ザ・ラストバンカーA 西川善文氏    ザ・ラストバンカー@ 西川善文氏

我が古巣・住友銀行の元頭取であった西川善文氏が10月に発刊した回想録「ザ・ラストバンカー・西川善文回想録」を二日間で一気呵成に読了した。予てから、そう思っていたように、凄い人物である。住友銀行オービー会がロイヤルホテルであった時、西川専務時代であるが、私はやや離れて見ていたが、西川氏には、あたりを祓うような威令が漂っていたのを覚えたものだ。 発売初日から大増冊、8日目で第4版の大ベストセラーとなりつつある。現役銀行員、経営者、政治家、経営者は「読む価値」がある。住友銀行とは、かかる銀行であり、西川氏に近い人材が輩出していた。この著作の「おわりに」をここに披露する。一読をお勧めする。日本の政治家の愚劣さ、メデイアの余りの愚劣さ、ナイーブで合理性の欠如した連中ばかりだと納得するであろう。          平成231023       徳永圀典

ザ・ラストバンカー おわりに A     

 1日

では、なぜ、ビジネスの現場における合理性を、合理性ではなく、根拠なき情緒で批判するのだろうか。
そのような態度が誠実なものでないことは、当のマスコミを含めた誰の目にも明らかであろうと思う。

 2日

その象徴的な例が、かんぽの宿の事業評価および譲渡価額の決定にまつわる批判だった。世界で最も妥当とされる事業評価法に基づいて決められた譲渡価額単純に投資額と比較した多寡で論じ採算性の乏しい事業を続けてきた行政と郵政利権にタカる政治の構造には一切目を向けない。読者や視聴者のウケを狙ってのことだとするならば、その迎合主義は真実の報道という自らの使命を欺瞞にしてしまうだろう。

 3日

そのような根拠無き批判にひるむわけにはいかない。リーダーシップとは、直面する難題から逃げないことである。

 4日

リーダーが逃げないから部下も逃げないし、前のめりで戦う。経営の責任者とはそういうものではないだろうか。遅滞なくスピード感を持って決断する。それは時に本当の意味でトップダウンであったろうし、時には部下たちが周到に根回しした案件を私がスパッと決断したものでもあったろう。それを「西川の独断」と評する人たちがいたが、私にすれば決断の現場の実態を何も知らない人の批判に思えてしかたがなかった。

 5日

いま改めて人任せではリーダーはリーダーたり得ないという思いを強くしている。企業合併などの案件は、確かに事務的に下から詰めていかなければならない項目が多い。だが、やはりトップに立つ人間が出るべき時に出て行って話を詰めなければならない。そのほうが早いし、何よりも互いが安全でき信頼が芽生えるからだ。

 6日

まして今はスピードと決断の力強さが求められる時代である。トップ同士が重要な課題を認識し合い、トップの責任において決断していく<、それがなければ激しい環境の変化に迅速に対応していくことなど出来ない。

 7日

何もかも下から積み上げ、皆の同意を前提になどという悠長なことは許されないのだ。その意味で、トップの責任は極めて大きくなっているし、屏風の前で決済印を押していれば済む時代ではない。意外に思われるかもしれないが、いまだにそのような発想のままの経営者が少なくないのである。

 8日

最後に本書のタイトルになっている「ラストバンカー」について書かせて頂きたい。

 9日

これは、どこかの雑誌が私を評して使った言葉だと記憶している。悪い意味ではなく、褒め言葉として使ってくれた。本来は、平時ではない時代の最後のバンカーという意味合いだろうが、記者会見でも株主総会でも事務局が用意した答弁を無難に読んでいるのではなく自らの言葉で語りかけようとする、敵対的な関係となってしまつた相手にも躊躇わずに一対一で向き合う、そんな私の姿を、顔が見える最後のバンカーとして評価した下さり「ラストバンカー」と書いてくれていたようだ。

10日

バンカーの責務とは、健全な経営をすることによって、お客様から預かったお金をきちんと運用し、内外の経済発展に寄与すると同時に、銀行で働く人々の待遇をできるだけ改善し、その士気を高めて競争力を上けでいくことだと考えて私はここまでやってきた。だから、私利私欲など全く無いし、私心もない。老夫婦が年金だけで食べていける以上の財産も無い。現在73才、自分の痩身な体格を顧みると、よくぞここまで体力が持ったものだと思う。

11日

「ザ・ラストバンカー」とは内心、少々、面はゆく忸怩たる気持ちがないわけではない。だか、今回のこの本を出すに当り担当編集者からの勧めもあり、私への手向けの言葉として嬉しく頂戴することにした。 完