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12月25日
「えーーーー???いやだよー」
昨夜はめた指輪をはずせと言ったら芙束は唇を突き出して抗議してきた。
「しょうがないだろ?うちの校則で指輪やピアスは禁止なんだから・・・」
「でもっ・・・だって、これは・・・・ただの指輪じゃ、ないもん・・・」
守るように左手を右手で包み込んで、悲しげに首をたれる。
「そりゃ、オレだって外したくなんてないけど、没収されるよりマシだろ?」
「・・・ぼっしゅう・・・・」
そのヒトコトが余程効いたのか、芙束はしぶしぶ指を差し出した。
外す瞬間の眉根を寄せた顔まで、愛しくてたまらない・・・。
約束の結晶は、黒いレザーの紐に通して首にかけてやる。金属のネックレスは冬場は冷たいだろうから、おそろいの紐も買っておいたのだ。
まだ洋服をきていないハダカの胸にキラリと光る指輪。これも中々に魅惑的だな・・・
再び自分の一部に戻ってきたそれに、芙束は満足げな笑顔を見せる。昨夜オレが吸った跡もなまめかしく残る左の乳首にリングをあてがって、「じゃーん、銀色のにゅうりーん」などと一人ではしゃいでいる。
ふと目があうと、何かを口にしかけたがためらった様子でもごもごと唇を動かしだした。
「・・・・?」
言えよ、と目線で促すと、意を決したようにコクんとのどを鳴らしてから、こう囁いた。
「・・・・ありがと、・・・・、アナタ!」
オレがリアクションを返す前に、きゃー!はずかしい!!と自分でさけんでシーツを頭からかぶって顔を隠してしまう。そのままもぞもぞとのたうって、ボトとベットから落ちてしまった。
あいたー、と情けない声をこぼしているオレだけのカワイイ奥さんを、シーツごと抱きしめて拾い上げてやりつつ・・・この無邪気な子供のような芙束がもっている、夜の顔を思い起こす。淫らで、欲望に素直で、愛欲の化身のような・・・・・
思い出して疼き出す部分に逆らわず、ミノムシ芙束を押し倒して耳を食んだ。
ん・・・っと堪えた声はすでに甘くて、覗きこんで捕らえたまなざしはすっかり潤んでオレを誘う。
「・・・・AB型だしな・・・。」
「・・・なにが?」
「いや・・・ヒトリゴト・・・」
はぐらかして、この二面性をオレ以外の前でさらされては溜まったものじゃないと、ぎゅっと抱きしめる。誰にも見せてなるものか。あの瞳・・・、色づいた胸・・・。甘い吐息に雫を溢れさせる愛しい先端・・・・。さっそくプレゼントにもらった例の引換券を使用したくなる・・・・。そう、アレを使って芙束にさせるのは・・・・・・・・・・・・・・

不埒な行為に及びつつ・・・さらに頭の中でとんでもない濡れ場を妄想している自分に、一瞬呆れなくもなかったが・・・。
若いんだからショウガナイ。そして特別な日なのだから、自分に甘くなったっていいじゃないか?!
12月23日
イブも直前。朝から芙束はなにやら自室にこもってドアに、でかでかと
『あけたら罪金10円!!』
と、なんの脅しにもならないような金額提示を貼っている。ついでに、バッキンのバツの字がツミになっている事を指摘してやりたいところだが、とりあえず今日は自分も忙しいのでコートを着こんでうちをでた。
目標のプレゼントを手に、ここ一月、よくがんばったと自分を誉めてみる。こういう日は無条件に心が広くなりがちだ。でかけたついでに秀と雅也へのプレゼントに靴下を購入した。ただし、雅也の分は、お菓子が詰まったプラスチック製。
「・・・そういえば。」
だいぶまえだが雅也が、今年は亮も呼んだとうれしそうに話していたような・・・。
プラスチック長靴をもう一つ手に、レジへ向かった。
「むぉ?樹じゃん。なにしてんのー?」
背後から、休日にまで会うのはごめんこうむりたい友人の声。
「・・・坂井。そっちこそ・・・」
言う俺の声など右から左へさようならで、手元を覗きこんでくる。
「うっわ、似合わねぇな〜、オマエにお菓子の長靴!まさかソレ芙束に?」
「弟のだよ・・・」
と答えつつも、これをやったら確実に悦ぶであろう芙束の顔が浮かんでしまう。
