真島さんに何と呼ばれたいですか?
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*何も記入しない場合、青山美香になります。



ケンカ

私は、神室町の天下一通りを歩いていた。腕時計を見ると七時だった。
「ポッポで弁当でも買って帰ろうかな……」
そう呟いて、ふと泰平通りのほうを見た。
「あれは、真島さん?」
真島さんが女の人と腕を組んでこちらへ歩いてくるのがぼんやり見える。朝、真島さんは、仕事の取引先の接待があるから遅くなると言っていた。
心臓がどくんどくんと激しく脈打つ。

(私に嘘ついて他の女と遊ぶってこと……?)

通りに流れる音楽が聞こえていたはずなのに一瞬にして止まったような気がした。通り行く人がちらりと私を見ているのもわかる。
それは、クリアに見えるのに、真島さんだけは、ぼやけて見えるのは、どうしてだろう。
だけど、そのぼやけたものが近づいてきた。
真島さんの横には、派手な顔立ちでスタイル抜群の女性が、にこりと笑って立っていた。

「おう、やっぱりか!なんでこないなとこにおんねや。こいつはなあ……」
真島さんが目を細めて笑っている。
「もういい!」
「おい!」

私は、真島さんの声を振り切るように夢中になって走った。目から涙がとめどなく溢れてくる。家に帰ると、真島さんからケータイに着信が十二件入っていた。私はケータイの電源を切って放り投げた。
冷蔵庫を開けると、真島さんと特別な時に飲もうと冷やしていたスパークリングワインが目に留まった。私は、それを取り出すと勢いよく開けた。グラスに注いで一口飲むと、微炭酸が優しく喉を刺激する。頭の中では、真島さんが派手な女に見せていた笑顔がぐるぐる回る。自分にはあんな笑顔見せてくれただろうか。
(やっぱり真島さんみたいな派手な人には、派手な人がお似合いだよ……)
私は、ワインを全て飲み干すとベッドに横になった。酔っ払って頭がぼーっとする。天井をじっと見た。
(もう真島さんなんて好きにすればいい……)
私は枕に顔を埋めた。

時計が十一時を回った時だった。インターホンの音で目が覚めた。モニターを見ると、真島さんが映っている。開けようか迷っていると、もう一度インターホンが鳴った。さすがにドアを開けた。
「おう、。起こしてしもうたか?」
「大丈夫……」
私は俯き加減で答えた。
「何や、顔赤ないか?見せてみ?」
真島さんが私の顔を覗き込む。
「お前……酒、飲んどるんか?」
「別にいいでしょ」

私は、真島さんに背を向けると部屋に戻った。真島さんも、大股で部屋の中へ入り、ソファにドカっと座る。テーブルの上に白い箱をポンと置いた。
「ほれ、お前の好きなケーキ買うてきたでぇ」
真島さんが箱を開いて中身を見せてくれた。ショートケーキ、ガトーショコラ、タルトなど十種類のケーキが色とりどりに並んで美しい。甘い香りが部屋にふわりと広がった。私は、それをちらりと見たが、壁のほうを見た。

「何や、しゃべってくれへんのかいな」
真島さんが、ガシガシと頭を掻いてから続けた。
「今日、が見た女は、キャバ嬢で、同伴して取引先の情報を聞いとっただけなんや」
「情報聞くだけなのに、腕組んで楽しそうなの?」
真島さんをぎろりとにらんで言った。
「そ、それは、スマンかった……」
「今日も、本当はあの人とずっと一緒だったんでしょ?」
「ちゃうわ。ホンマに接待やったんや」
「もう真島さんさんなんて知らない、バカ!」
私は、駆け足で玄関のドアへ急いだ。
「おい、待てや」
真島さんの声が背にかかる。

ドアを開けようとすると、ぐいっと左腕を掴まれた。
「こんなんで俺から逃げれると思うとるんか?」
低い声だった。思わず、ドアノブを持つ手がぴたりと止まる。真島さんが後ろからゆっくり近づいてくる足音がした。彼の黒い革手袋をはめた手が腰に回された瞬間、私の背中がぴくりと動いた。じわじわと背中にぬくもりが伝わってくる。真島さんが、私を力強く抱きしめた。

真島さんは、自分の顔を私の首筋に埋めて、かすれた声でささやいた。
「ホンマ、堪忍や……。俺にはしかおらへん」
ドアノブから手がするりと落ちた。
私はこくりと頷いた。

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