ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

空の大怪獣ラドン(1956年)

DATE

1956年劇場公開

監督:本多猪四郎  原作:黒沼健  脚本:村田武雄  木村武  音楽:伊福部昭  特技監督:円谷英二

キャスト   河村繁(炭坑技師):佐原健二  柏木久一郎(古生物学者):平田昭彦  井関(西部新聞記者):田島義文  キヨ:白川由美

内容にはネタばれを含んでいます。  解説・感想  ストーリー  映画の中の自衛隊

【解説・感想】

 1956年公開作品。東宝の怪獣映画で初めてのカラー映画である。前年の『ゴジラの逆襲』の後、東宝は複数の怪獣モノ・特撮映画を製作しており、その中でも高い人気と知名度を誇る怪獣であるラドンの初登場作品である。

 映画『ラドン』では、ラドンは炭鉱の中から出現する。人類の近代文明史における石炭の役割は大きい。明治時代の日本においても産業革命以降、燃料としての石炭が最重要のエネルギー源だった。最盛期には全国に800もの炭鉱があったという。しかし、第2次世界大戦以降はエネルギー源は石油へ取って代わられ、1970年代には少数の炭鉱を残して閉鎖された。炭鉱では石炭が生産される時の副産物である可燃性のガスや有毒ガスが発生しやすく、爆発事故や坑内火災、中毒事故、酸素欠乏などの事故が発生したり、海水が流入したりする事故が幾度も発生している。炭鉱は密閉された空間の上、安全管理という概念も希薄な時代の為、一度事故が発生すると大規模な被害が発生し、多くの人命が失われた。映画の中で描かれる炭鉱事故に巻き込まれた家族の姿に妙なリアリティを感じるのも、そういう時代の作品だからだろうと思う。

 今見ても、全体的に完成度の高い映画だと思う。秀逸なのは自衛隊の攻撃によって引き起こされた阿蘇山の噴火に巻き込まれ燃え上がっていくラドンのラストシーン。悶え苦しみながら燃え尽きていくラドンの最期は悲愴感漂う。ところがその名場面は、流れる溶岩の演出に用いた高温で溶けた鉄を使用したために、ラドンを吊っていた ワイヤーが切れて操演が出来なくなったイレギュラーを、円谷栄治特技監督が操演スタッフのアドリブだと考えカメラを停めさせなかったため、偶然の産物で生まれたシーンだったという。

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【ストーリー】

   炭鉱技士の河村繁が勤務する炭鉱の坑道内で、ある日原因不明の出水事故が発生した。その直後から炭鉱夫が水中に引きずり込まれて殺害される事件が相次ぐ。河村の友人の五郎に嫌疑がかかるが、被害者の傷跡などには不明な点が多かった。事件は真犯人の出現によって大きく動き出す。それは、巨大な古代生物の幼虫だった。体長2mを越えようかという生物の前に、警察の拳銃も役に立たず、警察は自衛隊の出動を要請する。その生物の名はメガヌロン。河村は自衛隊とともにメガヌロンが逃げ込んだ坑道に入ったが、機関銃を発射した衝撃で落盤が発生し、河村は巻き込まれて行方不明になってしまう。

 阿蘇で地震が発生した。地震によって出来た陥没口で、調査団は奇跡的に生還した河村が発見された。しかし、河村は事故の衝撃からか記憶喪失に陥っていた。時同じくして、国籍不明な飛行物体が発見された。航空自衛隊司令部は戦闘機F-86セイバーを確認に向かわせるが、その未確認飛行物体は超音速の機動という信じられない真似をしてのけた。戦闘機はさらに食い下がるが、飛行物体と接触し、空中分解した。その飛行物体は世界各国に出現し、世界の空を不安と混乱に陥れていた。阿蘇高原では家畜が連れ去られる事件が発生し、若い男女の変死体が見つかるなど、異変が相次いでいた。変死体の近くにあったカメラのフィルムを現像すると、その中には鳥……いや、メガヌロンの生きていた時代に生きていた翼を持った恐竜の翼のように見えた。

 河村の記憶はなかなか戻らなかったが、恋人のキヨが飼っていた文鳥の卵がかえるのを見たのをきっかけに、封じられていた記憶が戻ってくる。坑道の奥で河村が見た光景。暗闇の中を蠢くたくさんのメガヌロンたち。さらに、その奥には巨大な卵があった。河村の目の前で、卵が割れ、仲から巨大な生物が出現し、メガヌロンを餌にし始めた。調査団とともに、現場に向かった河村の目の前で、巨大な翼竜――大怪獣ラドンが出現し、飛び立った。

 航空自衛隊のF-86の編隊の追撃により、一度は墜落したラドンだったが、再び飛び立ち福岡を襲う。自衛隊の特車(戦車)部隊が応戦したが、もう一頭のラドンが出現。ラドンの巻き起こす強風の前に街は破壊され、2頭のラドンは姿を消した。ラドンを撃滅するために、新たな策が提案される。それは、生物の帰巣本能を利用し、阿蘇山に待ち伏せ、集中攻撃を行うというものである。それによって阿蘇山の噴火を誘発する可能性もしてきされたが、ラドンの脅威の前には、この作戦しかない。かくして自衛隊の兵器が阿蘇山に向かって配備された。

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【映画の中の自衛隊】

 1954年の『ゴジラ』、翌年の『ゴジラの逆襲』の成功以降、東宝怪獣映画が数多く制作された。『空の大怪獣ラドン』のラドンは飛行怪獣。飛行速度はマッハ1.5。黎明期の航空自衛隊主力戦闘機のF-86を凌駕する機動性能を見せつける。未確認飛行物体(ラドン)と、それを追跡するF-86の息詰まる攻防は、緊迫感あふれる映像になっている。音速を超える速度での機動をみせるラドンに驚愕しつつも(戦闘機は燃料が少ないため超音速で飛べるのはほんのわずかな時間だけの上、超音速飛行ではほとんどまっすぐにしか飛べず、その速域でのドッグファイトは不可能。映画が描かれた当時の超音速戦闘機においては、最高速度が極めて重視されていたが、現代の戦闘機は超音速性能はそれほど重視されず、戦闘機に必須の上昇能力や加速性能を実現させるために超音速能力を有しているにすぎないという。)、ラドンに食らいつくF-86だったが、ついにはラドンと接触して叩き落されてしまう。

 クライマックスは、阿蘇山を包囲した陸上自衛隊による集中砲火。現実の自衛隊兵器や、現実に存在していても自衛隊では採用されなかった兵器、東宝映画ではお馴染みの架空兵器と様々な兵器が登場している。当時の主力戦車であったM24軽戦車。自衛隊には配備されていなかったオネスト・ジョン(MGR-1地対地ミサイル、在日米軍には配備されており、戦術核を搭載できるということで社会党が問題視していた)。東宝特撮映画の名脇役でもある架空兵器24連装ロケット砲車(愛称はポンポン砲)。ラドンは飛行怪獣である。上空に逃げる前に潰すというのは合理的な方法だと思うが、作中ではラドンは上空に逃れており、その時に低空で撃墜できる高射機関砲なり空対空ミサイルを搭載した戦闘機を上空待機させるなりは必要だったのでは? と思える。

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