「いやーーーん樹くんて、実はうちでは結構イイお兄ちゃんしちゃってるわけ?弟君にお菓子長靴プレゼントしちゃうわけ?」
「・・・・・・な、なんだよ・・・。」
改めて言われると、なんだか妙な気恥ずかしさを感じてきた。さんざんからかわれ、あげくの果てに「お兄ちゃん」と呼ばれ、電車に乗って家路につく頃には広くなっていたはずの心は風呂場のタイル一枚にも満たないほどに縮まっていた・・・。
12月17日
週末に階段の下の物置からひっぱりだして飾ったばかりのクリスマスツリーのおかげで、真夜中のリビングはずいぶんと幻想的に華やいで見えた。
赤、オレンジ、緑・・・色とりどりの点滅するライトの暖かい光の中に、芙束がいた。
ソファの片方に体をよせて、パジャマのままで眠っている。
こんなトコで、毛布もかけずに・・・・。小突いて起こしてやろうと伸びた右手が、つい勢いを無くし、そのままやわらかな曲線を描く頬をなでた。
その頬の温かさに、自分の手が外気でどんなに冷えていたかを思い出し、慌てて引っ込める。
こんな冷え切った手で触るのはかわいそうだが、触れたい、少しでも、近くに感じたい。
空いた隣に座って、少し手をこすってあたためてから、髪に触れた。
細いねこっけが指に気持ちよく絡まる。戯れるように毛先をもてあそんだり、頭の形にそってゆるくすいたりしているうちに、芙束の目がふ、と開いて俺を捕らえた。
そして、目の前で花が咲く瞬間。ほころぶように嬉しそうに、芙束が笑顔になる。
その笑顔を咲かせたのは自分なのだと思えば、それだけで無意味なほどに胸が熱くなった。
抱きしめて、石鹸の匂いにまじる芙束の匂いをいっぱいに吸いこんだ。覚醒しきらないたどたどしいコトバを、ぽつりぽつり胸元に落としながら、ふいに芙束がかすかに肩をふるわせた。
首筋に濡れた感触。
涙のわけを聞いてもなんでもないと繰り返して擦り寄ってくるばかりだ。
泣くな、なんて言うつもりはない。悲しければ、いくらでも泣けばいい。
ただし、一人ぼっちで泣かないで。泣くならきっと、この腕の中で・・・・。
慰める役目を感じる瞬間、自分が彼に必要なのだと実感できる。ずっと笑顔で笑いあっていたいオレと、その影にもう一人・・・。芙束を泣かせて、慰めていたいと思う矛盾したオレも、存在していた。
12月13日
バイトにもすっかり慣れてきて、はじめの頃ほど疲れることも無くなった。ふと、サラリーマンはこうして過酷な労働に、適応せざるを得なくなるのだろうか・・・等と、予定も未定の先を思ってため息がこぼれたが、とりあえず俺には努力するにふさわしい恋人が居るので、今のところさして負担ではない。
1日の終わり。フロに向かう途中、トイレのドアの前でなぜか入るのを躊躇しているパジャマ姿の雅也に遭遇した。あの日以来、目もとの泣き跡は消えていない・・・のだが、明日からは学校にいくと言っているらしい。
「何してんだよ。」
「うわっ、な、なんだよっ、後ろから声かけるなよっ!」
「じゃぁ背中向けんなよ。」
う、とコトバに詰まった雅也に、ついつい普段通りのノリで続けた。
「一人で便所はいれねぇの?怖いんなら一緒に入ってやうか・・・」
「便所くらい怖くねぇよ!」
・・・なんだ。思ったより威勢いいじゃないか。
だとすると・・・?トイレの前で躊躇する理由って・・・?いくつかの可能性を考えて、じっと見上げてくる丸い目を見下ろした。発育が、いいとは言えないこの身長に加え、お子様オーラ大爆発。いつだったか、バックバージンとは何ぞやと問われたコトを思い出し、その手のコトにウトイという点を考慮に入れると・・・もしかして・・・。突然白いものが出て怯えてる・・・?まさかな・・・いや、でも・・・
「なぁ雅也。」
「うんー?」
「オナニーって知ってるか?」
とたんに目の前の顔が蒸気を吹かんばかりの勢いで朱に染まり・・・
「ば、ば、ばばばか!知ってるやいっ!!!」
なんだ、知ってたのか・・・。中1だしな。下をむいたままブツブツ言っている頭を、ぐしゃぐしゃかき回してやった。このままぎゅっとしてやるのも、悪くないかと思わせるような、庇護欲をそそる幼い体。
「早く良くなれよ。」
風邪だってだまされてやってるふりで言うと、驚いたように見上げてきた。俺の優しい言葉に慣れていない、・・・たった一人の弟。
