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12月25日
いくら休みだからといって、クリスマスだからといって、昼過ぎに起き出す生活なんて誉められたもんじゃない。
が、真夜中に一人で家に帰ることが板についている俺にとって、恭介のベッドで、しかも、その腕の中での目覚めというのは・・・・気恥ずかしいのと同じほどに、心地がよくて・・・・。
背中ではすでに起きているらしい気配がする。
昼の太陽光だけで充分に明るい室内の上空に、恭介がはいたらしい煙草の煙がたゆたって見える。
首の下に感じる腕の体温・・・。
まさか、一晩中こうしていたんだろうか・・・?
まくらとの段差で多少は重さが軽減されるにしろ、腕がしびれてるんじゃないのか・・・?
そこで普通に体を起こせばいいものを、何故かオレは寝たふりを決めこんで動けずにいる。
心地よさを、だんだんと恥ずかしさが上回ってきてしまったのだ・・・
どんな顔をして何て言う?普通に朝の挨拶をかわせばいいだけのことなのに、なぜこんなにオレは緊張しているんだろう・・・。
「・・・起きたか?」
ふいに声をかけられ、肩が揺れてしまった。・・・その振動はそのまま恭介にも伝わったはず。
あぁ・・・、と何気なく返して、上体を起こした。
「・・・なにをビクついてるのかなぁ?江崎君は・・・?」
「・・・・」
まっとうな理由が自分でも分からないのだから、答えられなくてもムリはない。窓側を向いて目を合わせられずにいる自分が、また異様に恥ずかしくなる。
「別に取って食やしないのに・・・」
と咥えタバコの隙間で苦笑をもらしつつ言ったらしい恭介は、「あ、取って食ったばっかだったよな?」と自分で突っ込んで、苦笑を重ねている。
そこでやっと目を合わす気合を入れて、隣に座っている男をチラ、と見やった。
短くなった煙草を枕もとの灰皿に押し付けているトコロだ。そこにある本数から逆算して、よほど前から起きていたらしいコトが推して知れる・・・
「・・・アンタの朝食はケムリか・・・・」
聖夜を共にした朝の開口一番がそんなセリフ。相変わらず可愛げがない・・・と思うが、見詰め合っておはよう・・・なんて微笑をたたえて囁きあうなんぞ、想像しただけで自主的に校庭を全速力で走りたくなるような気分だ。
オレの下敷きになっていた二の腕を、興味本意でぎゅっと掴んでみた。
「コラ・・・。」
まるで、オトナをからかうな、とでも言うように、逆の手で頭を軽く押される。掴んだ瞬間に、その整った眉がわずかにゆがめられたのをしっかりと見てしまった。
・・・間違いなく、しびれているのだ・・・。
恭介はそのまま何も言わず部屋を出て行く。ドアを開けるのに利き手の右を使わないのも、おかしい。どうやらそのままトイレに直行したようだった。
・・・まさか、トイレにいくのさえ我慢して、オレが起きるまであの体制を保っていたのか・・・・!?
「バカ・・・・。ほんっと、バカ・・・・。」
口にしながら、世の中には、こんなにくすぐったくて、暖かい気持ちで呟く『バカ』があることを、はじめて知った・・・。
12月21日
冬場の外周りの掃除は結構こたえる。玄関前を割り振られている今週は特にそうだ。朝から冷たい雨がアスファルトを濡らしているので屋根のある部分だけに範囲はせばまるが、それにしたって寒いコトに変わりはナイ。
「くぅ〜〜〜〜〜っ!まるで修行だね?」
おおげさに振るえあがりながらほうきを片手に歩き回っている仲澤は、どうみても掃除をしているというよりは、ほこりを巻散らかしている・・・・
もう一人の当番のヤツは運良く進路関係で担任に呼び出されており、残りの一人の本宮が、唯一丁寧に端から清掃にいそしんでいた。
「寝るな!!寝ると死ぬぞ!!江崎君!!」
寝てねぇだろ・・・とつっこむ前に、仲澤がほうきをほっぽって背中から抱きついてきた。
「重・・・・」
「本宮隊員も来ないかい?原始的な方法だが凍死には代えられない!」
もはや勝手に登山舞台を結成させたらしい仲澤が、すみの方であいまいに笑って首を振る小柄な腕をむりやりひっつかんでオレの正面に配置させた。
「必殺!サンドイッチ殺法!」
・・・今度は殺すらしい・・・。
何もかもあほらしくなってされるがままにはさまれた。
「あっ・・・あ、ボク、困るよっ・・・離してっ・・・」
