外人の考える「古事記」「日本書紀」 

ストロースは、世界各地には太古の神話の断片が散在しているが、古事記や日本書紀には、それらが網羅され集成されている点に瞠目している。日本以外の地域では、バラバラの断片でしか見られない神話が、完璧な形で集約され総合されているのが日本であるとしている。 

海彦、山彦など一つの物語として、歴史的世界から現在へとスムーズに移行している唯一の国が日本だと。 

比較文明論の大家が賞賛している意味は巨大であり日本は燦然と輝いた歴史の国であると言える。 

神様の末裔に驚嘆 

それは何故であろうか。私の潮流寄稿に「神様は森と水」にパルテノン神殿は廃墟だと書いた。当にその通りを西欧人も感じたのである。要するにイスラエル、パレスチナの遺物は現在と隔絶された過去のものであるが、日本の神社、遺物は太古より現在まで連綿と生きて現存していると感動したのである。 

西欧人は、更に、神様の末裔の天皇がなお連綿として続き存在している事を知り驚嘆するのである。 

西洋でも中国・インドでも

西洋、中国、蒙古などは、新しいものが形成されると前の物は捨てられ復元することはないという。インド・中国でも蒙古のジンギスカン蒙古の侵略により戦乱、王朝転覆により前王朝やそれまでの文化は破壊され失われている。中国の端的な例は、焚書(ふんしょ)坑儒(こうじゅ)である。 

だが、日本では政権交代が起きても前の文化はそのまま継続され新しい文化も共存している。それは万世一系の天皇の存在のしからしむものである。 

天皇の存在の日本人の英知は計り知れないものがある。 

ストロースの感想 

レヴィ・ストロースはユダヤ人であり、本来ならば聖地パレスチナに感動すべきなのである。ダビデの神殿跡やベツレヘムの洞窟、キリストの聖墓、ラザロの墓よりも感動したのが日本だというのだ。 

瓊瓊(にに)(ぎの)(みこと)の天下った霧島の山や、大日?(おおひるめの)(むち)

即ち天照大神が身を隠した洞窟の前にある(あまの)岩戸(いわと)神社に深い感動を覚えたのだ。 

レヴィ・ストロース

ベルギーの民族学者・文化人類学者。彼の言葉を紹介しよう。

私が非常に素晴らしいと思うのは、日本が最も近代的な面に於いても、最も遠い過去との(きずな)を持続し続けていることが出来るということです。

私達、西欧人も自分達の根があることは知っているのですが、それを取り戻すのが大変難しいのです。もはや、乗り越えることの出来ない溝があるのです。その溝を隔てて失った根を眺めているのです。だが、日本には、一種の連続性という絆があり、それは、おそらく、永遠ではないとしても、今なお存続しているのです 

.断絶の無い稀有(けう)の歴史

ストロースは言う「西欧は古代ギリシャ・ローマ時代を精神的故郷と思っているが、現在の西欧文明とは本質的に別の社会・文化である。過去との継続性が無く溝がある。

処が、日本は神話時代からの長い歴史の継続がある上に民族文化が今尚行き続けており過去と現在が繋がっている。その事に心ある西欧人は驚く感嘆しているが日本人には当たり前で自らの価値を感じていない。 

古代からの連続性 

日本の古代からの、どの時代の建造物、芸術、書物、短歌などに日本人は少しも違和感も溝も感じない。寧ろ懐かしく(いにしえ)からの連綿たる文化を肌で味わい心の安らぎを得ている。

神社は最近出来たものと思わず古代からのものと感じている。1000年以上続いている家も多数ある。至る所で途切れない古代との連続性、これは実に素晴らしい日本の伝統で大切にして行かねばならぬものである。 

      徳永日本学研究所 代表 徳永圀典