日本、あれやこれや その46

平成20年2月

 1日

シーボルトの日本第一印象

日本は美しい庭園

生気に満ちた緑の丘と耕やかされた尾根が前景を飾り、その背景には鋭い輪郭で青みを帯びた山の峰がそそり立っている。あちこちにある暗い岩が鏡のような海を中断し、近くの海岸の険しい岩壁は朝日に照り映えて、多種多様な色彩に輝いていた。

近くの島の段丘状の畑、きらめく白い家や二、三の寺院の屋根、浜や入り江に沿って杉の木の間から顔を出したたくさんの大きな家や小屋は、まことに魅力的な光景であった。(中略)おだやかな海と晴れ渡った空とが一つになって、この地を輝くばかりに美しくみせていた。
心地よい住居のある、なんと魅力的な海岸であろうか!なんと実り豊かな丘、なんと神々しい神苑であろうか!
 2日 シーボルト ドイツの医学者、博物学者である。日本に到着して日本の風景美に圧倒された、「この人の手で仕立てられたかに見える自然は、彼らの活動性と勤勉を示すものだ」と感動したのである。 岩の多い土地や山野をも耕して田畑にし、その秩序と調和のとれた景色を作った
「農民の驚嘆すべき勤勉努力」を讃えたのである。
 3日 日本の植物栽培 シーボルトは植物学者として、幾ら賞賛しても足りないとし「日本という国全体が、生活に役立つ有益な植物と美しい装飾用植物で満ちた庭園である」
「他のどの国もこれ程豊富で美しいものは、呈示出来ない程の観賞用植物の種類が作られている」。ヨーロッパより遥かに日本が進歩していると感嘆している。
日本人は古来より自然や風景を愛し尊んできた。四季の移り変わりや変化に富む風景が多く日本人はそれらを()で花鳥風月を歌に詠んできた。このような良い習慣が万葉時代からあり、これらが繊細で穏かな日本人の性格を形成しているのである。
昨年、東京で三星編集者が日本の料理レベルの高さに驚嘆しと同様、日本は国際的に諸般に渡りレベルは高いのである。
 4日 高い文明水準の日本 明治になり、いきなり日本が優秀になり文明が高くなったものではない。江戸時代、武士は藩校で、庶民は寺子屋で勉強していた。日本全国で寺子屋数は14千あった。平均して一都道府県当り300を越えたのである。 当時の人口は3千万、現在の小学校数は人口は、一億二千万に対し2万3千校程度である。教育がいかに普及していたかが分かる。当時の外国人は、日本の一般庶民が読み書きできるのを驚いたのである。識字率は当然世界一であった。文化水準は欧米人より高かったのである。
 5日 ラフカディオ・ハーン 「いったい、日本の国では、どうしてこんなに樹木が美しいのだろう。西洋では、梅が咲いても、桜がほころびても、かくべつ、なんら目を驚かすこともないのに、それが日本だと、まるで美の奇跡になる。 その美しさは、いかほど前にそのことを書物で読んだ人でも、じっさいに目のあたりにそれを見たら、あっと口がきけなくなるくらい、あやしく美しいのである。
 6日

小泉八雲

ラフカディオ・ハーンの日本名である。ハーンは西洋を野蛮とさえ言った。日本で度肝を抜かれたような衝撃は、日本の風景、自然美であった。

彼は「ひょっとしたら、この神ながらの国では、樹木は遠い世の昔から、この国土によく培われ、人によくいたわり愛されてきたので遂には樹木にも魂が入って樹木もまた心を入れて、礼ごころを表すものだろうか」とさえ思ったのであった。 

 7日 西洋の真似をするな ハーンは、西洋の真似をするなと家族に言った。

「日本には、こんなに美しい心あります。なぜ、西洋の真似をしますか」。 
日本を愛するが故に、日本の将来について述べている。
「日本の場合は危険がある。古くからの質素で健全な、自然で節度ある誠実な生活様式を捨て去る危険である。質素さを保つ限りは、日本は強いだろう。然し、贅沢な思考を取り入れたら弱くなっていくと考える」
 8日 九州魂 ハーンは熊本にいて次のように述べている。
「私は「九州魂」と言われるものについて考えてみた。質素な慣習と誠実な生活が、古来からの熊本の美徳であると聞いている。
もし、そうであるなら、日本が将来偉大になるかどうかは「九州あるいは熊本魂」素朴、善良、簡素であることを好み、生活上の無用の贅沢や浪費を嫌うーーを維持出来るかどうかにかかっている」 
 9日 ペリー提督の予言 「実用的、機械的技術において日本人は非常に巧緻を示している。・・彼らの手作業の技術の熟練度は素晴らしい。日本の手工業者は世界のいかなる手工業者にも劣らず練達である。よって国民の発明力が自由に発揮されるようになったら、最も進んだ工業国に追いつく日は、そう遠くないであろう。 他国が発展させてきた成果を学ぼうとする意欲が盛んで、学んだものをすぐ自分なりに使いこなすことが出来る。だから、国民が外国との交流を禁止している排他的政策が緩められれば、日本はすぐに最も恵まれた国の水準まで達するであろう。文明世界の技能を手に入れたならば、日本は将来きっと機械工業の成功を目指す強力な競争国となろう」
10日 武士の存在 ペルーが来日した時代は植民地政策真っ盛りの世界であり、アメリカもこの後、ハワイ、フィリピンを手中に収めている。中国は、1840年アヘン戦争でイギリスに負けて解体して行く。日本も当然狙われておりペルーも日本の様子を見た であろう。
然し、それを阻止した大きな要因の一つが武士の存在であった。武士は知識もあり、名誉心も強く、自国を侵害されるなどの不名誉は極端に嫌う。他国に見られない文武両道の武士の存在は彼らの野望を打ち砕いたであろう。
11日

