真島さんに何と呼ばれたいですか?
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*何も記入しない場合、青山美香になります。



*これは、「龍が如く0」発売前の設定です。
ゼロヘトリップ

私は、眠る前にある画像を見ていた。それは支配人の真島さんが、舞台裏みたいなとこで白い煙を漂わせる煙草を指に挟んでいる姿。その遠くを見つめる目からは、哀愁が漂っているようにも感じる。
「やっぱり、この真島さんが一番かっこいいなぁ……」
私はそう呟くと、にんまりした。
ふと、「おい!」という声が携帯から聞こえた。ついに真島さんが好き過ぎて空耳がしたか……。きっと疲れてるんだ。もう寝よう、と思い携帯を枕元にそっと置いた。瞼を閉じた瞬間だった。

「おい、何、俺のこと見とんねん!」
はっきり真島さんの声が携帯のほうから聞こえた。慌てて携帯を手に取ると、さっきの真島さんがこちらをぎろりと睨んでいる。何度も目をこすった。
やはり真島さんが私を見ている。
「なんで、いつも俺のこと見とんのや?訳言うてみぃ?」
「え?なんでって、あの……」

夢を見ているんじゃないか、頭が変になったんじゃないか、と混乱する中、口ごもった。真島さんが、意地の悪い笑みを浮かべている。ついに私は口を開いた。
「あ、あの、かっこいい……、から?」
「ほう」
真島さんが、吸いかけのタバコを灰皿に押し付けて揉み消した。
「こっち、来るか?」
真島さんが涼しい笑顔でこちらを見ている。すっと手が差し出された。それは細長い白い指。ふーっと吸い寄せられるように、私はその手を握ってしまった。

目を開けると、画像で見た舞台裏に立っていた。でも、さっき握った真島さんの手がない。なんて変な夢を見ているんだろう、私はがっくりと肩を落とした。
ため息しかつくことが出来なくて、後ろからそっと近づく気配に気付くことが出来なかった。
「よう来たなあ」

慌てて振り返ったそこには、ずっと、ずっと会いたかった真島さんの笑顔があった。
「真島さん!ど、どうして、私ここに?」
「お前が、俺の画像ばっかり見とるからや」
ヒヒッと、いたずらっぽく笑った真島さんは、目の前の扉を開けた。煙草とお酒の入り混じった匂いが鼻をつく。
「ここがキャバレー・グランドや。もう閉店しとる。ちょっと見るか?」
「は、はい」
私は、さっそうと歩く真島さんの後をついて歩いた。緊張して心臓の鼓動がばくばくと聞こえた。

グランドに入ると、あまりの豪華な内装に立ち尽くした。フロアは、赤いじゅうたんで敷き詰められていた。見上げると豪華なシャンデリアがいくつも輝いている。そして、アンティーク調のソファが百席以上あるのではないだろうか。
「おい、こっち来いや」
私はフロアの真ん中へ呼ばれると、真島さんの前に立たされた。すると、真島さんが、
「お客様は神様です」
と、落ち着いた声で言い、ひざまずいておじぎをした。顔を上げた真島さんが上目遣いでニヤリと笑う。私も、つられてクスクス笑ってしまった。

「いっつもこんなんで、ペコペコしとるんや。ホンマ俺らしゅうないでぇ」
真島さんは、ハァとため息をついたかと思うと、何かを閃いたようにこう言った。
「せや!今から晩メシでも食いに行かへんか?」
私は、緊張のあまりお腹なんて空いてなかった。だけど、せっかく真島さんとご飯を食べれるチャンスなので、
「はい!何でも」
と、即答した。

「せやなぁ。いつものお好み焼きでもええ?」
「はい!好きです!」
真島さんは、くすっと笑うと、蝶ネクタイをしゅるりと脱いで、颯爽と入り口へ向かった。
私はその背中を見つめながら、早足で真島さんを追いかけた。

