AKIRA6



ぼんやり目を明けたら、明るい部屋の見なれない天井が目に入った・・・。
口の中にのこる粘ついた苦味と後ろからの鈍い痛みで、さっきまでの行為を思い起こした。

「平気か?ずいぶん無茶させたからなー」
同じベッドにいるキンパツの高校生は、煙草を咥えながら横目でこっちを見下ろしてきた。どうやら他の二人は帰った後のようだった。
「自分らでやっといて・・・。よく言う。」
枯れた喉から、情けないほど細い声で抗議した。
「オマエのせいだろ。あんな乱れ方されたら・・・、手加減も何もできねーだろうが。」
「・・・そんな、つもり・・・」
「ないのか?余計タチわりぃな。産まれついての淫乱か?」

淫乱・・・。
言われて腹を立てるほどのプライドも薄れていた。
現にそうなのだろうとも、思った。
複数のもので犯された部分は、乾いても無くて、トロトロと体内の残滓が零れ出していて、体中から男の匂いがする。
肌を吸われた跡も無数にあって、ぼんやりとそれを見下ろしていたら、訳もなく涙が込み上げてきた。

汚い。
こんな汚い体で、誰かを好きになる資格なんて、きっと、ない。
慎一郎は分かっていたのかもしれない。
俺がこんな人間だって。
こんな、・・・汚い淫乱なんだって・・・

「そろそろ帰れよ。もう12時まわるぞ。」
「・・・うん。」
のろのろ起き出して、ベッドのまわりに落とされた服を身につけた。
どんなに肌をかくしても、抱かれていた匂いまでは隠せない・・・。
それでも、なんとか重い腰を上げた俺を、相手が、気まぐれか暇つぶしのつもりか、隣から支えてくれた。
そのままなんとかアパートの階段を降りる。
川原の少しだけ涼しい風が、涙が乾いてかさついた頬を撫でていった。
「うち、どうせ近いんだろ?送ってやるよ。」
「いらない。親が見たら心配する。あんたみたいなのと一緒だと・・・」
「ひでぇ言われようだな。オマエもだろ?その頭。」
「俺のはホンモノだから・・・。」

めずらしげに見下ろした後、そいつは、キレイだな、と言ってくれた。

「・・・なぁ。また、会えるか・・・?」
いきなり尋ねられて隣の顔を見上げた。
「もう、あいつらは呼ばねぇ。なんでだろうな?あいつらに犯されてるオマエ見てたら、なんか気分わりぃんだよな・・・。」
「気に入っちゃったんだ・・・。」
「わりぃかよ。イイもんはイイんだからしょーがねぇだろ?」
「・・・ふ。」

何も無くなったからっぽの気持ち。このヒトは、俺と変らない匂いがする・・・。
なんとなく見詰め合っていて、気がついたら唇が塞がれていた。
なんの味もしない。
ただの触れ合い。
いっそ、この人に心ごと奪われてしまったらいいのに・・・

そう思って、されるがままに身を任せて、首を傾けた・・・。
その時だった。

人の気配。
かすかな足音に、ふとそっちへ目をやって、俺は心臓が止まるかと、思った。

こんなトコロに、いるはずのない人が、肩で息をしながらじっとこっちを見つめていた。
静かな、双眸。
風にゆれる黒髪は、彼らしくなく乱れていて・・・
その長身の腕には、オレの鞄が抱えられていた。


「・・・セン・・・セ」

ようやくそれだけ、声が出たけれど、その先、どうしたらいいのか、何を言えばいいのか、頭が真っ白になって体が動かなかった。


「・・・」
キスしながら、抱き合っていたオレとその相手に動じることなく、慎一郎の足がまっすぐにこっちへむかって進んできた。
無意識に後ずさるオレを、キンパツの高校生がかばうように抱きしめた。

「・・・来なさい。」
抑揚の、ない、声。
すぐそこにある顔を、見られない。


ただ石のように固まっている俺の腕を、慎一郎がつかんだ。

「っ・・・・」
びくりと震えた体。俺を抱きしめていた相手が慎一郎に向かって怒鳴った。
「離せよ・・・!いやがってるだろ?」

その声を無視したまま、掴んだ腕の力を強めて、また、言う。

「来なさい。」

まるで催眠術にかかったかのように、足が、フラっと前へでた。
抱きしめられていた高校生の腕からぬけでる。
前に一度慎一郎に腕を折られかけた経緯があるせいか、そいつはそれ以上構おうとはしなかった。