エジソンと
真珠

「これは養殖でなく、真の真珠だ。実は自分の研究所で出来なかったものが二つある。一つはダイヤモンドで、いま一つは真珠である。あなたが動物学上からは不可能とされていた真珠 を発明完成されたことは世界の驚異だ」。
1927年、伊勢志摩の真珠王・御木本幸吉がエジソンに真珠の贈り物を差し出した時に言った言葉である。
12日 日本人は創造的な国民 江戸時代には平賀源内がエレキテルを制作し、幕末には江川太郎左衛門が伊豆韮山に反射炉を築造した。

強心剤タカジアスターぜや消化薬アドレナリンを創製したのは高峰譲吉である。北里三郎は細菌学者コッホに学んだが他の学者の出来なかった破傷風の純粋培養に成功した。 

13日 ()()倭人伝(わじんでん)

「婦人淫せず、妬忌せず。盗窃せず、諍訟少なし」

婦人の貞操観念は堅く、ぬたんだりしない。盗みをする者も少なく、訴えごとも少ない。古代の日本人の姿を伝えるものである。

そしてそれは今日までも継続して連なる姿でもある。西暦200年頃の日本は既に、刑法の施行、租税の徴収、市が立ち、倉庫、商店があり貿易もいっていた。さらに魏の国へ使者を送るなどの政治的活動もしていたのである。
14日 二千年前から盗まない日本人 魏志倭人伝は邪馬台国や卑弥呼のことを記した中国の正史である。三世紀後半、晋の陳寿が著した「三国志」の中の「魏志」のうち、倭人(日本人)に関する記録を魏志倭人伝と呼ぶ。邪馬台国までの道程、地理、風俗、産物、政治、社会などを記している。 その倭人伝によると「盗まない」ことが特筆されている。盗まないことに驚いている。他国にとっては盗まないことが特筆すべき長所なのである。日本では当たり前のことであるが。
15日 ザビエルも驚いた 魏志倭人伝の時代から1000年以上時代が下っても、外国人は驚いた。1500年頃、日本に来たザビエルは「それがキリスト教信者の地方であっても、そうでない地方であっても、「盗み」について、これ程までに節操のある人々を見たことがありません」と記録に残している。 更に時代が下がり明治維新前後に来た外国人達も、この点に驚は欧米も日本には敵わないと自ら認めていた。「盗まない」ということを約2000年もの長きに渡り日本人の特徴として外国から羨望されているのである。阪神大震災の時に泥棒が無かったことに世界が驚いたものだ。日本人のモラルは2000千年来のものである。 
16日 古代から人間先進国の日本 日本に関する最古の確実な文献はやはり中国である。紀元1世紀後半に著されている「漢書(かんじょ)地理誌」には次のように記されている。「()楽浪(らくろう)の海中に倭人あり。分かれて百余国()す。歳時(さいじ)を以て来たり(けん)(けん)すと云う」 楽浪郡の海の向こうには倭人がいて、百余りの小国に分かれている。定期的に貢物を朝貢しているという。
紀元前後、日本は船で大陸に渡る技術も持ち、政治的に中国とやりとりしていたのである。想像以上に進化していたのだ。
17日 随書(ずいしょ)()国伝(こくでん)

1400年前の中国書。それによると「人すこぶる(てん)(せい)にして争訟(そうしょう)まれに、盗賊少なし。・気候温暖にして草木は冬も青く、土地膏腴(こうゆ)にして・・・性質直にして(がふう)あり」と記録がある。