道路に出ると、真島さんは私の腕をぐいっと掴んだ。腕を引かれながら、私は小走りで一生懸命歩く。
いろんな食べ物が入り混じった香りが鼻孔をくすぐる。
「今から行くお好み焼き屋なあ、ごっつ旨いんやでぇ」
「そ、そうなんですか」

私の少し先を大股で歩く真島さんは、ちょっと楽しそうに見える。だけど、私はだんだんと息が上がってきた。
「あの、真島さん、歩くのちょっと速すぎません?」
初めて真島さんは私を振り返ってくれた。
「おう、スマン、スマン」

真島さんが、パッと腕を放すと、私は膝に手を置いて、ハアハアと肩で息をした。真島さんが背をかがめて、私の顔を下から覗き込んだ。
「ほれ。今度は一緒に歩いたるわ」
目の前には真島さんの手。私が差し出した手は、すっぽりと大きな温かい手に包まれた。私はドキドキと高鳴る胸を抱えながら、また歩き出した。

カニ看板で有名な「カニ道楽」を過ぎた時、
「ここや、ここや!」
と、真島さんが嬉しそうな声を上げた。

庶民的な看板を掲げた小さな店だ。私は引っ張られるように店内へと入っていった。中は狭く、カウンターと座敷席がある。
「あ、吾朗ちゃん、いらっしゃい」
四十をいくつか超えた着物姿の女将が大げさに迎えてくれた。その笑顔は溢れんばかりで、男前にだけ向けられる笑顔のように思えた。私も、あんな分かりやすい顔をしてないだろうか。そう思うと恥ずかしかった。真島さんが座敷席へ案内してくれた。まずはビールで乾杯した。真島さんは、上着を脱ぐと、壁にずらりと貼られたメニューを見渡した。

「どれがええ?」
「じゃあ……、豚お好み焼きで」
「ほな、俺はいつものミックスや!」
しばらくすると、お好み焼きの材料が運ばれて来た。

「よっしゃあ!俺が焼いたるからなあ!」
真島さんは、白いシャツの袖を腕まくりすると、材料を手に取り、混ぜた具と生地を鉄板へ流し込んだ。ジューッという音とともに微かな蜃気楼みたいな熱気が立ち上がる。頃合を見て、
「そろそろやな」
と、ニッと笑って呟いた真島さんは、コテを生地の下に差し込み、手際よく裏返した。私は、「わ〜!すごい!」と、思わず手を叩いてしまった。
「こんなん当たり前やでぇ」
と、大声で言った真島さんは誇らしげに笑った。

出来上がったお好み焼きにソースがかけられた。
ジュワーッと音を立てながら、鉄板の上で飛び跳ねる香ばしいソースの匂いが店に広がるようだ。口の中に甘い唾液が溢れてくる。
「ほな、食うてみ?」
「じゃあ、いただきます」
一口食べた。
「熱ふ、熱ふ、おいひぃです」
「何や、猫舌かいな」
真島さんはそう言って、からかうように笑っていたかと思うと、
「俺のも食うてみるか?」
と、お好み焼きをのせたコテを私の口元に差し出してくれた。

「あ……じゃあ、いただきます」
「ほれ、口開けてみ。気ぃ付けて食べや」
「はい」
私はあまりの恥ずかしさに顔が熱くなった。思い切って一口食べると、口いっぱいシーフードの旨味が広がって、今まで食べたお好み焼きで一番美味しいものだった。でも、一番の美味しさの理由は、真島さんが焼いてくれて、食べされてくれたからだった。

店を出て少し歩くと、どこかの店からか、光GENNJIの「パラダイス銀河」が聞こえてきた。よく会社の先輩がカラオケで歌う曲だ。
テンポのいいリズムに思わず足取りが軽やかになる。
「本当にご馳走様でした!」
「ええんや。あないなモンで。なあ、他に行きたいとこあるか?」
「いえ、特には……」
「ほんなら、俺のとこでも来るか?」
「えっ?」
「ちょう遠いけどなあ」

