子どもの心の成長を考える
2000.10.29 新日本婦人の会子育て講座にて 鳥取生協病院 森田元章

1.はじめに
 皆さんは子育てを楽しんでいますか。子育ては手がかかり、時々辛いこともありますが、それでも楽しいものですね。子育ては辛いことばかりだと考える人がいたら、その方はかなり疲れていらっしゃるか、何か精神的に問題を抱えていらっしゃるかも知れません。すぐだれかに相談して、援助を受けられることをお勧めします。
 でも、今の世の中、少年犯罪、ひきこもり、不登校などと深刻な問題が多いですね。確かに、今子どもが順調に育ちにくい世の中になっています。子どもの心ってどうしたらうまく育つのでしょうか。
 本日私は「子どもの心の成長を考える」というテーマをもらいました。私は小児科の医師として27年間子供達と付き合ったり、自分の子育てを経験したりしてきました。その中から、皆さんに少しでも参考にしていただけることがあればと思い、特に乳幼児期の子育てについて、お話しします。

2.子育ての基本は野生動物に学べ
 子育てをそんなに難しく考える必要はありません。野生動物は子供を必死で危険や飢えから守ります。そして、自分でえさをとる方法を教えます。はじめは親も手伝いますが、だんだん自分でやらせます。そしてやがて親から独立させていきます。
 人間もそれと同じでいいのです。早く手を放し過ぎたり、遅くまで手をかけ過ぎたりしないように、周りの人たちがどうしているかをみて学んだら良いのです。失敗したと思ったらすぐやり直せばいいのですから、できるだけ肩の力を抜いて、子育てを楽しんで下さい。

3.乳幼児期こそうんと手間ひまをかけよう
 赤ちゃんは生まれるとすぐ自分で呼吸を始めます。これが自立のはじまりです。でも、赤ちゃんは他の動物と違って、誰も手をかけなかったら、生き続けることも、人間になることもできません。動物の赤ちゃんは生まれてすぐ歩きますが、人間の赤ちゃんは何もできない点、ちがっています。
 こんな赤ちゃんに、親たちは限り無い愛情を傾け、てま・ひまをいといません。夜泣きに悩まされたり、病気の心配をしながら、やがて心身ともに健やかな「人間」に育て上げていきます。
 生まれてから小学校入学までの6年間を乳幼児期といって、この時に人間として必要なことの芽が、ほとんど準備されるといわれています。昔の人も「三つ子の魂百まで」といって大切にしてきました。
 この時期は建築に例えれば、あまり人の目にはつかない土台の部分、基礎工事のようなものです。基礎工事こそ手抜きせず、建物の重みや風雪にも十分耐えられるように材料もたっぷり使ってがっちりと築きたいものです。
 幼いころからの健康的な生活習慣も、そのまま次の世代への土台づくりとなります。

4.赤ちゃんに親のほほえみを
 可愛い赤ちゃんの誕生。でも産後は心配もたえません。「首がすわる」「はいはいする」「声を出す」等の発達の節目を見守りながら、赤ちゃんには少しずつ新しい体験をさせていきましょう。
●しっかりだっこ
 授乳とその前後はしっかりだっこをしましょう。ほ乳びんを赤ちゃんに持たせて、一人で飲ませるなどしないようにしましょう。
●ふれあいは目から
 目と目を合わせ、穏やかな声でリズミカルに呼びかけましょう。
●わらべ歌、あやしうたなど
 声をかけながら赤ちゃんの顔に顔を近づけたり離したり、いないいないばあなどをして遊んであげましょう。あやし歌など歌ってあげるといいですね。
●歩かせる前にはいはいをたっぷり
 はらばいで手や足の力をつけ、這う、立つ、歩く。歩行器は必要ありません。
●赤ちゃんも仲間が欲しい
 赤ちゃんにも友達を作ってあげましょう。まだ一緒に遊ぶことはできませんが、関心を示します。お母さんどうしも友達になりましょう。
●赤ちゃんにテレビは不要
 強い刺激は赤ちゃんの目や耳に合いません。テレビを見ながらの授乳は赤ちゃんがおっぱいに集中できません。

