小説内で何と呼ばれたいですか?
苗字:
名前:
   
*何も記入しない場合、澤村遥になります。


般若の素顔と極道の天使
後編


3. まんぞく寿司

お互いに得点を競い合って熱唱した二人が、カラオケ館を出たのは六時半だった。
携帯を確認したは、思いついたように言い出した。
「あっ、東京に来たし、ニューセレナのママに挨拶に行こうかなぁ」
ニューセレナとは、天下一通りに面するスナックで、昔、桐生がを連れてきた際、子供であったの世話をしてくれたママがいる。
だが、真島は、せっかくの二人きりの時間をニューセレナへ行って無駄にしたくない。
「そないなこと、東京の学校に行き始めたら、いつでもできるやないか」
「うん……」
「せや!まだ早いけどメシでも食いに行かへんか?」
「えっ?本当?」
が、ぱぁと顔を輝かせて真島を見上げた。
ちゃん、何か食いたいモンあるか?」
「う〜ん、お寿司とかかな……」
は顎に手を当てて、他にも候補を考え中のようだ。
(決まった)
真島は、自信満々にニヤリと笑った。

「寿司ならええとこがあるわ。俺の行きつけの銀座のすし屋へ行こか?」
「えっ?でも……そうだ!私、まんぞく寿司がいい」
「はぁ?何言うとんのや。あの天下一通りのでかいすし屋のことかいな」
「うん!一度も入ったことがないし、行ってみたかったんだ」
「せやけど、あそこは回転寿司やで。沖縄にもあるやろ」
「でも、行ってみたい!お願い!」
の黒目がちな瞳に見つめられて、真島はふい、と視線を逸らしてしまう。
わざと困った顔を作って、はぁ〜っと大きなため息をついた。
「しゃあないのぉ。俺もまだ行ったことないねん。組のモンはよう行っとるらしいけどなあ」
「やったぁ。じゃあ、行こ?」
が真島の手をぎゅっと握り締めた。細い指のぬくもりが真島の手に伝わってくる。
真島は、が嬉しそうに前を向いて歩いている姿を横目で見ながら、頬を緩ませてゆっくり歩き出した。

「いらっしゃいませ〜!」
自動ドアが開いて店内に入ると、威勢の良い掛け声が店内に響き渡った。
「いらっしゃいませ!」
ホール係の女性従業員が、やや引きつった笑顔を添え、明るく挨拶をして二人を迎える。
その表情からは、「なぜ、あの真島吾朗がうちへ?」といった気持ちが読み取れる。
「では、こちらにご案内いたします」
二人は奥のボックス席に案内された。
(なんやファミレスみたいやな)
腰を下ろすと同時に、真島は店内を見渡した。
横にあるレーンの上には、皿に乗った寿司がつらつらと流れている。
寿司ネタは、真島が行きつけの寿司屋で注文するものや、ハンバーグや牛カルビといった信じられないものもあった。

は「ちょっと待ってて」と言い残したかと思うと、湯飲みを両手に二つ持って戻ってきた。
「ドリンクはセルフなんだよ」
「茶までセルフか!?」
真島は、目を見開いてぽかんと固まった。
は、くすくすと笑ったかと思うと、教師が生徒に教えるように話し出した。
「ここにあるのがお茶のパウダー、これを湯飲みに入れて、こっちからお湯を出すの」
がレバーを倒して、お茶を作る。
「ホンマかいな」
と思わず声を漏らした。
きょとんとした真島は、セルフでお茶を淹れることに戸惑いを隠せない。
そして、真島の態度を面白そうに見つめていたは、ドリンクバーからアップルジュースと生ビールを運んできて、満足そうにシートに腰かけたのだった。

パネルをタッチしながら、慣れた手つきで選んでいくが、
「真島のおじさん、どれにする?」
と言って、メニューページを一通り見せた。
「ほんなら、えんがわ食うてみよか」
「じゃあ、私はあぶりサーモンにしよ」
注文が確定され、真島は流れる寿司を興味深そうに目で追っていた。
『ピンポーン♪ ご注文の品がまもなく到着します』
「あ?」
タッチパネルを見上げた瞬間、注文した寿司が高速レーンに乗って、届けられたのだ。このレーンに気付いていなかった真島は、慌てて腰を浮かし、寿司をレーンから降ろす。
初めてこのシステムを見たも、レーンに釘付けになっている。
「えらいハイテクなんやなあ」
「うん、びっくりしたぁ」
「ほな、食うてみるか」
真島は一貫つまむと、口に放り込んだ。ぱらりとシャリがほどけたと思ったら、ネタと絡み合う。
「おお、結構旨い!」
あぶりサーモンを頬張っているは、大きく頷きながら、もごもご食べている。

