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11. 冴島大河

と再会してから二ヶ月経った十月のことだった。
真島は、北海道の網走近くのホテルで夜を過ごしていた。
窓から見える町の灯りをボーっと眺めている真島だったが、東京の夜景に慣れているので、町の灯りが寂しく感じる。

明日は、約一年半服役していた冴島の出所日――。
冴島は、二十八年前に東城会で起きた事件に巻き込まれた際、傷害罪を犯していた。今回の服役はそのためであった。
真島は、冴島組の幹部を引き連れて、明日の朝、網走刑務所へ向かう。
やっと冴島の兄弟が帰ってくる……、そう思うと、真島の頬は緩んだ。

翌朝、見事に晴れ渡る空の下、真島はタクシーで早めに網走刑務所へ向かった。出入り口に着くと、冷気が張りつめ、打てば響きそうな寒さだった。
十五分経った頃、黒のTシャツにオリーブのコートを羽織り、迷彩柄のズボンをはいた冴島が出てきた。髪は、短く刈り込んでいる。
以前と変わらない冴島が、口元を綻ばせながら、大股で真島のほうへ歩いてくる。
真島は、彼がげっそりして出所してくることを想像していたが、その心配はなさそうだ。

「よう、兄弟。わざわざ迎えに来てくれたんか?」冴島は嬉しそうに言う。
「まあなあ。お前が、どれだけやつれとるか、見に来ただけや。まあ、元気そうで安心したわ」
真島は、照れ隠しについつい皮肉を言ってしまう。
挨拶を終えた二人と組員らは、飛行機を数回も乗り換え、東京まで移動した。

移動中、冴島は、刑務所での生活について色々語った。新しく所長になった高坂という男が、とても親身になってくれたこと、元刑事だった男が、いつも部屋のメンバーを笑わせてくれたこと、馬場という男がシャバに出たら冴島組に入りたいと言っていたということ。そして、冴島は、体力をつけるために、積極的にグラウンドに出て、鍛えていたらしい。
「さすが兄弟や。ムショの中でも牙を研いどったちゅう訳やな?」
と真島がからかうと、
「まだまだお前に負ける訳にはいかんからな」
と冴島はフッと笑った。こうして、二人の間に前と変わらない穏やかな空気が流れる中、やっと長い乗換えが終わり、飛行機が羽田に着いた。

時間は昼をとっくに過ぎていた。真島は尋ねた。
「昼飯にどっか行きたいとこあるか?やっぱり、うまい肉や寿司か?」
「せやなあ。韓来のホルモンがええな」
「なんでまたあそこやねん。焼肉ならもっとええ店あるやんか。麻布とか六本木とか。せやのになんでよりによって韓来なんや」
「あそこやと、なんや落ち着いてええねや。戻ってきたっちゅう感じもするしな」
「せやな、あそこは俺らの『行きつけの店』やからな。そうと決まったら、昼飯は韓来や!」

二人はタクシーに乗り込み、神室町にある韓来へ向かった。韓来に入ると、左手にテーブル席があり、右手に座敷席がある。真島は、冴島を一番奥の目立たない座敷席へと連れて行った。
「何でこんな隅で食わなアカンねん」
「あ、あのな、ちょっと話があんねん」
真島のぎこちない様子を見て、ただ事ではないと判断した冴島はそれ以上は聞かなかった。
二人はビールをもらって乾杯した。「ご苦労さん」真島が言うと、「おおきに」と冴島が答えて、ビールを喉を鳴らして飲み干した。
その後、以前のように、酒を飲み、ホルモンを食べ、冴島はすっかり上機嫌だった。真島も、そんな冴島を見て嬉しい反面、これから相談することを考えると、気が重くなっていた。

真島はついに口を開いた。
「なあ、兄弟……、実は俺な、好きな子がおるんや……」
「お前にも、やっと女ができたんか。良かったやないか」
「いや、それがな、普通の女やないねん」
「極道の娘とかか?」
冴島が、ん?首を傾ける。
「いや、ちゃうねん。それがな……、桐生ちゃんとこのちゃんやねん……」
冴島の箸がぴたりと止まる。
「今、何やて?」
「せやから、ちゃんやねん……」
「何抜かしとるんじゃ!このドアホ!なんでお前とちゃんやねん!ちゃんとお前が釣り合うわけないやろ!年かて考えてみ?親父と子くらい離れとるやないか!お前、気でも狂っとるやないんか?」
冴島は、席を立つと真島の胸倉を掴んだ。

「本気なんや、兄弟……。兄弟に頭イカれとると思われてもしゃあないわ」
真島は、ハアと溜息をつき、襟元を掴む冴島の手を振り払らって、頭を抱えて座り込んだ。真島の意外な姿を目の当たりにして、冴島は呆気に取られた。冴島は座り直す。
「ほんで、桐生は何て言うとるんや?」
「桐生ちゃんには、『の保護者でいてくれ』いうて釘さされたわ」
「ほんで、肝心なちゃんは、お前のことをどう思うとるんや?」
「そりゃ、まだ分からん……で」
「なにが『分からん』や。百歩譲ってちゃんがお前のことを男として好きになったとする。せやけど、ちゃんに東城会直系真島組組長の女をさせられるか?もしそうなったら、桐生とおる程度やすまんくらい危険な目にぎょうさん会わせることになるんやで。それでも、お前は、ちゃんを守りきれるんか?幸せにできるんか?」
その後冴島は黙り、真島も言葉を発しなかった。二人の間に店内の客の声だけが流れる。そして、ついに真島が重い口を開いた。

「ああ、守ってみせるで。命に変えてもな。それに、他の誰よりも幸せにしてみせるわ。兄弟、俺、ちゃんのこと、ホンマに好きやねん。ちゃんのことしか考えられへんねん」
真島は、じっと冴島を見据えた。その瞳には、迷いがない。
「真島、ホンマにこれでええんやな。桐生にはどないして話つけるつもりや?大切なちゃんのことや。簡単に許すわけあらへん」
「せやろなあ。まあ話し合うしかないやろなあ……」
真島は、腕を組んで下を向く。冴島がふぅと大きな溜息をついた。
「そないに簡単にいくか?」
「まあ、いざとなったら、勝負やな」
腕を組む真島の拳に力が入る。冴島は、ビールをぐいっと飲み干した。

「それにしても、兄弟。お前も変わったな。昔は、色っぽい女が好きやったやないか。それが、若い子を好きになるやなんてな。お前も親父になったちゅうことやな」
「何ぃ?」
真島が身を乗り出して冴島を睨みつける。冴島が続ける。
「まあ、俺はこれ以上何も言わん。お前の好きにしたらええ。せやけど、これだけは言うとく。ちゃんのこと傷つけたら、ただじゃすまへんからな」
「お前に言われんでも分かっとるわ、兄弟」
真島は、ムッとした顔で焦げかけたホルモンを突付く。冴島が手を上げた。
「おい、姉ちゃん、ホルモン三人前、追加や」
「兄弟、まだ食べるんかいな」
真島が目を丸くした。
「当たり前や。お前がとんでもない話するさかい、腹減ったんやないかい」
冴島が、いたずらっぽく笑う。
「しゃあないなあ。今日は、とことん食うでぇ」
大きな笑い声が韓来に響き渡った。そして、二人は、空白の時間を埋め合わせたのだった。

つづく

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