美しい日本の歌・歌・歌・歌 大御歌
きさらぎ如月
陰暦2月の異名、如月きさらぎ、は昭和天皇の大御歌-おおみうた-御製-を思い出したい。本当に平和で実に大きなお心が溢れている。私は妻とともに昭和天皇御製歌を数十冊購入して過去10年間に心あるお方に配布し続けた。この偉大なる昭和天皇のご遺徳をお偲びし日本国天皇の他国と比類なき存在に心からの慶びを深めたい。平成15年2月 徳永圀典
2月1日 | ふりつもるみ雪にたへていろかへぬ 松ぞををしき人もかくあれ 昭和21年 御歳46 |
敗戦直後マッカ-サーに自分の身はどおなってもいい国民の飢餓を救ってといわれた頃。涙があふれる 。こんな元首は世界にいない。日本人は忘れてはならぬ。 |
2月2日 | 世の中もかくあらまほしおだやかに朝日にほへるおほうみのはら 大正11年 御歳22 皇太子時代 |
自然が融合して、ああ世の中もこのようにとのお心。お若い時代から実に豊かな歌。 |
2月3日 | 天地の-あめつち-神にぞいのる朝なぎの海のごとくに波たたぬ世を 昭和8年 御歳33 |
5.15事件、上海事件の翌年の正月歌会始め、ご憂慮が現れている。 |
2月4日 | 西ひがしむつみかはして榮-さか-ゆかむ世をこそいのれとしのはじめに 昭和15年 御歳40 |
開戦1年前、世界平和こそ陛下のご真情であったが。 |
2月5日 | もえいづる春のわかくさよろこびのいろをたたへて子らのつむみゆ 昭和25年 御歳50 |
なんと素直で清々しいのであろうか。 |
2月6日 | 日日のこのわがゆく道を正さむとかくれたる人の声をもとむる 昭和41年 御歳60 |
日々のこの帝王としての自戒のお心。政治家、為政者も近づいて欲しい。 |
2月7日 | わが庭の宮居に祭る神神に世の平らぎをいのる朝朝 昭和50年 御歳75 |
毎朝国民の平安をのみ祈られている天皇、深く心に刻まれる。 |
2月8日 | 母宮のひろひたまえるまてばしひ焼きていただけり秋のみそのに 昭和53年 御歳78 |
このご高齢にして御母子の情。天皇は母宮の歌が多い。胸がうたれる。(まてばしひは炒って食べる。) |
2月9日 | 遠つおやのしろしめしたる大和路の歴史をしのびけふも旅ゆく 昭和53年 御歳85 |
ご先祖様の治世の歴史をしのばれる大御心が今日も旅ゆくの句に拝される。 |
2月10日 | 身はいかになるともいくさとどめけりただたふれゆく民をおもひて 昭和20年 御歳45 敗戦時 |
敗戦時の陛下のお心の底からふりしぼりだすような悲痛なお言葉。味読すべき。 |
2月11日 | 国がらをただ守らんといばら道すすみゆくともいくさとめけり 昭和20年 御歳45 敗戦時 |
伝統の国柄を護り貫かれたお気持ちがひしひしと伝わる。 |
2月12日 | 爆撃にたふれゆく民の上をおもひいくさとめけり身はいかならむとも 昭和20年 御歳45 敗戦時 |
はらわたから搾り出すような響きがある。覚悟の程が忍ばれる。世界に在り難し。 |
2月13日 | 新米-にひよね-を神にささぐる今日の日に深くもおもう田子-たご-のいたづき 昭和28年 御歳53歳 |
田子は農民。新嘗祭の献上米に農民の丹精をしのばれた歌。 |
2月14日 | 国守-も-ると身をきずつけし人びとのうえをしおもふ朝-あした-に夕べに 昭和32年 御歳62歳 |
国のために傷痍した軍人のうえを思われた歌 |
2月15日 | いにしへの品かずかずたもちもて世にしらしめよ国の華-はな-をば 昭和22年 御歳47 |
宮内庁所管の博物館がこの年国立博物館となる。 |
2月16日 | 夕ぐれのさびしき庭に草をうえてうれしぞとおもう母のめぐみを 昭和20年 御歳45 |
終戦直後、母宮貞明皇后は軽井沢にご滞在中、草木のお好きな天皇に野草を送られた時の歌。母宮のお心に寄せられた思い。 |
2月17日 | 母宮のめでてみましし薯畑-いもばたけ-ことしの夏はいかにかあるらむ 昭和27年 御歳52 |
いかにも庶民的でお心ばえが偲ばれる。母宮の歌が多いのも人間味を感じる。 |
2月18日 | たらちねの母の好みしつはぶきはこの海の辺に花咲きにほふ 昭和29年 御歳54 |
年たけてなお折につけ母君を思われるお心に打たれる。 |
2月19日 | 喜びはさもあらばあれこの先のからき思ひていよよはげまな 昭和33年 御歳58 |
喜びは尤もだが将来には苦労もあろう。それを心に留めてとの思し召し。皇太子婚約 |
2月20日 | わが祖母-おほば-は煙管-きせる-手にしてうかららの遊びをやさしくみそなはしたり 昭和393年 御歳64 |
うから-家族。みそなわす-ご覧。明治天皇皇后の昭憲皇太后50年祭に。 |
2月21日 | あかねさすゆふぐれ空にそびえたり紫ににほふ津軽の富士は 昭和383年 御歳63 |
岩手県の岩木山は神々しい山だ。素直なご感懐。 |
2月22日 | たゆまずもすすむがををし路をゆく牛のあゆみのおそくはあれど 昭和23年 御歳48 |
ををし-雄雄しい。敗戦の荒廃した世相の中で人生もかくありたしのご心情を拝する |
2月23日 | 空高く生ひしげりたる吉野杉世のさま見つついく代へぬらむ 昭和26年 御歳51 |
樹相に人間と歴史を重ねて思われる。南北朝の吉野朝廷をお心にとめられたのか。 |
2月24日 | 国の春と今こそはなれ霜こほる冬にたへこし民のちからに 昭和27年 御歳52 |
4月28日の日米平和条約締結に厳冬を耐えた国民の力によるとの聖慮。感懐一入。 |
2月25日 | 静かなる世になれかしといのるなり宮居の鳩のなくあさぼらけ 昭和41年 御歳66 |
ほのぼのと夜の明ける頃、平和を祈念し給う澄明なご心境を拝し感動を禁じえない。 |
2月26日 | 七十-ななそぢ-の祝ひをうけてかへりみればただおもはゆく思ほゆるのみ 昭和45年 御歳70 |
古稀の祝い、七十歳をお迎えとなられてもなお、おん自らはきびしいご内省に感動。 |
2月27日 | あかげらの叩く音するあさまだき音たえてさびしうつりしならむ 昭和63年 御歳88 |
きつつきの音に無限の寂寥感、永遠の時の流れを感じる。生前ご公表最後のお歌。 |
2月28日 | 夏たけて掘のはちすの花みつつほとけのをしへおもふ朝かな 昭和63年 御歳88 |
お堀に咲く蓮華をご覧となり仏の教えの上に深く思いをはせられた・粛然たる思い。 |
まさに帝王の歌と申すべき、おおらかな、素直な、広大無辺な、哲学的な、そして庶民性もある御製だと思う。慈父を思わせる、偉大な、天徳をお持ちの人間天皇であらせられました。感慨無量。昭和天皇様、日本の未来にご加護を与え給え。
平成15年2月28日 徳永圀典