ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

モスラ(1961年)

DATE

1961年劇場公開

監督:本多猪四郎  特技監督: 円谷英二  

キャスト  福田善一郎(日東新聞記者):フランキー堺  中条信一(言語学者):小泉博  花村ミチ(カメラマン):香川京子  中条信二:田山雅充  小美人:ザ・ピーナッツ  原田博士:上原謙  クラーク・ネルソン:ジェリー・伊藤

内容にはネタばれを含んでいます。  解説・感想  ストーリー  映画の中の自衛隊

【解説・感想】

 昭和の東宝ではゴジラシリーズ以外にも、『空の大怪獣ラドン(1956年)』『地球防衛軍(1957年)』『大怪獣バラン(1958年)』『モスラ(1961年)』『海底軍艦(1963年)』『フランケンシュタイン対地底怪獣(1965年)』『フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ(1966年)』『キングコングの逆襲(1967年)』など数多くの怪獣映画・特撮映画が製作された。これらの作品は、ゴジラシリーズとは違ったスタンスで製作され、独特な雰囲気を持った作品も多い。また、後のゴジラシリーズに登場する怪獣も少なくない。

 1961年に公開された『モスラ』は構想3年、当時の金額で2億の予算と製作延日数200日を費やして製作された大作映画として製作された。また、アメリカのコロンビア映画との日米合作企画映画でもあり、ラストではロシリカ共和国という架空の国(現実世界のアメリカ合衆国の役割を担っている)に舞台を移してモスラが暴れまわる。ところで、このラストは、もともとはモスラは「ニュー・ワゴン市」を襲うシナリオで契約書が締結されたが、予算の都合上日本側が一方的に破棄し、日本だけでストーリーを終わらせようとした。これに対してアメリカ側が契約違反として抗議し、急遽、本来のシナリオに戻して撮りなおした。確かに今見ても、ロシリカに舞台を移してからの特撮は何だか荒っぽい印象を受ける。

『モスラ』はシリアス作品だったゴジラとは異なり、ザ・ピーナッツ演じる小美人の設定や愛くるしいモスラの造形、深遠なメッセージを抱えながらもコミカルで軽妙なストーリー展開と、柔らかく愛らしい印象を受ける作品となっている。『モスラ』はファミリー映画として観客からも受け入れられ、ゴジラと並ぶ人気怪獣となり、後にはゴジラシリーズで何度も共演することになる。ゴジラとモスラ、それにラドンを足した3体を、東宝3大怪獣などと呼んだりもする。

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【ストーリー】

   日本の貨物船第二玄洋丸が台風によって沈没した。現場付近はロリシカ共和国の水爆実験場であり、乗組員の生命は絶望的と見られた。ところがインファント島で救助された乗組員には放射能障害の形跡はなかった。乗組員の収容された病院に潜入した日東新聞記者の福田善一郎とカメラマンの花村ミチはインファント島に原住民がいるという事実を突き止める。

 ロリシカ共和国と日本は合同調査隊を現地に派遣することを決めた。福田は調査団の船に忍び込み、情報収集をするが発見されてしまう。言語学者の中條信一の口添えなどもあり記者活動をしないことを条件に同行を許された福田。福田は調査団のロリシカ国側事務局長クラーク・ネルソンの言動に不審を覚える。

 インファント島に調査団が上陸。彼らの目の前に広がるのは放射能に汚染された島――そして、島の中心部は緑の森が広がっていた。奇妙な植物。謎の碑石。調査活動を続ける中條は人をも餌食にする吸血植物に捕らわれそうになるが、そこを救ったのは小美人と呼ばれる双子の妖精だった。しかし、その小美人をネルソンが捕まえ本国に連れて行こうとする。そこに現れたのはインファント島の原住民たちであり、日本側の調査団もネルソンに小美人を解放するように要請し、ネルソンも渋々それに従った。

 インファント島の秘密は胸の中に収めることを誰からともなく確認して、調査団は帰国し解散した。しかし、福田はネルソンの行動に不安を覚え、独自に調査をする。その結果、インファント島の調査隊はネルソンが主導し、活動資金も彼が出しているという事実を掴んだ。福田は中條に「国際古美術ブローカーではないか」と語る。また、中條は島で発見した石碑に書かれた文章の調査をしていたが、「モスラ」という語の意味を掴めずにいた。

 ネルソンは直属の部下を率いて再びインファント島へと赴いた。彼の目的は小美人の捕獲であり、守ろうとした先住民たちはネルソンの部下の銃火器によって次々と犠牲になる。小美人を捕らえたネルソンは、東京で「妖精ショー」と称して小美人を見世物にするのだった。一方、インファント島では生き残った原住民たちがモスラへの祈りを捧げ、それに呼応して洞窟が崩れ、七色に輝く巨大な卵が姿を現す。

