ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

それが一番危険なんですよ

2017年8月4日――池上彰 シャーナリスト


 2017年8月4日にフジテレビ系列『池上彰緊急スペシャル』にて出た一言。この日のテーマは北朝鮮との緊張が高まる中、「日本を護る自衛隊」をテーマに、自衛隊の基礎知識や歴史などについて語られた。

 その中で、憲法9条の改正についての解説がされたとき、歴代内閣が“戦力”の不保持を定めた憲法9条と自衛隊の関係をどのように定義してきたかについて語られた。憲法は9条1項において、「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」と定め、第2項において「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」と定めた。政府は、憲法が禁止した戦争は「国際紛争を解決する手段」としての戦争であり、「自衛のため」の戦争はその限りではないし、憲法が定めた国の交戦権は自衛権とは別個の概念である、という解釈で自衛隊という戦力を保持してきた。

 しかしながら、れっきとした戦力である自衛隊に対して、憲法違反という意見は根強い。今後の自衛隊と憲法を考えるにあたり、いくつかの考えが存在する。「現行通り、解釈のまま」「憲法9条を改正する」「憲法9条に違反する自衛隊は廃止する」という考えがあったが、安倍首相は第4の道として、「憲法9条はそのままで自衛隊を憲法に明記する」という考えを示した(もっとも加憲というのは公明党の主張でもあったが)。

 番組の中で憲法と自衛隊の関係やいくつかの考えが存在することに解説が及んだ時、芸人の陣内智則が「池上さんはどう考えているんですか?」と尋ねる。池上氏が「それを皆さんに考えていただくために、これまでの色んな材料を提供してる」と番組の趣旨について説明しようとするのに被せて、「でも、池上さんが一番正しいとぼくは思ってるんです」「たぶん全国の人もそう思っているんですよ」と発言した。それに対して、池上氏は「それが一番危険なんですよ」「自分で考えないで『池上がなんて言うんだろう』『それに従おう』っていうのが、民主主義では一番いけないこと」とたしなめた。

 この発言が一連のやり取りが台本の通りであるのか、笑いを取ろうとしてたしなめられる格好になったのかは分からないが、「一人一人が考えて決めなければいけない」というのは正論であろうと思う。もっとも、今のテレビや新聞が、本当に公平に中立の立場で視聴者や読者が判断する材料を提供しているのか、疑問に感じることは多々あるが……。かつては、安全保障議論はタブーという時期があった。票にならないから政治家も積極的には意見を発信しなかった。しかし、水と安全はタダなどという時代はとうの昔に終わりを告げた。国民が安全保障から目を逸らしていられる時代は、遠い昔のことになってしまった。

自衛隊・安全保障をめぐる言葉