ドキンと大きく心臓が飛び跳ねた。本当に真島さんの家に行っていいのだろうか。家に行くということは……。
「なあ、どないする?」
真島さんは立ち止り、背をかがめて私の顔を覗き込む。私はこの動揺を悟られないように、横を向いた。
「はい。行ってみたいです……」
頬が、かぁっと熱くなるのを感じた。

蒼天堀を抜けると、真島さんは道路へ飛び出しタクシーを止めた。後部座席へ乗り込むと、長身で手足の長い真島さんにとっては、窮屈そうに見えた。真島さんが、静かに頬杖をつき、ぼんやり流れる景色を眺めている。
街のネオンに照らされた彼の顔立ちは、はっとするほど美しかった。鼻は高く、涼しい切れ長の目も完璧だ。後ろで束ねられた黒髪が、動くたびにさらりと揺れる。
一言で言って、真島さんは息を呑むほどのイケメンだ。

いきなり真島さんが振り向いた。
「何じろじろ見とんねん。見とれとったんやろ?」
にやにやしながら、真島さんが笑いかける。
「いや、その……。す、すみません」
「せや、お前、名前なんちゅうねん?」
「あの、っていいます」
か。で、何しとんねん?」
「普通のOLです」
「ほう」

真島さんは、また窓の外の景色へ目をやった。
「なあ、なんでみたいな堅気の女が俺みたいな男がええねん?」
「それは……」

かっこいいから?男らしいから?自分に正直だから?強いから?理由を言い出したら切りがない。鼓動は破裂しそうなほど速くなる。
大人しくさせようと頑張ろうとした私は、深呼吸をして、間を開けてこう言った。
「好きだから……」
は、物好きやのぉ」
真島さんは、見透かしたようにニヤリと笑うと、シートに置いてある私の手に自分の手を少し乱暴に重ねた。

タクシーは、閑静な住宅街に止まった。
「こっちや」
真島さんに手を引かれて着いたのは、地中海風の白い二階建ての家だった。
二百坪以上はあるのではないだろうか。
入り口には、ヤクザ風の男が二人立っていて、真島さんのことを睨みつけていた。派手な柄シャツを着た男が、
「ワレ、今夜はオナゴ連れかあ。お盛んなことやのぉ」
と大声で言い、目をギラギラさせながら、もう一人の男とゲラゲラ笑っている。真島さんは、その二人をキッと睨みつけると、大股で家の中へと進んで行った。

リビングに通されると、私は目を白黒させた。
たぶん二十畳はあるだろう。インテリアは黒で統一され、三人掛け黒革張りのソファが置いてある。その前には、大型ブラウン管テレビがどっしりと置いてあった。
「真島さん、すごい家に住んでるんですね!」
「しょうもないとこや。ここは近江の不動産でなあ。俺は近江の檻の中やで。さっきの奴らも俺の監視や」

真島さんがふっと寂しい表情を浮かべた。私は、返す言葉もなく俯いた。
「まあ、そないなことより、なんやムシムシするなぁ。窓でも開けよか?」
真島さんが、カーテンをサーッと開けると、百坪くらいある芝生の庭が広がった。白のテーブルセットまで点々と置かれている。私は息を呑んだ。
「すごい!どっかのレストランみたいですね!」
「どうせ俺が住む前は、近江の幹部連中が愛人とパーティーやらする時に使うとったんやろ。アホくさ」
真島さんは、吐き捨てるように言うと、窓を全開にした。涼しい風が一気に部屋に吹き込んで来る。真島さんがソファの背にネクタイとジャケットを置いた。

「なあ、ドンペリあるけど、飲むか?」
「あ、はい。お願いします」
「ぎょうさんあるでぇ。待っとき」

真島さんは、そう言うとキッチンへ消えていった。私は、ソファに腰を下ろして庭を眺めていた。
(ヤクザの人ってこんなパーティーとかもするんだぁ……。ガーデンパーティーとか憧れちゃうなぁ……)
カチャリと音がしたかと思うと、真島さんが戻って来た。右手には、シャンパンと左手にはシャンパングラスが二つ下げられている。

