AKIRA5


自分の足が、自分のものだという感覚が、消えていた。
人形のように、導かれるまま大人しくついていく。
どのくらい歩いたのか・・・着いた場所はさほど塾から離れてもいないアパートの2階の一室だった。先に押しこまれて、後から3人の高校生が続いた。
「今日は邪魔が入らなくて良かったな・・・」
あの夜と同じく掠れた声で独り言のように低く言って笑う、その息を首筋に感じて、同時にベッドへ突き飛ばされて、倒れこんだ。
起きあがる前に他の腕が伸びてきて仰向けに押さえつけられた。
乾かない涙で、相手の顔も・・・見えない。
さして抵抗もしない俺に満足して3つの黒い影が、上から重なってきた。

毟り取るようにシャツを脱がされて、ほんの少し身体を捩らせたけれど、同時に伸びてきた別の手に、下も下着ごと一気に剥ぎ取られた。
頭上から、ゴクリと喉がなる音が聞こえた。
もう、いい・・・。
このまま、あの熱が・・・少しのあいだだけすべてを忘れさせてくれるんだ・・・。
そう思って目を閉じた。

飢えた獣が獲物を前にして興奮を押さえきれないような、荒荒しい吐息が、狭い部屋を支配する。
そして、汗ばんだ掌が、脇腹から胸を撫でた。
「っ・・・!」
自分が息をのむ音、と同時に、信じられないような嫌悪感が背筋を走った。

嫌だ・・・。

気持ち悪い・・・。

触られたくない・・・。

この手は、慎一郎じゃない!

ただ快楽が、人肌が欲しくて抱かれたときには感じた事の無いような強烈な拒絶反応に、自分が驚いた。
真夏なのに、肌が泡立つほどの不快感に襲われて、
掌を返したかのように暴れ出した俺を、押さえつける手の力が強まった。
「・・・なんだよ?こないだは大人しくやらせてくれただろ?」
前に抱かれた時は、こんな気持ちにはならなかった・・・。
ぬくもりが欲しかった。それだけで、カラダを開いていた。だけど、今は・・・
「コウイウのがスキなんじゃねぇの?」
別の男の口から下卑た嘲りが耳元に落ちた。
「ちがうっ・・・!!嫌だっ・・・!」
必死の抵抗も、相手を喜ばすだけなのに、そのときはただ、そこから逃げ出したい、触れられたくない、それだけの一心で手足をばたつかせた。



「・・・っ!」
直接足の間を弄られて、握りこまれたら、嫌悪に恐怖が混ざって体が痙攣した。
意図を持った動きでそこを擦られて、気持ちでは嫌で嫌でどんなに拒絶の言葉を吐いても、慣らされた身体はそれを快感として受けとめ始めた。
「ぃやだっ・・・しん、いちろ・・・っ・・・!」
泣きながら思わず彼の名を呼んだ。
あの夜のように、助けてくれる暖かい眼差しは、もうないのに・・・

「・・・誰だよ?シンイチロウって。・・・オマエの好きな奴?」
「結局男なら誰でもいいんじゃねぇのかよ。」
わざと嫌らしく音をたててそこを嬲りながら、その声が続ける。
「ちょっと揉んだだけでこんな濡らして・・・」
「聞いたとおりのカラダだな、すげぇ感じやすいんだ・・・」

「ちがうっ・・・・いやだっ、触るなっ・・・・!」
縫い付けられていた片手を、相手の一人が俺の下腹部へと導いて言う。
「・・・イヤじゃねぇんだろう?ほら・・・自分で触ってみろよ。」
「っ、ゃ・・・っ」
指先に感じた熱い滑り・・・。自分の流した体液・・・。
「・・いやっ・・・ぁ、!」
引こうとした手を、さらにそこへきつく押し付けられて、自分の身体の浅ましさをイヤというほど教えられた。

「な?もうトロトロ・・・。オマエ、セックスが好きなんだよ・・・。シンイチロウじゃなくて、さ。」
「そうそう・・・。男がスキでたまらないんだよな?」
厭らしい笑いが同時にこぼされて、目の前が赤く染まる。
違う、違う、だまれっ・・・・!
脅すように首を掴まれた力のせいで、声もだせずにシーツを握り締めた。


