真島さんに何と呼ばれたいですか?
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*何も記入しない場合、青山美香になります。



Mr. G

「これからは、時々メシ作りに来てくれや」
そう真島さんに言われたあの日から一ヶ月が経った。私は週三回、彼の家へご飯を作りに通っている。彼の高層マンションは新築で生活感がなくショールームのよう。築十年の私のマンションとは大違いだ。

今夜、私は真島さんが大好きなから揚げを多めに作っていた。
「これやったら、から揚げ一個で白メシ一合は食えるでぇ」
「もう。大げさだよ」
目を細めながら、ご飯を頬張る真島さんを見ていると、思わず箸が止まって、胸が幸福感で満たされる。結局、大きなお茶碗にご飯三杯とから揚げを私の分まで食べた真島さんは、
「あ〜、食った、食った。ほな、今日は皿洗ったるからなあ」
と、ニカッと笑いながら言い、目の前のお皿をガチャガチャと重ねていく。
「いいよ!真島さん、仕事で疲れてるし、私がする!」
「ええて。は座っとき」
「大丈夫!真島さんはテレビでも見てて、ね?」
「お、おう」

私は、お皿を真島さんから奪うように取り、キッチンへ運んだ。
もう一回、お皿を取りにテーブルへ戻って来ると、真島さんはソファにごろりと寝転がって、ケラケラ笑いながらバラエティー番組を見ていた。
司会者を囲むように、芸人やタレントがそれぞれの体験談を話しているようで、笑い声が流れている。私は残りのお皿を重ね始めた。
「なあ、、この芸人、おもろいなあ。何ちゅう奴らや?」
「え?誰〜?」
ぐるりと振り向いたその時だった。視界の端を黒い影が横切った。
「えっ?」
ぽつりと呟き、その影を目で追う。だけど、影はキャビネットの下へ消えて行った。
「なあ、、知っとるやろ?こいつ」
真島さんの声にはっと我に返り、テレビに映っている若手のお笑い芸人に視線を移した。
「ああ、この人たちね、ウーマンアワーっていうんだ。面白いよ〜」
「せやなあ。せやけど、早口過ぎて分からへんとこあるわ〜。やっぱ親父になってしもうたのぉ」
私は、そんな会話をしながらも、さっき見た影のことが気になって仕方がない。
キャビネットの下を一度確認してから、お皿を運ぼうと手に抱えた時だった。足の下を黒光りするアレがはっていた。ゴキブリだった。

「きゃあ〜、真島さん!ごきぶり、ごきぶり〜!」
私は悲鳴を上げた。
「な、なんやて〜!」
私は、ガシャンとお皿をテーブルの上に置くと、椅子にひょいっと飛び乗った。真島さんを見ると、ソファの背に上ってしゃがみ込んでいる。
「真島さん、何してるの?早くごきぶり殺して〜!」
、何度もごきぶり言うな!聞いただけでも、アカンねや!」
「じゃあ、何て言えばいいの!?」
両腕で自分を抱きかかえながら、ソファの上で小さくなっている真島さんに訊いた。
「せや、『G』って言え!」
「じゃあ、今、『G』が私の椅子の近くにじっとしてるから、仕留めて……」
私は「G」を指差しながら、声を潜めた。

「なんで俺がやらなアカンのや……」
真島さんは、頭の後ろをガシガシと掻いて大きくため息をついていたが、両ももをパンと勢い良く叩いて立ち上がり、蛇柄のジャケットをソファに脱ぎ捨てた。
それから、ローテーブルの上にあった雑誌を丸めだした。
「ま、真島さん、その雑誌ダメ!今日買ってきたばかりのアンアンなの!」
「んなこと知るかい。他に叩くモンが無いやないけ!」
「あぁ……。まだ読んでなかったのに……」
「そないな顔せんでもええやろ?『G』退治に役立つ思うて喜んどき。ヒヒッ」
今回のアンアンには、好きな俳優さんのヌードも載っていた。それがごきぶり叩きになるとは思いもよらなかった。

真島さんは、丸めたアンアンを持って、恐る恐る「G」に近づき、狙いを定める。肩に描かれている白蛇が怯えているようだ。
「このドアホ!」
アンアンを「G」へ振り下ろした。だけど、アンアンが「G」に当たる前に、「G」がなんと真島さんへ向かって羽ばたいたのだ。
「うぉ〜!」
真島さんは、動物のような速さで椅子の上にいる私に抱きついてきた。背中の般若の刺青は、どことなく情けない顔に見える。
「G」はゆっくりとまた別の方向へと飛んでいる。
「そこはアカーン!」
真島さんがそう言ったのも空しく、「G」が飛んだ先は、ソファに脱ぎ捨てられた真島さんのジャケットだった。「G」の黒い羽が胸ポケットの上で光っている。

