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naked fell ++
哀川ナオ
好きなのか・・・?
そう意識しはじめてみると、妙に心がザワザワして昔のように斜に構えていられない。
『江崎は俺に惚れてるんだよ』
恭介に言われるまで、そんなコト思っても見なかった。
けれどその感情は気が付き始めると、小さな種火があっという間に大きく燃え広がって心を焦がす。
ふとしたときに思い出しているあの顔。
いつだってからかうような笑顔で、嬉しそうに笑いながら子供にするように頭に触れてくる。
そんなふうに人に触れられたことなんて無かったから、どうして良いか分からずに邪険にその手を振り払ってしまう。
そしてその後で胸の痛み・・・
あ、コンナコトしたら嫌われてしまうかも・・・・
でも、恭介はそんなことまるで気にも留めないふうで全然変わらず俺に触れてくる。
だから俺は何となく安心して自分を作ったりしない。
作ったり・・・・?
そう、本当の自分なんて知らない。
物心付いたときには感情を押し殺すことを覚えていたし、なにに対してもあまり興味が湧かなかった。
弟たちが笑っていられれば自分なんてどうだって良いと思ってた。
それが、自分だって、そんなふうに思ってずっと今までやってきたのに・・・・
なのに、
「江崎、」
呼ばれただけで身体が固くなる。期待に震える。
「来週の花火大会だけどな、」
「無理。」
「弟か?」
呆れたような声。
「毎年行ってんだよ。」
「バ〜カ、今年は振られるんじゃないのか?」
抱き寄せる腕に肘を張って抵抗する。
「・・・・そんなコト、ない。」
「ふぅん、ならイイや。俺も誰か適当に見つけて行って来るし。」
ズキン、胸の痛み・・・・
「勝手にしろよ。俺には関係ない・・・」
意地を張ってると思う。
強引に誘われれば都合もつけたと思うのに、恭介はあっさりと引いて自分以外の誰かを探すと言う。
ベッドの上で裸の俺を抱きしめているのに・・・・
ゆっくりと身体を起こして床に散った衣服を拾い上げる。
「もう帰るのか?」
半身を起こしてタバコをくわえた恭介が言う。
それには答えずに黙々と服を着て洗面所に入った。
鏡の中の自分はあいかわらず無表情で可愛げのかけらもない。
愛してる。
そう言ってくれた言葉がウソだとは思わないけれど、その後で気持ちが変わってしまったかも知れない。
こんなふうに他人の気持ちが気になるなんて、その時点で既に恭介が自分にとって他人でなくなっている証拠なのだろう。
洗面所を出て玄関に向かう。
「帰るのか?」
もう一度背中に声を掛けられたけれど俺は振り向かなかった。
*****************

「あ、今日、俺らメシいらないから。」
樹がそう言うと隣で芙束がほんのちょっと頬を染めて頷く。
「ああ、そうか。」
花火大会の当日。
朝食の時に今日の予定を交換する。
もともとこの二人は出かけていくだろう事が分かっていたから「気を付けてな」と目配せして卵焼きに箸を付けた。
「あ、俺も・・・」
遠慮がちな声に顔を向けると雅也が何か言いたげな顔でこっちを見ている。
「どうした?」
「あ、いや・・・俺は秀兄と一緒に行こうと思ってたんだけどね、亮が・・・」
「ああ、いいよ。行っておいで。」
気を、・・・使われているんだろうか?雅也に?
俺がひとりだと寂しいと思って?
寂しいワケなんか無いだろ?もう子供じゃないんだから・・・
『バ〜カ、今年は振られるんじゃないのか?』
言った声はバカにしたふうだっただろうか?
アイツには分かっていたんだろうか?俺がもう、ウチの中で誰にも必要とされなくなってしまったことに。
それぞれに兄弟よりも大事なヤツが出来て、俺が取り残されてしまっていたことに・・・
寂しい・・・・
ふと、そんな感情が胸を掠めて、そんな自分にとても腹が立った。
寂しいなんて、・・・・
その感情はガッコウに行ってからも消えることはなくて、一日中憂鬱な気分で過ごした。
*********************
放課後、同僚の教師と廊下を歩いてくる恭介の姿を見つけてなんとなく避けてしまった。
顔を合わせたら言ったこともない泣き言が口から出てしまいそうだったから・・・
ウチに帰っても誰もいなくて、がらんとした家の中は寒々しくて居たたまれなかった。
逢いたい、逢いたい。
そう思うけれど誘いを断ったのは自分で、今頃は別の誰かと楽しんでいるに違いない。
そう思うと息が出来ないほどに胸が痛んだ。
どうして、今日、ガッコウで声を掛けなかったんだろう?
