真島さんに何と呼ばれたいですか?
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*何も記入しない場合、青山美香になります。



お見舞い

ピピッ。
私は腋の下から体温計を取り出した。
「三十八度三分かぁ……」
頭がぼーっとする。手を額に当てると熱っぽい。ベッドサイドの時計に目をやった。夜の八時半だった。
窓ガラスを雨が叩きつける音が聞こえる。今夜は真島さんが見舞いに来てくれるという。
私はケータイを枕元にそっと置くと、真島さんが来るのを今が今かと待っていた。

ピンポーン。
来客を告げるインターホンが部屋に鳴り響いた。ふらふらした足取りで玄関に向かう。
ドアスコープを覗くと真島さんが立っている。急いでドアチェーンをはずして、ドアを開けた。

「すまんなあ、。遅なってしもうて。幹部会が長引いたんや。待ったか?」
「ううん。大丈夫」
「あ、真島さん、濡れてる。タオル持ってくるね」
「そんなんええわ。それよりな、ええモン持ってきてやったでぇ」
「え?」
真島さんはそう言うと、リビングへ大股でずかずかと進んだ。私は真島さんのあとをのろのろと追う。
リビングに嬉しそうに立つ真島さんをよく見ると、右手に肉や野菜の入ったスーパーの袋を提げていた。左手には、茶色い紙袋に包まれた四角いものが抱えられている。

「真島さん、その荷物、いったい何?」
「これはなあ、にシチュー作ったろうと思ったんや」
「え?真島さん、料理なんてできるの?」
私は目を丸くする。
「当たり前や。シチューぐらい朝メシ前やで」
真島さんが、胸を張って両手を腰に当てて誇らしげに言う。
「じゃあ、私、手伝うよ」
「アホか!何のためのお見舞いや。はこれでも貼って寝とけ」
真島さんは、ジャケットのポケットから冷えピタを取り出すと、シールをはがして、前かがみになった。
すっと手が伸びてきたかと思うと、私の額にぴたりとそれが貼られる。

「ほれ。気持ちええやろ?」
「うん……。ありがとう」
熱っぽかった額が一気に冷めていく。
「さ、早う寝とき」
「でも、手伝えることがあったら、言ってね」
「おう」

私は、振り返りながら、寝室へ戻った。しばらく横になっていると、キッチンからトン・トンと、ゆっくりした包丁の音が聞こえる。
(真島さん、慣れない手つきで作ってくれてるんだぁ……)
頬を赤くした私は、枕に顔を埋めた。

、入るで〜」
真島さんの声で目を覚ました私は、ドアのほうを見た。ネクタイをはずし、赤いシャツを腕まくりした真島さんが、シチュー皿がのったトレーを持っている。部屋は食欲を誘うシチューの香りに包まれた。真島さんはベッドの足元に座った。

「ほれ、ごちそうやでぇ。ちょっと野菜が大き過ぎてしもうたけどなぁ……」
「わ〜、おいしそう!」
「せやろ?ほれ、食わしたるわ」
勢いよくスプーンが口元に差し出された。
「いいよ〜。子どもじゃないんだから」
火照った頬がさらに熱くなる。
「ええから食うてみ」
照れくさいけど、一口食べてみた。ミルク特有のほっとするような甘みが口の中に広がる。。
「真島さんさん、おいしい……」
目に涙がじわっと浮かんだ。風邪で弱っているからだろうか。真島さんの顔が涙で少し滲む。
「何や、旨過ぎて泣くヤツがあるかいな。ほれ、もっと食わなアカンで」
真島さんが私の口にスプーンを運んだ。
「うん。ホントおいしいよ……」
「ほんなら、最後まで食うんや」
「うん!あ、ねえ、あの茶色の紙に包まれた四角いものは、何だったの?」
「あ〜、あれか。あれは、料理の本や。シチューなんて作ったことなかったからのぅ」
そう言うと真島さんはヒヒッと笑って、頭を軽く掻いた。

私は、あっという間にシチューを食べ終えた。真島さんはシチュー皿を片付けながら、
「熱のほうはどうや?」
と尋ねた。
真島さんが私の首筋に手を当てた。
心拍数が一気に跳ね上がる。真島さんの長くてごつごつした指が触れる。ひんやりとして気持ちいい。
「う、うん。ちょっと下がったかな……」
「アカン。まだ熱いやないか」
真島さんは私の頬に優しく触れると、じっと私を見つめて、フッと笑った。
真島さんの手が私の髪をそっと撫でる。髪が真島さんの指に絡まって滑り落ちた。
「今日は、ええ子にして寝とくんやで」
「うん……」
私はこくりと頷いた。
『このまま抱きしめてほしい』とか、『今日は側にいてほしい』とか言えなくて、私は真島さんの手をぎゅっと掴りしめた。

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