期待した以上に旨いと感じた真島は、慣れない手つきでタッチパネルで注文し始めた。
「おじさん、フライドポテトもお願い」
「はぁ?なんで寿司屋でポテト食いたいねん」
「だって、学校が終わったあと、友達とよく食べてるもん」
「ホンマか!時代も変わったのう」
真島は、女子高生が寿司屋で放課後を過ごすという事実に、ひそかに自分の年齢を感じてしまった。少しでもとの距離を縮めるかのように、メニューにさっと目を通す。
「ほな、俺も変わりダネちゅうことで、とんこつラーメンも頼んでみるか!」
「真島のおじさん、そんなに注文して食べれるの?」
「当たり前や。俺を誰やと思うとるねん」
真島は、ニヤリと口の端をを持ち上げて、注文ボタンを勢いよく押した。

注文した品が運ばれてくると、テーブルの上は皿でいっぱいになった。
は迷わず、フライドポテトを口に運ぶ。
「うん!ここのポテトもいける。ねえ、おじさんも食べてみてよ」
が真島の目の前にポテトを差し出した。ラーメンをすすろうとした箸をぴたりと止め、そのポテトを受け取ろうとする。
「寿司屋のポテトが旨い訳ないやろ」
「嘘じゃないよ。ほら味見して」
がいたずらっぽい笑みを浮かべて、真島の口元へポテトを近づけた。
途端に、鼓動がどきっと音を立てて跳ねる。真島は慌てて身を反らせて、視線を宙に飛ばした。
「ええわ。ちゃんが食い」
「いいから、はい!」
「ったく、なんやねん」
真島は前かがみになって、ポテトをかじった。カリっとしたのは分かるが、に食べさせてもらったことが、恥ずかしいやら嬉しいやらで、味わうどころではない。顔から火が出そうなほど熱くなっていく。

アラフィフの親父が女子高生に食べさせてもらっているなんて、人にはどう映っているのだろう。
仲がいい親子か?叔父と姪か?いや、援助交際か?
他人は好き勝手に思うだろう。
真島は、ちらりと横の席に座っている家族連れの父親に目をやった。
ばちりと視線がぶつかった瞬間、父親が慌てて子供のほうを向く。
頭が沸騰しそうになって、何も考えられなくなった真島は、真横に流れてきた鯛を急いでレーンから奪うように取った。
「あっ、それ、真島のおじさんが、もう注文したのだよ」
「何やて?」
テーブルに並んだ寿司をよく見ると、鯛がのった皿が二枚も目の前に置かれている。
真島は、合計三枚の鯛の皿に視線を落とした。
(何しとんのや!)

くすくすと声を立てて笑い出したは、
「私、鯛も食べたかったかも。そうだ!今度はおじさんに食べさせてもらお」
「はぁ?アホか」
がぐいっと身を乗り出して、無邪気な笑みを浮かべている。もう逃げられそうもない。
(何で親父がこないなことせなアカンのや……)
「しゃあないのぅ」
真島は、どぎまぎした自分を見破られないように、そっと一貫を掴んだ。
「ほれ、食うてみ?」
と言って、の口元に運ぶ。唇が手に触れそうになる。
は口に含んだ瞬間、まぶたを閉じ、味わうようにゆっくりと飲み込んだ。
思いがけない大人っぽい仕草に、胸が急激に脈打ち始める。
「うん、鯛も美味し〜」
が首を傾けて、にっこり笑っている。
「せ、せやろ?俺も、ラーメン食うてしまわなアカンわ」
頬がわずかに熱くなった真島は、急いでラーメンに箸をつけ、大きな音を立ててすすった。

二人が店を出ると、すっかり暗くなっていて、通りにはネオンやイルミネーションが灯されていた。
「旨かったなあ」
と満足そうに言って歩き出した真島は、横にがいないことにふと気付いた。
振り返ると、が、まんぞく寿司の前に立っている。真島は早足での元へ戻った。
「どうしたんや」
「あの……もう八時だし、そろそろホテルに帰らないと」
は足元に目を落として、ぎゅっとバッグを握り締めている。
真島はうつむいているの顔を眺めた。悲しいような寂しいような表情に見える。
ちゃん、まだ俺とおりたいんやろか)
真島こそと一緒にいたい。できることなら、今夜は帰したくない。
ぽんとの頭に手を乗せて、彼女の顔を覗き込んだ。
「なあ、もう少し遊ぼうか?ちゃんに見せたいモンがあるねん」
「えっ?何?」
がふっと顔を上げる。
「まあ、ええから。俺についてき」
「う、うん」
は、すっと差し出された手をぎゅっと握った。
まるで真島と離れたくないように――。

つづく

前の話次の話

般若の素顔と極道の天使トップ
HOME

いろんな龍が如くの夢小説が読めます。
龍が如くランキング

真島吾朗と澤村遥の恋愛小説「般若の素顔と極道の天使 @」電子書籍化しました。無料でお読み頂けます。
電子書籍サイトのパブー