでなく,特に女の子では生理が止まってしまう人がある.これは将来の問題どころか今の問題として重大なのですぐにでも医者にかかってほしい.

4.ストレスについて
 多すぎるストレスも早死にや病気の原因になる.健康が保てなくなる.
 動物の実験でもストレスが大きいと長生きできないことが証明されている。野性の鼠は1年8カ月しか生きないそうだが、大事に飼ってやると3年半生きるという。また、野生のメダカは1年3カ月しか生きないが研究室で大事に飼ってやると7年も生きるのだそうだ。
 心筋梗塞になる人には,競争心が激しくて短気な人が多いといわれている.のんびりした人には少ないといわれている.でもストレスが全くない人生なんてあり得ない.
 みんなストレスを感じることはあっても、ストレスをため込まないような方法を身につけてほしい。同じことでも人によってストレスと感じたり,感じなかったりすることがあるし、ちょっとのことでも大きなストレスを感じたり,ちいさなストレスですむ人もある.それぞれの人によって感じ方はいろいろある.
 ストレスをためこまない方法の一つは、思っていることや感じたことを言葉に出して相手にいうということだ。いいたい事を言わずにがまんするとストレスがたまってしまう。
ストレスがたまると他の人をいじめてしまう人もあるが,これは絶対にやってはいけない.逆に,自分の中にストレスを閉じ込めてしまうのもよくない.
 ストレスがたまっているのを我慢し続けると,身体のいろんな症状が出てくることがある.原因不明の腹痛,頭痛,発熱などわけのわからない症状が続くようだとストレスがたまっているのかもしれないから、そんな時は病院にかかって心と体を休めるのがよいと思う。無理しないことだ。

5.まとめ
では今日の話のまとめ
(1)子供の間から良い生活習慣をつけること
しっかり寝ること,
甘いもの,塩辛いもの,油ものを多くとり過ぎないようにして成人病を予防する.
カルシウムをしっかりとること.
しっかり身体を動かすこと.
不必要なダイエットはしないこと.
タバコをすすめられてもはじめからnoと言おう.
(2)上手にストレス解消をしよう
自分の考えが話せること
熱中できる趣味を持つこと
うまくストレス解消できず困ったら早めに相談すること