「今夜は、月も綺麗やし、庭で飲まへんか?」
さっき願った夢がもう叶ったことに驚くと同時に、嬉しさが胸に込み上げてくる。真島さんは庭に出ると、真ん中のテーブルにボトルとグラスを置き、椅子を並べてくれた。
「さ、お掛け下さい。お嬢様」
真島さんがにこりと笑いながら、椅子を引いて、私が腰を下ろすのを待ってくれている。こんなことをされては、手足の動きがギクシャクしてしまう。
ポンッと勢い良く栓が抜かれ、シャンパンがグラスに注がれた。淡いピンク色――。いわゆるピンドンだ。
シャンパンの泡がグラスの底からネックレスのように上がっていのを見て、そっと瞬きをした。まるで夢みたいだ。私はグラスを持ち上げた。

「ほな、乾杯やな」
「乾杯」
チンと澄んだ音がした。ゆっくり口に含むと、微炭酸が優しく喉を刺激した。

「真島さん、美味しい!これなら何杯でも飲めそう」
「せやろ。はけっこうお酒飲めるんか?」
「結構、いけちゃうほうです」
「ほな、好きなだけ飲んだらええんやで」
真島さんは、笑いながら半分だけ空になったグラスに、またシャンパンを注いでくれた。空を見上げると、大きな満月が夜空にぽっかりと浮いていた。

どれくらい時間が経っただろうか。目の前には、空になったボトルが二本ある。シャンパンで心と身体がふわふわと宙に浮いている感じがする中、静かな鈴のような虫の音が聞こえた。
「なあ、もっと飲むか?」
「ううん、もう酔ってますから、大丈夫です」
真島さんが私の顎をぐいっと持ち上げた。
「せやなぁ。の顔、真っ赤やもんなぁ」
「え?嘘!私、顔に出ないタイプなんですけど!」
「ヒヒッ。嘘や。アホやなあ」

真島さんは、私の顔から手を離すと、空を見上げた。
「なあ、ホンマにええ月やなあ」
「うん、本当に……」
「久しぶりなんや。こないにホッとした気分になったんわ」
「え?」
のおかげやで」

真島さんが、私の肩に手を回して抱き寄せた。柔らかな笑みを浮かべた真島さんの顔がそっと近づく。そのまつ毛が目の前にあって頬がどんどん熱くなる。
期待に高鳴る鼓動を抑えながら、私は恥ずかしさを漂わせて瞼を閉じようとた。が、その瞬間、真島さんが僅かに消えている気がした。

「真島さん、何か身体が!」
「これでええんや」
真島さんの大きな手が私の頬を包み込んだ。真島さんの額が私の額に触れる。真島さんが更に消えていく。

「こんなの嫌ーっ」
頬にうっすらと一筋の涙が流れた。
「泣かんでええやろ?」
微かに笑った真島さんは、ポケットから黒のハンカチを取り出して、涙をそっと拭いてくれた。
、お前のこと、忘れへんで」
私は、そのハンカチを握り締め、真島さんの首にぎゅっと手を回した。
「また会える……?」
「会えるに決まっとるやないか」

真島さんがふわりと微笑んだ瞬間、辺りは真っ白になり、気が付くと私は、自分の部屋のベッドに座っていた。
今のは何だったんだろう。
目元を触ると、うっすらと濡れている。
なんてリアルな夢だったんだろう。

ふと左手を見た。黒いハンカチを握っている。広げてみると、赤い糸で、G.M と刺繍されている。
「これって、真島さんのだ、よね……?」
ハンカチを頬に当ててみた。品のいい香水の香りと微かな煙草の匂いがする。私はベッドに横になった。
『会えるに決まっとるやないか』
真島さんの言葉と笑顔が頭の中に何度も浮かぶ。

(きっと、また会えるんだよね……)

私は、枕元にハンカチをそっと置くと、その香りに誘われるように夢の世界へと落ちていった。

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