「二度と、この子に手を出さないでください。」
静かだけれど、逆らえない威圧感が込められた、初めて聞く声だった。
少し間をあけて、高校生が笑いを含んだ声音で言い返した。
「・・・そっちが求めてきたらどうするんだよ?もしかして、あんたがシンイチロウか?」
「・・・だったら何か?」
「教えてやろうか・・・?そいつが、さっきまでどんなだったか・・・」

冷めかけていた火照りが、一気に吹き上げて叫んだ。
「やめろ!言うなっ・・・!!」
その声までが、悲しく掠れていて喉に手をやった。
「男三人を同時に相手しながらなぁ、イイ声で泣き喚いてたぜ?」
「やめろよっ・・・!やめろっ・・・」
「シンイチロウって何度も叫びながら、あんたを想像して何回イッたと思う・・・?もうでねぇんじゃねぇかってくらい、精液漏らしまくってたよなぁ。次は本人にイカセテもらえよ・・・。まだ、出る液が残ってればの話だけど?」
くくと、嘲るように喉の奥で笑った後、足音が遠ざかっていった。


土手の上に、ふたりきりで残されて、ここに慎一郎がいるのに、こんなにそばにいるのに・・・
独りでいるより、胸が痛んだ。
たとえ、今
事実を言われなくても、これだけそばにいたら、もうばれてる。
カラダ中から男の匂いをさせて・・・足元すらおぼつかない。

腕を掴まれたまま、何も言えず、たたずんでいた。
沈黙が永遠に続くかと思ったとき、慎一郎の声が、耳に流れてきた。

「鞄も置いたままいきなり飛び出して・・・。家に電話しても留守電に繋がるし・・・。どれだけ心配したか、分かってるんですか?」
違う世界の言葉を聞いているようだった。
心配・・・?
慎一郎が、俺を・・・?

答えられずにいる俺の手を引いて、慎一郎が歩き出した。
数歩進んで、膝がくずれて、俺はその場にしゃがみこんだ。
恥ずかしさで、このまま消えてしまいたいとさえ、思った。
一番見られたくない人に・・・一番知られたくない部分を全部晒された・・・。

どうして、ここにいるの?
どうして、俺なんかを探すの・・・?
どうして・・・・?

聞けない質問は、脳内で繰り返すうちに、答えが見えた。
・・・慎一郎が、俺の担当講師だから。
彼は、大人で、これは仕事・・・。責任があるから、放って置けない、それだけの事。

もう出ないと思っていたのに、新しい涙が浮かんで、抱えた膝を濡らしていった。

「歩けない・・・?しょうがないね、ほら。」
目の前に、彼の背中があった。
ナンのことだか分からずにただそれを見つめていると・・・

「はやく、おいで。終電に間に合わなくなる。」
「・・・おいで、って・・・」
「歩けないんでしょう。おぶってあげるから・・・。」

ますます、彼が何を言っているのか分からなくて首を傾げた。
「終電・・・て、俺んち、歩いて帰れる・・・」
「そんな状態で、うちに帰せるわけがないでしょう。中途半端にホテルに入るより、このほうがいいから。」
「・・・あの、・・・でも。」
「いいから、来なさい。」

無理矢理背中に乗せられて、反射的にその首に腕を巻いてしがみついた。
彼の髪に鼻先が埋もれて、そのにおいで胸が震えた。

そのまま当然のように駅へ向かって歩き出した慎一郎の背中で、1歩1歩に揺らされながら半信半疑で問い掛けた。

「・・・センセー・・・どこ、行くの・・・?」

「センセイのうち。」

・・・その答えも、この背中のぬくもりも、
全部が夢なんじゃないかと思った・・・。

夢だとしか、思えないほど、・・・その背中はあったかくって・・・いつまでもここで揺られていたいと、心から願った・・・。



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