『弟はみんな用事が出来たから、俺もフリーになった。』
そう言えばきっと、ほんのちょっと人の悪い笑みを浮かべて
『じゃ、俺らもデートする?』
って言ってくれたと思う。もし、他に約束があっても・・・・・?
『バカ、遅いよ。先約済み。』
って言われない保証はどこにもない。
胸が痛い。
ただ、胸が痛んで、家に居たくなくて外に出る。
あてもなくフラフラしていると花火大会をやっている河原に辿り着いていた。
まだ花火は始まっていないらしくたくさんの人が屋台に沿って流れている。
なに考えてるんだ?俺は。
こんなトコ歩いてたら誰に会うか分かんねぇのに・・・
きびすを返して人の少ない方へ向かう。
にぎやかだった河原も橋をくぐって会場から遠ざかれば閑散として、やがて人は誰もいなくなった。
小さな公園があって、動物のオブジェが置かれている。
それに腰掛けて夜空を眺めた。
今頃・・・・
思い浮かべた顔は双子でも、一番下の弟でもなくて恭介の顔。
何でだろう?どうして素直になれないんだろう?
芙束みたいに、樹みたいに、雅也みたいに・・・あんなふうに、どんなカタチでも感情を相手にぶつけられたらどんなふうだろう?
「恭介」って名前を呼んで「好きだ」と囁く。
そうすれば、もっと俺のコトを可愛いと思ってくれるだろうか?
大切にしてくれるだろうか・・・・
「!」
イキナリ背後から抱きしめられて驚く。
そして次の瞬間、思いっきり肘で自分の後ろにあった身体を突いた。
「げ、痛ぇ。」
それでも抱きしめた身体は離れなかったけれど、聞き覚えのある声に抵抗をやめる。
「だ〜れだ?」
「・・・ばかか。ガキじゃねぇん・・・」
「ガキだろ?」
遮るように耳元に囁かれる声。

寂しかった、痛かった胸がすっと軽くなる。
そして、今度は違う息苦しさ。
嬉しい。
寂しくない。
・・・・・もっとこうしていて欲しい・・・・
「・・・・他のヤツと一緒に来たんじゃ無かったのか?」
それでも、自分の口は勝手に憎まれ口を叩く。
「来たよ。来てたけどな、お前が見えたから追いかけてきた。」
恭介はそう言って俺の隣に腰を下ろした。
「良いのかよ・・・」
本当はとても嬉しくて、そしてその喜びを伝えたくて恭介の身体のどこかに触れたいと思うのに、自分には指を絡めることすら出来ない。
「う〜ん、だって俺とお前って恋人だろ?なら一緒に居たいじゃないか。」
当たり前のように言われた。
そんな恥ずかしいこと、よく口に出して言えるな・・・と思ったけれど、自分も同じ気持ちな事に気が付いて目を閉じた。
素直になれるだろうか?
側には誰もいなくて、河からは気持ちの良い風が流れて髪をそっと揺らす。
「・・・・恭介。」
小さく名前を呼んでみた。
初めて口に出した名前。
「ん?なんだ?」
初めて名前を呼んだのに、そんなこと全然気が付かないのか恭介はいつものように返事をする。
なんだか、ちょっと気が抜けた。
大したことじゃ無いのかも知れない。
気を張って、頑張らなきゃいけない事じゃ無いのかも知れない。
だから、続けて今まで言ったこともないような言葉が出てきたのだと思う。
「俺のコト、見つけてくれて嬉しかった・・・・」
あんな人混みの中で俺のこと見つけてくれて、すごく嬉しい・・・・
それを聞いた恭介は、本当に嬉しそうな顔をして俺の肩を抱き寄せて、まるで宝物にするように優しく優しくキスをした。
終わり+++
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