 東京ではネルソンが主催する「妖精ショー」が評判になっていたが、福田や中條、花村など事情を知る者は妖精が小美人であることに気づき、抗議に出向く。さらに日東新聞の紙面を使い小美人を見世物にする「妖精ショー」の非人道性を世論に訴えかけるが、ネルソンは意に介さない。それでも何とか福田たちは小美人との面会には成功する。小美人は福田たちの難しい立場は理解しながらも、インファント島の守り神であるモスラのことを告げる。必ずモスラが小美人を助けにやってくる。しかし、それは多くの人々にとっての災厄が迫っていることも意味する。

 小美人たちが繰り返し歌っていた印象的な歌はただの歌ではなかった。モスラの復活を促す祈りの歌であった。さらにインファント島のモスラ復活を願う儀式も最高潮の達した。そのとき、卵が孵り、モスラが復活した。昆虫の幼虫を思わせる超巨大な怪獣モスラは、インファント島から日本――東京へ向けて突き進む。

 洋上での防衛隊の爆撃によって一度は姿を消したモスラだったが、東京近郊の第三ダムに姿を現す。ダムを決壊させるほどの破壊力を見せつけ、さらに東京へとひた進む。体長は100mにはなろうかという巨大なモスラを相手に防衛隊の特車や戦闘機が応戦するものの、ひたすら突き進むモスラの足を止める術はない。ロシリカ共和国も事態を収拾する方法は小美人をモスラに返すことしかないとネルソンから小美人を取り上げようとMP(軍警察)を差し向けるも一足遅く、ネルソンは大使館職員に変装して日本を脱出していた。

 このときネルソンは、原田博士から提供された脳波遮断ケースを小美人に被せていた。小美人が発する歌がモスラを呼び寄せていることに気づいたためであるが、そのことによって小美人を見失ったモスラは逆に迷走し、新宿を徹底的に破壊し、東京タワーをへし折り、そこに糸を吐き出して繭を作り始める。この事態を収拾すべく、ロシリカ共和国から日本政府に秘密兵器が貸与される。パラボラ型放射機から強力な熱線を照射し燃やし尽くしてしまう原子熱線砲である。この攻撃によって繭は燃え上がり、焼き尽くされた。

 モスラ死す――この報道をラジオで聞いていたネルソンたちは歓喜し、脳波遮断ケースを小美人から取り外した。しかしモスラは死んではいなかった。成獣へと変化していたに過ぎなかったのだ。巨大な羽を持つ成体となったモスラは、小美人を追って次の戦場――ロシリカ共和国、ニュー・カークへと飛び去って行った。

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【映画の中の自衛隊】

   日米合作の映画ということもあり、作中、米軍の影がちらほらする。東京に進攻していくモスラが横田基地を通ったり、入出国の審査が在日米軍主導で行われていたり。ロシリア人のネルソンから小美人を奪還するべく向かったのも日本の警察ではなくMPだった。1954年にサンフランシスコ講和条約が締結され日本は正式に独立し、1954年には自衛隊が成立したとはいえ、まだまだ国内の治安維持が在日米軍主導で行われていたということなのだろうか。日米合作でアメリカ(作中ではロシリカだが)の日本に対する影響力を誇張表現しているだけなのか、当時を知らない自分には判断しかねるところだ。

 この作品ではパラポナ型の武器を搭載した原子熱線砲が秘密兵器として登場している。この兵器はロシリカからの貸与という位置づけである。本作の公開された前年は安保闘争の年として記憶されている。1951年に吉田内閣のもとで締結された日米安全保障条約は、岸内閣の1958年頃から改定に向けた動きが進んでいった。しかし、安保条約は日本を再び戦争へと引き込むものとして国民からも拒否反応を示し、国会議事堂をデモ隊が取り囲んだ。戦後日本史上空前の政治闘争の一つである。60年安保は政府が強行採決し成立したものの、岸内閣は総辞職した。これらの時代背景を考えると、日本が他国から武器の貸与を受ける(他国を日本の戦争に巻き込む)というストーリー展開はよっぽど非難されて然りだと思うのだが……。反米・反政府の人たちはモスラなど見に行かなかったということなのか。資料映像を見ていると安保闘争は日本の世論を二分するような政治闘争だったように思えるが実際には反安保の人たちは国民全体で見ればマイノリティに過ぎなかったのか……。それもやはり当時を知らない自分にとっては判断しかねるところではある。

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