「オマエがそんなんだとうちの長男、そのうち胃に穴あけちまうぞ?」
ちょっとはぐらかしてトンと頭を軽く押し返し、そのまま脱衣室に入ってドアを閉めた。
ドアごしに届いたのは小さく鼻をすする音と、アリガト・・・という涙声・・・。泣かせたくなくて、かけた言葉が逆効果。今の雅也には泣く事も大事な回復剤なのだろうか。
12月12日
フロから上がると、俺の部屋で芙束が勉強道具一式もって待ち構えていた。かしこまって正座して、センセイ今夜もお願い致します、と深々頭を下げている。
こちらこそ、と言っておいて低い机の反対がわに座った。さっそくノートを開こうとする俺の手を、湯上りの俺と変らない暖かい芙束のそれがぎゅっと握ってきた。もう片方の手で俺の髪の毛を触りながら、
「ダメだよ。ちゃんと乾かさないと、風邪ひいちゃうよ?」
「大丈夫だって。暖房つけてるし。」
「だめっ!ちゃんと乾かすの!雅君みたいに樹まで寝こんじゃったらたいへんだもん。」
真剣な眼差しで懇願され、ドライヤーをさしだされ・・・、断れようはずもなく数分後・・・。
「サラサラ・・・、イイ匂い・・・。」
人の髪に指を絡めて鼻をすりよせて、芙束は勉強そっちのけで俺の髪の感触を楽しんでいる。
「元気で居てくれないと。樹、自分が風邪ひいたらきっと僕にキスもしてくれないんでしょう?」
「あたりまえだろ。移したくない・・・。」
「だったらちゃんと、風邪予防してね。毎日のキスの為にも・・・。」
「じゃぁ、今日の分・・・。」
日付がかわったのでさっそく強請って、唇で睦み合う。思う存分味わって、余計な熱が首をもたげないうちに勉強へ移ったのだが、切り替えが苦手な芙束はしばらくぽーっとしたままぼんやりとノートを見つめて居た。
そして、思い出したように呟く。
「雅君、早くよくなると、いいね。」
「・・・アイツ、風邪じゃないだろ・・・。」
咳の一つも聞いていないし、休む前の晩の異常な目の泣き腫らし具合から・・・学校で何かあったらしいのが原因だと踏んでいる。
「風邪じゃなくても・・・。身体とか、心とか、苦しいから休むんでしょう?雅君、風邪じゃないんだとしたら、きっともっと苦しいと思うよ・・・。かわいそう・・・。」
ドアの向こうの廊下を隔てた雅也の部屋のほうを見つめながら、自分のコトのように瞳を曇らせている芙束。同じ感情をもっていないわけじゃない。けど、そのまま表現するには、俺の性格は余計なオプションが付きすぎていて・・・。
今俺に分かるのは、秀と芙束という兄をもった雅也は、少なからず幸せだろうと言うコトだけだ。
12月11日
めくった布団の中から現れたのが予想外の艶めかしい裸体で・・・、頭では『遅刻』の文字がうるさく警告を発しているというのに、正直な肉体はそのまま引き寄せられるようにベッドへと沈んだ。
この前からやたら寂しがり、必至に二人きりの時間をつくろうとしてるように見えていたのは、やはり勘違いではなかったらしい。
焦がれる存在がこんなに無防備に自分を待っていたのかと思うと、今日くらい学校さぼってもバチは当たらないんじゃなかろうかとさえ思ってしまう。
寝起きのいつもより高めの体温と、起き抜けの表情が、幼さを際出させるようで・・・
特有の何故か甘い香りで鼻腔を満たされ、明るい朝日に照らされた真っ白な肌を見ているうちに・・・
「あ、樹・・・おっきくなってる・・・」
自覚のある欲望の高まりを指摘され、制服のズボンごしにいたずらに腰を押しつけて笑い合った。
「寒いよ・・・ねぇ、制服着たほうが、いい?それとも・・・樹が僕のことぽかぽかにしてくれる・・・?」
「熱すぎて困るほどはぁはぁ言わせてやる・・・」
「はぁはぁなんて、僕っ、言わない・・・っぁ!」

蕩ける喘ぎは続くことなく長兄の奇襲であえなく朝の短い伽(トギ)は終焉を迎えたのだが・・・。
芙束のためだと、バイトで自分が充実してるせいで、肝心な本人の気持ちをどこかで忘れていた。
一緒に暮らしていながら寂しがらせていては恋人の風上にもおけやしない。・・・だけど、もう少し。後少しで二人分の想いの形に手が届きそうだから・・・待っていて欲しいと願うのは、自分勝手だろうか。