5.体で学ぶできる喜び
●2歳、3歳は憎まれざかり
 このころには自分の存在(自我)が自覚できるようになります。気に入らなければ大人のいうことも聞かなくなり、「いや」「だめ」「ぼくの」と主張するようになります。こんな時、悪い子になったという心配はいりません。
 また、体や指先もだんだん自由に動かせるようになり、何よりも「ことば」が使えるようになって、活動がグンと広がってきます。「これなーに」「どうして」と好奇心が強くなり、思いもよらないいたずらをすることもあります。
 こんなとき、いらいらして結果だけを叱ることは止めましょう。
 しかし、行動を通して体で学ぶ時期ですから、食事は食事の時間にする、自分のものとそうでないものの区別をつけるなど、身につけるべき初歩的な「しつけ」はあいまいにしないで、しっかりしつけましょう。
●待てる親になろう
 5歳ぐらいまでの間に、身の回りの事が少しずつできるようになり、人間らしさの芽が出そろって成長が目立ちます。食事、洗顔、排泄、衣服の脱ぎ着、持ち物の始末など4、5歳をめざしてだんだんと自分でできるようにしむけていく必要があります。
 はじめは手を添えて教えながら、小さい努力も励ましながら、自分でさせて自信を持たせながら、少しずつ大人の手を離していきます。ここで必要なのは、へたでも、つまづいても待ってやれる心づかいです。
 毎日の生活の繰り返しの中で、子ども自身が力をつけていくわけですから、「何歳になったからできるはず」と決めつけないで、じっくり経験させ待ってやりましょう。

6.聞きたがり屋、話したがり屋の子に
 人間らしさを学ぶ一番大きな窓口は「ことば」です。赤ちゃんが自分に向けられた笑顔に笑顔で答えるのが、声はなくても、「ことば」のはじまりです。
●話し言葉は4〜5歳でほぼ完成
 遊びや生活の中での明るく気持ちのよいことばのやり取り、よい絵本の読み聞かせ、ことば遊びなどを通して言語生活を豊かにする努力がとても大切です。
 豊かなことばを身につけてこそ、よい知恵も浮かび、友達関係も深まります。
○赤ちゃんの時
ひとつ言ったら二つにして返します。「まんま」「そうおいしいまんまね」
○幼児になったら
 話し合いやだんらんの仲間に入れるようになります。子どもの話もていねいに聞いてやりましょう。大人が先回りして言ったり、してあげたりしないことです。見ただけ、指差しただけで「はいお水」とやってはいけません。わかっていてもことばで言ってくるのを待ってあげるくらいの気持ちのゆとりを持ちましょう。
 簡単なお使いや伝言をていねいに頼んでみましょう。

7.遊びは幼児の勉強
●大切な「遊び」
 幼児の生活はほとんどが遊びです。
 遊びの中で幼児が身につける知恵と力ははかり知れません。、遊びはおもしろいものです。おもしろくなかったら満身の力を込めてがんばったり、知恵をしぼったり、機転をきかせたりという力は出てきません。目的に向って作戦を練り、みんなで役割を分担し、苦しくても頑張る、そして「やったあ」と一緒に喜ぶ経験は小さい体の中にかけがえのない力を充電します。遊びの楽しさを知らずに育つことのないようにしましょう。
 お父さん、お母さんが自分の子どもだけでなく、近所の子供達にも遊びを教えてあげるといいですね。
●小さくてもみんなの役に立ちたい
 自分のしたことが誰かの役に立っているということで子どもはとても満足します。その喜びがわかった子どもは、少し嫌なことでも我慢して頑張ろう、という一段高い心が持てるようになります。

8.子どもとの遊び方
 大事なスキンシップ。照れないで。手を握ってあげたり、だっこしたり。外国映画を見ると参考になりますね。
6〜12ヶ月 いないいないばあ
1歳     やり取り遊び、模倣遊び(お母さんのお化粧のまね)(人形にねんね)
       名のない遊び
2歳     なりきりあそび(想像力が発達し現実と創造の世界の境界が明瞭でないこともある)、パズル遊び
3歳     ごっこあそび(ままごと、お店やさんごっこ、乗り物ごっこ、ヒーローごっこ)、簡単なゲーム(魚釣り、短時間のかくれんぼ)
(1)楽しさを共有すること。子供と対等の立場になって遊んでみましょう。
(2)身体を使った遊び
 抱かれ上手の子は安定しています。だっこ、おんぶ、ふとんむし、すもう、プロレス、肩車、おしくらまんじゅうなど、3歳までにたくさん経験させましょう。
 
