真島さんに何と呼ばれたいですか?
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*何も記入しない場合、青山美香になります。



緊張

ある金曜日の夜、私は劇場前広場にいた。広場の周りには、いくつもの劇場や映画館が立ち並ぶ。携帯をバッグから取り出して、メールを開いた。

『会うの楽しみにしとるわ。七時に待っとるで』

私は、喫茶アルプスでウェイトレスとしてバイトをしている。客である真島さんに猛アタックされて、今日は初デートすることになった。
(ハァ……。真島さんとデートかぁ。緊張するな。でも、面白い人みたいだしなぁ……)
腕時計を見た。七時十分だった。劇場前広場も大学生らしい若者から年輩のサラリーマンまで、待ち合わせをする人の数で込み合ってきた。その中で客引きしようとする居酒屋やカラオケ店の店員が、たむろするグループに声を掛け続けている。
(真島さん、遅いな……)
辺りを見渡した。すると、二人の男がニヤニヤ笑いながら近づいてきた。

「ねえ、俺たちと一緒に飲まない?」
「いえ、結構です」

私は、男たちに背を向けると、別の方向へ歩き出した。それでも、彼らは追ってくる。
「あ、もしかして、どっかの店で働いてんの?どこの店?つーか君のこと指名すっから、店の名前教えてよ?」
なんてしつこいんだろう、早足で逃げようとした時だった。彼らの後ろにすっと人影が現れた。
「おい!ワシの女に何しとるんじゃ」
「ヒィッ!」
男たちは、そのドスのきいた低い声に驚いて振り向いた。そこに立っていたのは、初めて見るスーツ姿の真島さんだった。真島さんが一人の男の胸倉を掴んで、睨みを利かす。

「いや、あの、ぼ、僕たちは、ちょっとおしゃべりをしてただけなんです……」
「ほんなら、早うここから逃げんかい」

真島さんが男を突き放すと、男たちは這うように走って行った。真島さんが私のほうへ近づいてきた。ダークグレーのスーツにワインレッドのシャツ、黒のネクタイを締めている。いつもの蛇柄のジャケットとは、ガラリと雰囲気が違う。大人の男性に思える。私の頬は熱くなった。

ちゃん、遅うなってスマンかったなあ。定例会が遅れてしもうたんや。大丈夫やったか?」
「は、はい。全然大丈夫です」
「やっと初デートや!メシでも行こか?どこがええ?」
「あの、どこでも……」
「せやなぁ……韓来によう行くけど、初デートで焼肉ちゅうのもなあ」
真島が顎に手を当てて考える。
「いや、焼肉好きです」
「ホンマか!ちゃんが好きちゅうなら、韓来で決まりやな!」

私と真島さんは、劇場前通りに出て、肩を並べて歩き出した。クラブセガの前を通ると賑やかな音楽が流れている。真島さんをチラリと見た。真っすぐ前を見ている。真島さんの右側を歩いているので、切れ長の瞳がよく見える。黒く輝いていて綺麗だな、と思った。真島さんが振り向いた。
「どないしたんや?」
「え、いや、何でもないですっ。大丈夫です!」
私は、両手を胸の前で振りながら焦って答えてから、小さくため息をついた。
(なんで私だけ、こんなに緊張してるんだろう……。舞い上がってバカみたい……)

その時、真島さんが私の頭の上にポンと大きな手を置いた。
「えっ?」
「俺も、初デート、メッチャ緊張しとるんやで」
真島さんは頭の後ろをガシガシと掻いて、満月が浮かぶ夜空を見上げた。

「こんなん俺らしないでぇ。まあ、それだけちゃんに惚れとるちゅうことやけどなあ」
真島さんは、ニヤリと笑うと、私の前に手を差し出した。
「あの……」
「手、繋ぐに決まっとるやないか。ええやろ?」
「あ、はい」
そっと黒の革手袋をはめた手に包まれる。大きくてごつごつした手だった。この温かい安心感は何だろう。真島さんの顔を見上げた。柔らかな笑みを浮かべている。
「ほな、行こか」
「はい!」
私は、左手に温もりを感じながら、軽やかな足取りで歩き出した。真島さんが私の手を握り締める力にぎゅっと力が込められた。

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