ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

日本は韓国を助けない

2013年――?


 2012年8月。政権末期だった李 明博(イ・ミョンバク)大統領の竹島上陸、天皇陛下を罪人扱いしたかのような侮辱的な謝罪要求、当時の野田佳彦内閣総理大臣からの親書受け取り拒否などが立て続けに起こった。もともと韓国マスコミの東日本大震災に対する「日本沈没」などと地震を歓迎するような論調での記事や、民間の交流の中でも、2011年9月に韓国全州で開催されたサッカーのアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)のセレッソ大阪対韓国の全北の試合で、『東日本大震災をお祝いします』とハングルで書かれた横断幕が掲げられたり、2012年8月のロンドンオリンピックで日本と韓国による3位決定戦の後、朴鍾佑(パクジョンウ)選手が、ハングルで「独島(竹島の韓国名)は我々の領土」と書かれたメッセージを掲げるなどの行動が報道されるに従い、韓国に対する日本国民の嫌韓感情は、もとはネットのごく一部のものであったのが徐々に広がっていた。そこにきての李大統領の一連の行動によって一般の日本人の韓国に対する感情は一気に悪化した。

 内閣府が2010年度(平成22年度)に行った調査でも、韓国に「親しみを感じる」「どちらかといえば親しみを感じる」が、合計で61.8%であったのに対し、2012年度の調査では一転して「韓国に親しみを感じる・どちらかというと感じる」意見は39.2%に大幅に減少し、反対に「韓国に親しみを感じない・どちらかというと感じない」とする意見は59.0%となった。

 そんな中で2013年2月に韓国大統領となった朴槿恵(パク・クネ)女史は、就任直後から元日本軍士官であった父親の朴正煕(パク・チョンヒ)大統領の親日イメージを払しょくするためか、日本に対する攻撃的な姿勢を鮮明にした。就任直後の、2013年3月1日の三・一独立運動記念式典では、「(日本と韓国の)加害者と被害者という歴史的立場は、1000年の歴史が流れても変わることはない」などと発言。韓国でこの発言をもとにした「千年恨」という言葉が、2013年の流行語となったという。さらに日韓以外の各国首脳に対し、歴史認識などで韓国側の一方的な主張を振りかざして日本側を貶める、いわゆる「告げ口外交」を展開し、日本の国民感情をさらに悪化させた。また、官民を問わず、国際社会で日本の名誉を傷つけ・貶めることを目的とした「ジャパンディスカウント運動」を展開していることも、言いがかりも同然な旭日旗問題や2013年9月のオリンピック開催都市の選考においてオリンピック誘致を妨害するかのように福島第一原発の汚染水問題を持ち出し、日本の8県(その中には海のない群馬、栃木も含まれていた)の日本産水産物を全面輸入禁止措置を行うなどの行為を通して、広く世間に周知させることとなった。

 逆に、日本の歴史認識を非難しながら、朝鮮戦争で韓国に甚大な被害を与えた中国に対しては接近を鮮明にした。朴槿恵大統領の働きかけで、朝鮮総督だった伊藤博文を殺害した安重根(アン・ジュングン)記念館が2014年1月に中国黒竜江省のハルビン駅に設立されたことなどは、「告げ口外交」の一定の成果であった。

 さて、表記の発言は、日韓両国の非公式協議で、日本側の政府関係者から出たものであったという。夕刊フジが2014年3月28日に記事にしたもの。以下は、記事の引用である。

 「朝鮮半島で再び戦火が起きて、北朝鮮が韓国に侵攻しても日本は韓国を助けることにはならないかもしれない」
 昨年、日韓の外交・安全保障問題を主なテーマに、北朝鮮情勢や集団的自衛権の行使容認などについて意見交換するために開かれた両国の非公式協議で、日本側の出席者の1人がこうつぶやいた。
 日本政府関係者が放った衝撃的な一言に韓国の関係者は凍り付き、言葉を失った。
 発言は、慰安婦をめぐる歴史問題や竹島の不法占拠などで韓国に対する感情が最低レベルに落ち込んだことを受けて、朝鮮半島有事になっても日本は韓国支援に動けない可能性があるということを示したものだった。
 日本はすでに周辺事態法を1999年に制定。法律は朝鮮半島で有事が起きた場合、韓国軍とともに北朝鮮軍と戦う米軍を支援することを主な目的としている。
 「自分たちで法律を作っておきながら、今さら何を言うのか」
 当初、韓国側の出席者にはあきれかえったような雰囲気が漂ったという。そこで、日本側出席者は次にゆっくりとかみ砕くように説明した。
 「頭の体操だが、日本は米国に事前協議を求めて、米軍が日本国内の基地を使うことを認めないこともあり得るかもしれないということだ」
 ここに至って、ようやく韓国側も発言の意味を理解したという。

(引用終わり)

 この時期に話題となっていた日本の集団的自衛権の行使についての議論が、朝鮮半島の有事を念頭に置いたものであったことは、政府は明確に肯定しなかったにしても事実だろう。韓国と北朝鮮はいまだに戦時下にある。北朝鮮が休戦したのは、国連軍であって韓国軍ではないのである。さらに、現在韓国軍の戦時作戦統制権は米韓連合司令部が握っており、韓国軍は持っていない。2015年12月1日に戦時作戦統制権が韓国軍に移管され、朝鮮半島からアメリカの影響力が減退することへの懸念もあった(その後、2020年半ばまで延期された。最初の予定では2012年4月の予定だったため、再延期である。)。もしも朝鮮半島で有事が起こった場合、邦人の救出、米軍の支援、発生するであろう難民の対処などなど、問題が次々に出てくるのは間違いない。しかしながら、日本国民の韓国に対する拒否反応が強い状況では、米軍を含めた韓国への全面的な支援は難しい。日本と韓国は同盟国ではないのである。

 これまで、ベトナム戦争や湾岸戦争でも在日米軍の基地が使用された。これも当然、集団的自衛権の行使として議論されるべきだったが、「「命令は米軍が移動しているときに行われた」のであって「ベトナムや中東に向かうために国内の基地が使用されたわけではない」」という理屈でもって、戦時の米軍の基地使用の担保としてきた。実際問題、日本側が米軍の作戦行動を阻害することは難しいと思われるが、これまでなされたことがない事前協議に言及した意味は決して小さくなく、日本国内の嫌韓感情が無視できないレベルで高まっている証明でもあった。

自衛隊・安全保障をめぐる言葉