9.しかるとき
 幼児期になると、危険なことや悪いことに対して叱らないといけないことも出てきます。いけないことをした時はすぐその場で叱りましょう。後になってから叱ってもあまり効果がありません。
 強く叱った後のだっこ… 自分の存在自体が否定されたのではないことを確認させてあげましょう。だっこによって親子関係の修復ができます。
 しつけは親の役目です。他人に任せてはいけません。しつけというのは、信頼している人からされるから効果があるのです。
 1日中ガミガミ叱っていると、効果がなくなります。叱るべきこととそうでないことを区別しましょう。その方が親のストレスも少なくてすみます。

10.しかるよりほめる
 子供に何かを身につけさせたい時、しかるよりほめてやらせた方が上手くいきます。スポーツの世界でも一流選手を育てるにはメンタルな面をどう扱うかが大きなテーマになっています。名監督といわれる人は選手をほめて良い点をのばす術に優れています。日本人は照れ屋が多いので、一般にほめるのがうまくありません。こどもを上手にほめる親になりたいものです。

11.勉強について
 余りにも早くから知識を教え込もうとするのは、問題です。土台ができてないのに家を建てるようなものです。心理学の専門家も次のような事を言っています。
●見える力より見えない力(創造的想像力)が肝心
(1)自分から本当にやろうとしないと自分の力にはならない。
(2)自分で関心を持ったことはあっという間に習得してしまう。
(3)問題なのは文字を書けるかどうかではなく、文字で表現したくなるような内容の育ちである。
●将来伸びていくにはどうしたらよいか
(1)未来志向性
 将来に夢を持ち追求する心。「大きくなったら何になりたい」ときいてみる。何かある職業等をあげる子は健康。「わからない」「知らない」等と答える子の心は不健康。
(2)自己肯定視
 自分自身を肯定的にながめる。「僕はこういうことをやったことがある。こんなこともできる。」自信が持てる子は非行に走りにくい。
 達成感(あることを自分でやり遂げる)を経験させることが大事。4歳の子であれば、「顔を洗えてよくできたね」とほめてあげる。お手伝いなどをして達成感を味わう。買い物など子どもに任せてみる。役に立つ子どもというプライドを持たせることができる。
(3)ことばの発達
 親は読むことと書くことに熱心だが、そうではなく、「話すことと聞くこと」が早くから大事。話すこと、聞くことは幼児期 に基礎が作られる。
 子どもが一生懸命話すことを一生懸命聞いてあげること。自分だけが知っていることをことばで伝えるのはとても大事な能力である。この能力があれば、将来いじめられることはあっても、いじめ抜かれることはない。
(4)知ることのおもしろさを教える
 就学前に知的好奇心を持たすことができれば大成功。子どものさまざまな質問にていねいに答えていく事が大切である。

12.親も友達を作ろう
 今の日本の子どもは人間関係が希薄になってきています。小さいうちから多くの人と交わる経験をさせたいものです。きょうだいが多いと自然に人間関係が学べますから、できればたくさんの子どもを産んで下さい。
 子どもの心の発達には、何よりも親に愛されていること、そして親が子どもを育てることに喜びを感じていることが大切です。自分の育った家が楽しいと感じられるようになるといいですね。
 ひとりぼっちで子育てをするお母さんが多くなっています。育てる親の側の心が安定していないと、子どもの心は不安定になります。子育ては何といっても両親の共同作業ですから、両親で協力しあうことです。気持ちの上で、辛い子育てにならないよう、気のあう親同士、友達を作りましょう。そうすれば、こどもも多くの友達を作ることができます。そして、何よりもおしゃべりは最良の精神安定剤です。積極的に親同士が語り合える機会を作りましょう。