無数の手と、言葉に犯されて、くやしさに噛んだ唇から血の味がした。
彼のコトなんか、何もしらないくせに・・・!
慎一郎は、そんなんじゃない・・・!
触れあえただけで、あんなにうれしかったんだ。
きっと抱き合う事なんて一生ありえない。
それでも、どんなに嫌われていようと、好きで、好きで、どうしようもない・・・。
ほんとうに、どうしようも、ないんだ。

はじめて俺に向けられたあの眼差し。
泣きそうになるほど胸を締め付ける笑顔。
指に残る黒髪の柔らかな感触と、あの掌の温度。
そして、一度だけ触れ合った、くちびる。
体を荒らす熱に翻弄されながら、彼のことが頭をうめつくした。

これが、この、体温が、慎一郎なら・・・

ありえない夢なのに、そう思った瞬間、悲しい程、無理矢理育てられた熱がピクと震えた。
「ァ、んぅっ・・・!」
声音に甘いものが混ざって、自分のみじめさに新しい涙が零れた。

その反応を見て、相手は満足げに擦るスピードをあげて・・・
後ろへ伸ばされた別の指が、閉じられたままのそこへだ液の滑りを借りて一気に挿し込まれた。
膝が、胸につくほど曲げられて、明るい室内になんの障害もなく、一番恥ずかしい部分が晒された。
「ぁっ、あっ、いやだぁっ・・・・」
気が狂いそうな屈辱感が、体内を掻き回される指の感覚に飲みこまれて・・・
一度灯った快楽の火種が、意識と裏腹に全身へ飛び火していく・・・。。
「いやっ、・・・シンイチ、ろぉっ・・・!!」
呼んだ瞬間、体内の指を締め付けたのが感覚で伝わった。
内部を探って蠢く指が、その部分の神経を直に撫で上げて、背筋が震え出した。
「ここがいいんだ?」
「っ・・・んぁ、はぁっ・・・」
内側から押されて、張り詰めた欲望から濃さを増した透明な液が腹に滴り落ちた。
3人の相手に好き勝手に弄ばれて、正常な意識が白い幕で覆われていく・・・
嫌悪感が、完全にカラダから切り離された場所から冷たく自分を見下ろす。

「・・・やらしいカラダ・・・」
強引に押し入ってきたものがいきなり最奥を突き上げた。
「っあぁっ・・・・ァ・・・っ」
痛みにまじる、かすかな快感。
意識から独立した肉体は、その快感を敏感に探り出して脳へ伝える。
そして、俺の身体は、この痛みの後に来る下半身が溶け出すような悦楽を知っていて、こんな状況なのに、好きな、相手でもないのに・・・・・打ちつけられる動きに合わせて腰を自然とゆらし始めていた。

やがて、もう一人の自分が掠れた声でささやき出す。

キモチイイ・・・
もっとして・・・・・
これは、彼の腕・・・・
彼の体・・・・
慎一郎が、俺の中にいる・・・・・

夢に見るほど望んでいた、憧れていた。
彼に愛されることを・・・ずっと。
どんなふうにされたって構わない・・・思いきり求められて・・・抱きしめられて・・・
熱いものをいっぱいに注がれて・・・

「ん、ぁ、っ・・・もっと・・・!」
淡い幻の中で、ねだった。
弱い自分が、偽者のぬくもりをしっかりと抱きとめた。
慎一郎、これは慎一郎・・・
今だけは俺を好きでいてくれる・・・・

突き放された時の声を思い出して、まるでそれを忘れたいがためのように、そこにあるカラダにしがみついた。
離さないで・・・!
俺に触れていて・・・お願い、今だけ・・・

「・・・シンイチロ、・・・好きっ・・・・・」
「あぁ・・・。好きだぜ?・・・オマエんなか、最高・・・」
笑いをかみ殺したような返答に、彼じゃない事実を感じて頬が濡れた。
それでも幻想を手放せずに、身体から悲しい液体が溢れていくのを、止める事が、できなかった。







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