人はすこぶる物静かで、争いごと少なく、盗賊も少ない。・・気候温暖で草木は冬でも青く土地は肥え美しい。・・性質は素直で雅風がある。

これは今日にも繋がる日本人の地下水脈となっている。
18日 レヴィ・ストロース ベルギーの民族学者・文化人類学者。彼の言葉を紹介しよう。
「私が非常に素晴らしいと思うのは、日本が最も近代的な面に於いても、最も遠い過去との(きずな)を持続し続けていることが出来るということです。
私達、西欧人も自分達の根があることは知っているのですが、それを取り戻すのが大変難しいのです。もはや、乗り越えることの出来ない溝があるのです。その溝を隔てて失った根を眺めているのです。だが、日本には、一種の連続性という絆があり、それは、おそらく、永遠ではないとしても、今なお存続しているのです」
19日 断絶の無い稀有(けう)の歴史 ストロースは言う「西欧は古代ギリシャ・ローマ時代を精神的故郷と思っているが、現在の西欧文明とは本質的に別の社会・文化である。過去との継続性が無く溝がある。 処が、日本は神話時代からの長い歴史の継続がある上に民族文化が今尚行き続けており過去と現在が繋がっている。その事に心ある西欧人は驚く感嘆しているが日本人には当たり前で自らの価値を感じていない。
20日 古代からの連続性 日本の古代からの、どの時代の建造物、芸術、書物、短歌などに日本人は少しも違和感も溝も感じない。寧ろ懐かしく(いにしえ)からの連綿たる文化を肌で味わい心の安らぎを得ている。 神社は最近出来たものと思わず古代からのものと感じている。1000年以上続いている家も多数ある。至る所で途切れない古代との連続性、これは実に素晴らしい日本の伝統で大切にして行かねばならぬものである。
21日 ストロースの感想 レヴィ・ストロースはユダヤ人であり、本来ならば聖地パレスチナに感動すべきなのである。ダビデの神殿跡やベツレヘムの洞窟、キリストの聖墓、ラザロの墓よりも感動したのが日本だというのだ。

瓊瓊(にに)(ぎの)(みこと)の天下った霧島の山や、大日め(おおひるめの)(むち)即ち天照大神が身を隠した洞窟の前にある(あまの)岩戸(いわと)神社に深い感動を覚えたのだ。 

22日 神様の末裔に驚嘆 それは何故であろうか。私の潮流寄稿「神様は森と水」にパルテノン神殿は廃墟だと書いた。当にその通りを西欧人も感じたのである。要するにイスラエル、パレスチナの遺物は現在と

隔絶された過去のものであるが日本の神社、遺物は太古より現在まで連綿と生きて現存していると感動したのである。西欧人は更に神様の末裔の天皇がなお連綿として続き存在している事を知り驚嘆するのである。 

23日 西洋でも中国・インドでも 西洋、中国、蒙古などは、新しいものが形成されると前の物は捨てられ復元することはないという。インド・中国でも蒙古のジンギスカン蒙古の侵略により戦乱、王朝転覆により前王朝やそれまでの文化は破壊され失われている。

中国の端的な例は、焚書(ふんしょ)坑儒(こうじゅ)である。だが、日本では政権交代が起きても前の文化はそのまま継続され新しい文化も共存している。それは万世一系の天皇の存在のしからしむものである。天皇の存在の日本人の英知は計り知れないものがある。 

24日 外人の考える「古事記」「日本書紀」

ストロースは、世界各地には太古の神話の断片が散在しているが、古事記や日本書紀には、それらが網羅され集成されている点に瞠目している。日本以外の地域では、バラバラの断片でしか見られない神話が、完璧な形で集約され総合されているのが日本であるとしている。

海彦、山彦など一つの物語として、歴史的世界から現在へとスムーズに移行している唯一の国が日本だと。
比較文明論の大家が賞賛している意味は巨大であり日本は燦然と輝いた歴史の国であると言える。
 

25日 日本文明は固有の文明 「一部の学者は日本の文化と中国文化を極東文明という見出しでひとくくりにしている。だが、ほとんどの学者はそうせずに、日本を固有の文明として認識し、中国文明から派生して、西暦100年ないし400年の時期に現れたと見ている」

サミュエル・ハンチントン・アメリカの政治学者の言葉である。全く同感である。
「日本は大文明と一つである」というのである。世界八大文明の一つという次第であり日本人として慶賀の至りである。
 

26日 日本文明は世界八大文明の一つ 西洋文明や中華文明、イスラム文明だけが世界の大文明ではなく、日本は古代から大文明だったのである。この事を日本人は知らないが、世界では、一般的な通説であり常識なのである。 ついでに言えば、他の文明は、一つの文明の中に複数の国が入っているが、日本は一つの国で独立した文明というね世界に類を見ない唯一の国なのである。
27日 世界八大文明とは 中華文明、日本文明、ヒンドゥー文明、イスラム文明 西欧文明、ロシア正教文明、、ラテンアメリカ文明。
28日 西欧に普遍性はない 日本文明が現れたのは西暦100400年頃、ローマ文明でなく、現在に通じる西欧文明は、8-9世紀である。然し、17-18世紀に至るまで近代化していない。 であるから西欧の方が進んでいたというのは妄想である。寧ろそれまではアジアやイスラム世界の方が進歩していたのである。
29日 近代化とは
西欧化に非ず
「近代化」とは西欧化することではないとハンチントンは言う。そして、アメリカ人や西欧人が自分たちの文明は特異であり普遍的なものではない事を認めることが必要だという。

西欧文明至上主義は誤りであり、それは偏見であり、錯覚であり、偏狭な自惚れであると厳しい。