「ハァ〜。どないしたらええんや……」
真島さんは、私の肩に回した手に力を込めて呟いた。
付き合って三ヶ月。
こんな弱っている真島さんを見たのは初めてだった。いつも「俺より強いヤツなんておらへん」と、豪語していた真島さんが、まさか、ごきぶりでこんなに弱くなってしまうなんて……。
(ここは、私が真島さんを守る番だ!)

「真島さん、アンアン貸して?」
「なんでや」
「私が仕留める!」
私は、胸の前でガッツポーズを作った。
「アホか。女にそないなことさせれる訳ないやろ」
「でも、真島さん、すごく怖いみたいだし」
「そ、そないなことあるか、ボケェ!今までのは冗談や!」
「え?」
「今からスパーンと殺したるわ!見とけ!」

真島さんは、私からパッと離れると、ソファの上にあるジャケットへゆっくりと近づいた。
「死ねや!」
アンアンを「G」に叩きつけた。動かなくなった「G」を確認すると、真島さんは、「ハァ〜」と言って、その場にへたり込んでしまった。
「やった〜!さすがだね、真島さん!」
椅子から飛び降りた私は、真島さんのもとへ走り、首に手を回した。
「なあ、このジャケットもう着られへんなあ」
放心状態の真島さんがぽつりと言う。
「え?でも、クリーニングとかしたら、着れるんじゃない?」
「アホか。気色悪うて着れるか」
真島さんは、汚いものを触るように、袖を少しつまんで離した。

、この「G」、捨てといてくれや」
「え?私が?ここまできたら、真島さんお願い!」
私は、胸の前で両手を合わせて、真島さんをすがるように見つめた。
「何で俺やねん!せや、じゃんけんで負けたほうが始末や。わかったな?」
じゃんけんが始まった。
「最初は、ぐー、じゃんけんぽん」
二人とも、気合を入れようと、大声を出す。
「なあ、何でパー出すんや〜!」
真島さんは、グーにした手を恨めしそうに見つめていたが、ふと企んだ笑みを浮かべた。

真島さんが、座ったまま腕を伸ばし、強引に私の腰に手を回して引き寄せた。
「なあ、今日の、メッチャ可愛いなあ」
「えっ?普通だと思うけど……」
首筋に当たる息遣いがドキドキを加速させる。
「せや。今から、新宿のPホテルのバーで夜景見ながらシャンパンでも飲まへんか?」
「今から?」
「せやで。ほんで、今夜泊まってくやろ?一緒に風呂入って、の身体キレイに洗ったるでぇ」
「そ、そんなのいいよ……」
洗ってもらっている光景をちょっとだけ想像してしまい、どくんと心臓が跳ねた。頬が熱くなっていく。腰に回された腕にぎゅっと力が入った。
真島さんが、そっと私の耳元に顔を寄せた。
「なあ、、『G』片付けてくれへん?」
真島さんが低い声でささやいた。
「うん……。はっ!?」
思わず、私が「G」を始末する羽目になるところだった。私は、全身の力を込めて真島さんの身体を引き離した。

「もう知らない!私、もうお風呂に入って寝ます」
私はバスルームに向かって歩き出す。
ちゃん!嘘に決まっとるやん。ほれ、もう捨てるでぇ。……お、捨てた!捨てたでぇ!」
背中にかかる声が、甘えてくる子供みたいだ。聞こえないフリをして、バタンと扉を閉めた。ワンピースのジッパーに手をかけた瞬間、扉が勢い良く開いた。
不意に、真島さんが私を後ろから強く抱きしめる。
「きゃっ」
「一緒に入って、身体洗ってやるって言うたやろ?」
「ねえ、『G』は?」
「そんなんもう暗いとこに始末したったわ。ほな、入るで」
真島さんがゆっくりジッパーを下ろしてくれる。

さっきの彼の慌てぶりが次々と頭に浮かんでくる。
私はついに無敵の真島さんの弱点を知ってしまった。
(カップルって、こうやって仲良くなっていくんだ……)

ワンピースがするりと脱がされ、床に落ちた。
鏡に下着姿が映っている私を真島さんがぎゅっと抱きすくめた。

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