オレの胸に押しつぶされるようにくっつきながら本宮がもじもじ身をよじる。どこか母性本能を刺激する小動物のようなしぐさに、つい笑顔で言ってやった。
「・・・オマエあったかいな・・・。人間カイロ・・・。」
目の前の顔がぽーっと染まり、直後はずかしげに顔を押し付けて、「ワルイよ、ボク邪魔モノなのに・・・」とか謎な発言を連発しはじめる。
冗談としか思えないサンドイッチ殺法は、真中に居る俺にとっては思いのほか有効で、背中と腹があったまってきた。
「楽しそうだな〜」
ふいに背後からかけられた声は、恭介のモノ・・・。イヤな予感がした・・・。
「センセーも混ぜてくれ!!」
「混ざるなっ!」
12月17日
「な、な、江崎、オマエはどの子が好み・・・?」
昼休憩に教室の一部にできた黒い人だかり。群れるのは好きではないのであえて遠ざけているこっちの心情などあっさりと無視してくれた仲澤に、その輪の中へ引きづり込まれた。
机の上には色とりどりの写真。見ればどれもこれも平均を上回る綺麗ドコロのオンナばっかりだ。
「ど〜よ?迫水コレクション2001よ?」
自慢げにフフンと鼻を鳴らしたのは写真部部長、迫水ルリオ。とうに引退したはずのこの時期でさえ頻繁に部に顔を出し、いいかげんうるさがられていると・・・情報に疎い俺が知ってるくらいだ。そうとうやっかまれている事実が推して知れる。
「俺はコノ子なんかいいなぁ〜。胸が無さそうでそそる・・・」
妙な個人趣味をさらしながらにやける仲澤に、オマエは?と訊かれ、改めて並べられた写真に目を走らせていたその途中、視線が止まらざるをえないモノがソコに・・・
「おお!江崎はコノ子が好みかぁ?」
あからさまに一点に囚われた俺の目線の先には・・・いつぞや自宅のリビングで見せられた一枚の写真が・・・。
これは暁に通ってる弟が撮ったのだと教えてくれる迫水・・・。
教えてくれなくても、知っている・・・。その小さな四角い枠の中でいつもどおりにどこかぽーっとした顔のままあられもない看護婦姿で足をあげているのは・・・俺の弟・・・・・・・
「信じられる?コレオトコなんだぜ?犯罪だよなぁ?」
同意を求める迫水に、その場にいた全員が激しく頷き、ゾク、とイヤな汗が背筋を伝う。
「でもさ、この見た目でドンナノ、付いてんのか・・・・気になんない?」
誰かがボソっと吐いた聞き捨てなら無いそのセリフに、またもその場の全員が激しくうなずいた。

「なぁ、芙束、空手とか、習ってみないか・・・?」
真剣に防犯対策を考えてそう切り出したのだが。
「カンフーごっこ?秀兄と??いいよいいよ、やろうやろう!」
オオはしゃぎで、あちょーーーと奇声を上げながら抱きついて来る弟に、それ以上のかけるコトバを無くしたのだった。
12月14日
今日から雅也が学校に通い始めた。朝の玄関で、自分に気合を入れるように赤いほっぺを両手でペシペシ叩いたいるのを見てしまい、ムリしなくても休みたいだけ休めばイイ、と声をかけそうになるのを押さえた。
「いってきます!」
冬の朝日に溶けて、消えてしまいそうな笑顔がドアの向こう側に見えなくなる。
胸に溜まる心配という名の重い気体。
それを吐き出そうと唇が開いた矢先・・・
「はいはい、そこのヒト、ため息禁止!」
リビングから出てきた樹が右側からオレを追い越していく。
「ったく・・・。泣き顔が連鎖してたら家中暗くなってたまったもんじゃねぇ・・・。」
独り言のように、けれど、明かにこちらに聞こえるように発音しながらさっさとドアから出て行ってしまった。
「あーーっもぉーっ待ってよ樹ーーっ!」
置いて行かれた芙束が、つまづきつつもなんとか玄関でくつをひっかけてドアに手をかけ、そこでふとオレを見やってニコっと笑う。
「樹ね、秀兄が雅君のコト、心配しすぎてるって・・・昨夜もおやすみのちゅーの時に僕に言うんだよ?そうやって自分だって雅君や、秀兄のことまで心配しちゃてるくせに・・・。」
おかしいよね?と微笑んで、柔らかい視線で見上げてくる。同時に伸びてきた指が、おもむろにオレの両頬を遠慮なくつまんでムリヤリな笑顔を作らせた。
「笑って?ほら、にーーーーーっって」
頬がいたくて笑うドコロではないのだが・・・
「にーーー!」
なおも笑顔を強要してくる芙束があまりに真剣で、ホンモノの笑いが込み上げた。それに満足して、「よし!秀兄イイコイイコ!」と、このまえから気にいっているらしいセリフで、あたまをなでられる。
「芙束っ、遅れるだろうが、はやく来いっ」
