子どものための新しいワクチン紹介
鳥取医療生協新聞2010.5月号〜7月号に掲載

せいきょう子どもクリニック 森田元章

 ワクチンは病気の予防のために大きな威力を発揮します。最近3種類の新しいワクチンが小児に接種できるようになりました。大切なお子様にぜひ受けていただきたいワクチンです。これから3回に分けて、それらのワクチンの紹介をします。

(1)ヒブワクチン  (2)小児用肺炎球菌ワクチン  (3)子宮頸がん予防ワクチン


(1)ヒブワクチン

 先ず第1回目はヒブワクチンの紹介です。

 ヒブというのは、ヘモフィルス属インフルエンザ菌b型という細菌の略称です。毎年冬に流行するインフルエンザとは別のものです。ヒブはありふれた常在菌の一種で、日常的に私たちの鼻やのどに居ついたりいなくなったりを繰り返しており、唾液や鼻水などを介して、周囲の人に感染します。

免疫力のない乳幼児の場合は、ヒブが鼻やのどから体の中に侵入して重い感染症を起こすことがあります。

 ヒブによる重症感染症の代表は、細菌性髄膜炎、急性喉頭蓋炎、菌血症です。なかでもヒブによる細菌性髄膜炎には日本では毎年約600人の乳幼児がかかっていると推定され、2〜5%が死亡、治っても後遺症(運動麻痺、言語障害、難聴など)を残す子が15〜30%いるといわれています。ヒブは子どもの細菌性髄膜炎の原因菌のナンバーワンで約55%を占めます(図1)。

図1

 髄膜炎は脳や脊髄を覆っている膜にウイルスや細菌が感染して起こる炎症です。毎年夏を中心に多くの子どもがかかるウイルス性髄膜炎は点滴と安静で治るたちの良いものですが、細菌性髄膜炎は子どもの感染症の中では最も重症の感染症です。しかも、早期診断が難しく、進行が早いのでやっかいです。

 ヒブワクチンは、細菌性髄膜炎の原因菌の中で一番多いヒブによる髄膜炎から子どもたちを守ってくれます。

 ヒブワクチンは接種を開始する月齢、年齢によって接種回数が異なります。生後2ヶ月から接種を開始することができ、生後6ヶ月までに接種を開始する場合は1ヶ月毎に3回接種を行い、最後の接種から1年後にもう一度接種を行います。生後7ヶ月から11ヶ月で開始する場合は、2回接種した後、1年後にもう1回接種、1歳以後に接種する場合は1回のみの接種となります。

 ヒブによる細菌性髄膜炎にかかるのは乳児期が多いので、早期から接種することが勧められます。5歳以上になると自然に免疫ができてきてヒブによる髄膜炎は起こらなくなりますので、ヒブワクチンの対象は4才以下とされています。

 ヒブワクチンは欧米諸国では1990年前後から定期接種に組み込まれていて、細菌性髄膜炎を大きく減らしています。途上国でも定期接種に組み込まれているところはたくさんあります。日本は遅れること約15年、2008年12月から国内でも接種できるようになりました。しかし、残念ながら日本ではワクチンが製造されておらず、輸入に頼っています。しかも輸入量に制限があるため、予約をしてから早くても1ヶ月以上待たないと接種できません。医療機関によっては数ヶ月待ちになっているところもたくさんあります。

 任意接種なので有料です。当院では1回8000円で接種しています。自治体によっては接種料金を助成しているところもありますのでお確かめください。早く国の制度として定期接種に入れてほしいワクチンです。

 せいきょう子どもクリニックでは2009年1月から接種を開始し、2010年3月までに72人のお子さんに接種しました。接種のお申し込みはせいきょう子どもクリニックに直接お越しの上、書面でいただいています。

(2)小児用肺炎球菌ワクチン

 前回はヒブワクチンについて説明しました。今回は小児用肺炎球菌ワクチンについてのお話です。

小児用肺炎球菌ワクチンは細菌性髄膜炎など、肺炎球菌による重い感染症を予防する、子ども用のワクチンです。このワクチンは国内では2010年2月に承認され、せいきょう子どもクリニックでは2010年5月から接種を開始しました。

 肺炎球菌は、多くの子どもの鼻やのどにいる、身近な菌です。普段はおとなしくしていますが、子どもの体力や抵抗力が落ちたときなどに、いつもは菌がいないところに入り込んで、いろいろな感染症を引き起こします。

肺炎球菌はその字のごとく小児の肺炎の原因になることもありますが、前回説明したヒブ*と同様、小児の細菌性髄膜炎の原因になることがあります。小児の細菌性髄膜炎の原因菌としてはヒブに続き第2位で、約20%を占めます(図1)。日本では毎年約200人の子どもが肺炎球菌による髄膜炎にかかり、うち3分の1くらいが命を奪われたり、重い障害が残ったりしています。

 また、この菌は細菌性髄膜炎だけでなく、集団保育に入るとしばしばかかる中耳炎、肺炎、菌血症(血液の中に菌が入り込む)などの原因にもなります。

 肺炎球菌もインフルエンザ菌も抗生物質に耐性化(細菌が抗生剤に抵抗力を作って薬が効かなくなる)が進んでおり、これらの菌に対抗するにはワクチンを接種するのが一番よいのです。

 前回説明したヒブワクチンと一緒に接種することにより、細菌性髄膜炎から子どもたちをよりいっそう守ることができます。

 肺炎球菌ワクチンは、生後2か月から9歳まで接種することができます。標準的な接種スケジュールは、生後2~6ヶ月に第1回目の接種を行い、1ヶ月ごとに3回接種します。そしてさらに生後12〜15ヶ月の時に4回目の接種をします。標準的な接種のしかたができなかった場合は、生後7〜11ヶ月で接種を開始した場合は合計3回、1歳で接種を開始した場合は合計2回、生後2〜9歳で接種をする場合は1回のみの接種となります(図2)。

肺炎球菌による髄膜炎は約半数が0歳台でかかり、それ以降は年齢とともに少なくなりますが、5歳くらいまでは危険年齢といわれています。しかし、5歳を過ぎての発症もあります。ヒブワクチン同様2ヶ月になったらなるべく早く接種することが望まれます。

 2000年から定期接種しているアメリカでは、ワクチンで予防できる肺炎球菌による重い感染症が98%減ったといわれています。すでに世界の多くの国で定期接種されています。

 このワクチンはヒブワクチンと違って供給量は十分あり、他のワクチンと同様、予約をしていただけば数日以内に接種することができます。

 問題は価格です。せいきょう子どもクリニックでは1回につき1万円(ただし組合員価格)で接種しています。こうしたワクチンは任意接種ではなく定期接種に入れて、公費で接種できるよう、国に働きかけていきましょう。

 なお、従来から高齢者に接種されている肺炎球菌ワクチンとは異なりますので、混同しないでください。

(*ヒブ ヘモフィルス属インフルエンザ菌b型)

 

(3)子宮頸がん予防ワクチン

 がんの中には感染症と深い関わりのあるものが存在することが最近の研究でわかってきました。胃がんとピロリ菌の関係もそうですが、子宮頸がんもウイルス感染が原因になっていることがわかってきたのです。2009年10月子宮頚がん予防ワクチンが国内でも承認されました

 子宮がんには子宮体がんと子宮頸がんがあります。子宮頸がんは子宮の入り口のところにできるがんです(図1)。日本では1日に約10人が子宮頸がんで亡くなっていると言われています。また、がんというとお年寄りの病気と思われがちですが、子宮頸がんは20〜30代の女性では一番多いがんであり、30代が発症のピークだと言われています。

 子宮頸部の粘膜に発がん性ヒトパピローマウイルスというウイルスが感染することにより、感染した人の一部から子宮頚がんが発生します。感染してもほとんどの人は一定期間の後にウイルスは排除されるので大丈夫なのですが、一部の人でウイルスが住み着き、持続感染によりさらに一部の人でがん化が起こると考えられています(図2)。このウイルスは一度体内から排除されても何度も感染することがあるため、ワクチンを接種して次の感染を防ぐことが大切になります。

 このウイルスは性交渉によって感染しますので、10歳以上の女性がワクチンの対象とされています。小児科のクリニックが子宮頚癌ワクチンを取り扱うのは、初めての性交渉前に予防接種を済ませておくことをお勧めするからです。

 このワクチンの接種によって、発ガン性のあるヒトパピローマウイルスが侵入してきても体内から排除できる仕組みを作ることができます。

 ワクチンは6ヶ月の間に3回接種します。効果は20年以上持続すると推定されています。

 ただし、このワクチンをしておけば子宮頸がんを100%予防できるかというと、そうではありません。発がん性を持つヒトパピローマウイルスにはたくさんの型があり、その中で16型と18型という2つの型が原因の60%を占めています。現在の子宮頸がん予防ワクチンはこの発がん性ヒトパピローマウイルス16型、18型の2つのウイルス感染を防ぐように作られており、全ての型の発がん性ヒトパピローマウイルスの感染を防ぐものではありません。また、ワクチン接種前に発症している子宮頸がんや全がん病変をワクチンで直すことはできません。

 したがって、ワクチン接種した後も定期的な子宮がん検診の受診が必要です。

 当院では2010年4月からこのワクチンの接種を開始しましたが、10代のお子さんよりお母さん方の接種の方が多いのが現状です。中学生、高校生くらいのお子さんにも、もっと受けていただきたいと考えています。

 このワクチンもやはりお値段が高いです。せいきょう子どもクリニックでは組合員価格で1回15000円です。3回接種しますので、合計45000円が必要です。

 こうした命を守るための大切なワクチンが、お金がなければ受けられないというのでは先進国とは言えません。細菌性髄膜炎を予防するためのヒブワクチン、肺炎球菌ワクチンなどとともに、全国民が国の負担で受けられるような制度をつくるべきだ、と私は思いますが、皆さんいかがでしょうか。