どうやらやりとりをドアの影から見ていたらしい樹が、所有権を誇示するように芙束の肩を抱き寄せて出ていった。去り際の視線の鋭いコトといったら・・・。
安心しろ。盗ったりしないから・・・。
12月12日
「どした・・・?」
学校では普段と変らないつもりの俺のわずかな変化に気づいたらしい恭介が、じっと目を見つめて問い掛けてきたのは、偶然放課後の図書室で顔を合わせたときだった。
学校のすぐそばに市立の新しい図書館ができたばかりで、ここのところこっちは閑古鳥が鳴きっぱなしだ。
用があった歴史文学のコーナーはただでさえ奥まっていて、二人きりだと思わせる空間に俺は気を許す。
「あんた、聞いてもつまんない話・・・。」
タナに目を走らせながら言うと、
「弟君カンケイ?」
あまりにアッサリと図星をさされ、窓辺によりかかって腕を組んでいる彼をじっと見返していた。なんで分かるんだと訊く前に、答えが来る。
「オマエが自分のコトで悩むなんてそうそうありえないし・・・。俺との仲は順風満帆、だろう?だとしたら消去方で、残るはカワイイ雅也君。」

泣いていた。無防備に、声も殺せず、あんなに弱りきった雅也を見たのは、どれくらいぶりだっただろう。誰が泣かせた?誰に辛く当たられた?本当は泣いている訳をすべて教えて欲しかった。そうすれば俺がどんなコトだってしてやるのに。言えない理由があるから言わないのだと、しがみつく身体を抱きしめながら、寂しさに気づかない振りで自分に言い聞かせた。泣き場所ぐらいにしか、なってやれない。やがて小さくしゃくりあげながら、雅也は腕の中で眠りに落ちた。俺のシャツを握ったままのその手は、あまりに小さく映り・・・、守るべき、守られるべき存在なのだと、思わずにはいられなかった。
俺の話をだまって聞いていた恭介が、窓辺を離れてこっちに腕を伸ばす。されるがままに抱き寄せられて、ここは学校で、こういうコトをしていい場所では、ないのに・・・・。セーターごしに伝わってくる恭介の体温に誘われるように、頬をよせて目を閉じた。
「なぁ、オマエは?」
「俺?」
「オマエが雅也くんくらいのころ、誰が今のオマエの役、してくれた?」
「・・・・・・。」
誰って・・・・、と過去の引き出しに手をかけてみたけれど、引き出しの中身はからっぽだった。
「もっとさ。早く出会いたかったよなぁ。」
遠まわしな、けれど分かりやすい優しい言葉。うれしくて、恭介の肩口で頷いた。
「オマエが13で、俺は・・・21か・・・。」
しばらくの沈黙の後・・・
「多少犯罪チックだけど。半ズボンが似合っちゃうようなオマエとも、色々してみたかったなぁ〜」
どこまで本気なのだか分からない冗談と一緒に腰からその下へ滑り降りてきた大きな手を、思わずバシと、はたき落としていた・・・。
12月11日
朝、芙束を起こしに二階へあがった樹がいくらたっても降りてこない。
雅也は昨夜から具合がよくないんで今日は休ませると学校には電話を入れておいた。ただの風邪だと本人は言って聞かないが、どうもそれだけではなさそうで・・・。心配の種は残ったまま、時計を見やる。
あと15分ほどで8時。
しょうがないのでエプロンをといて階段を上がった。
芙束の部屋のドアが微かに開いている。
「・・・・おい・・・、」
声をかけながら中を覗き、直後吐く言葉を失う。すっぱだかで布団に押し倒されている芙束に、覆い被さる樹。まさに唇が生々しい水音を立てて離れた瞬間を目にしてしまったのだ・・・・・・
「あっ、秀兄っ・・・おはよう!」
こんな状況でさえいつもどおりに微笑む弟一号に、返した笑いは乾ききっていた。
全裸の芙束に、一方の樹はネクタイが解かれ、シャツのボタンが2つ3つはずれている・・・ってことは!オマエラ今から致すつもりだったのかっ・・・・

偏頭痛をおこしそうな勢いのこめかみをさすり、はやく降りてこいと言っておいて部屋を後にした。
おいつくように出てきた樹に、ここは言わねばなるまい。
「いいかげんにしとけよ・・・?これから学校って時間に・・・」
やや乱れた髪をかるくてぐしで整えつつ、樹は当然のようにこう述べた。
「恋人が裸でシーツにくるまってたら襲うのがオトコとして当然の礼儀だろ。」
「・・・・・・。」
返す言葉も無く、追い越して行く自信に溢れた背中を力なく見送った。
礼儀・・・か。
以前不覚にも裸でシーツにくるまっていて、その定説通りに襲われてしまった経験を持つ身としては・・・複雑な、心境・・・だった。