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12. モテオヤジに

冴島にのことを相談して、決意が固まった真島は、毎日にメールや電話をするようになった。
また、仕事も以前に増して精力的に取り組み、今まで関心なかった私服にも興味を示すようになっていた。

ある平日の昼時、真島は黒塗りの車の後部座席に座り、にメールを送ろうとしていた。車は幹部会へ向かっている。
ちゃん、今、何しとんの?』
「よっしゃ。これでええやろ。送信と」
真島は、頬を緩ませながら、返信を待つ。数分後、携帯のメール音が車内に響いた。急いでメールを開く。
『昨日の席替えで隣りになった高橋君と話してたよ♪メンズノンノとかすごく面白い!』
真島の顔が一気に険しくなった。メンズノンノとは何なのだろう。携帯を革パンツのポケットにしまうと、西田に尋ねた。
「おい、西田。メンズノンノって何やねん?」
「親父がメンズノンノですかぁ?それは、若いヤツが読むファッション雑誌ッスよ」
西田が運転席で笑いを堪えていると、「俺も読むさかい、買うて来いや」と真島が不機嫌そうに命令した。
「親父!ちょっとそれは、若すぎますよ!俺、親父に言われてたように、ぴったりのファッション雑誌を買ってますから」

西田はそう言うと、車を路肩に止めて、真島にその雑誌を手渡した。雑誌を見ると、葉巻をくわえた、真島と同じぐらいの年齢の男が表紙を飾っている。
「このレオンちゅう雑誌、流行っとるんか?」
「はい。ちょいわるオヤジがモテるって言い出した雑誌ですからね」
「何や、ちょいわるオヤジって?」
「ちょっと不良っぽいオヤジっつうか」
「ほんなら、俺かて不良やな?」
「親父は、不良じゃなくて、超極道じゃないスか」
西田は、堪え切れなくて、クスクスと笑い出す。
真島が、運転席をドンと蹴った。
「笑うとこちゃうわ、ボケェ!真面目に運転せんかい」
真島は、雑誌に視線を落とした。ポーズを決めた中年外国人がカラフルな服に身を包んでポーズを決めている。オヤジ、セクシー、モテるといったキーワードが、真島の目にどんどん飛び込んで来る。
(ほう、これがモテるオヤジなんか。イタリヤのオヤジがイタオヤ?カッコイイ?どこがやねん。俺のほうがカッコええに決まっとるわ。せやけど、服は買うたほうがええなあ。オシャレな男になって、ちゃんをびっくりさせたらなアカン!)

真島は、雑誌を放り投げると、運転席を見た。
「おい、西田!幹部会の帰りに銀座に寄れ」
「あ、はい。誰かと待ち合わせスか?」
西田が、バックミラー越しにチラリと真島を見る。
「関係ないやろ。服や。服を買うんや」
真島は、苛ついたように上体をのけぞらせて、上を見上げた。
(オシャレな男になってカッコイイオヤジなったるでぇ。ちゃんが、惚れるのも間違いなしや)
にんまりと笑った真島は、レオンの表紙をじっと眺めた。

東城会本部に着いた真島を迎えたのは、黒塗りの車の横に待機する各組の若い衆だった。皆が真島に頭を下げる。真島は、彼らをチラリと見ると、会議室へ向かった。部屋に入ると、東城会の大紋を後ろに、当代の堂島が座り、その横に並べられた一人掛けのソファに幹部達が座っている。
真島は、堂島の横に深々と座り、足を組んだ。まだ幹部会開始まで五分ほどあった。
「真島さん、いい匂いがしますね」
真島を振り向いた堂島がにこりと笑って言った。
「せやろ?これおニューやねん。この間なあ、ル・マルシェで買うたんや。フランス製とイタリア製、両方な」
「真島さん、なんだか活き活きしてますね。何かいいことでも?」
堂島が、真島の方に身を乗り出す。
「別に何もあらへんで。まあ、これくらい男のたしなみっちゅうことや。ひゃひゃひゃ」
高らかに笑う真島を見て、幹部一同が唖然とした。そして、幹部の一人である冴島だけが、呆れた眼差しで真島を見ていたのである。

幹部会が終わり、銀座に着いたのは、六時過ぎだった。真島は、西田を連れて中央通りをぶらぶらと歩く。シャネル、ヴィトン、カルティエのショーウィンドウが通りに高級感をかもし出している。銀座の女らしき和服姿の女性が、ちらほら歩き始め、真島の横を通り過ぎて行った。
「あんま、俺が欲しいような服はないなあ」
ショーウィンドウを見ながら、真島がポツリと呟いた。真島の後ろを歩いていた西田が、
「親父!親父にぴったりの店がありました!ドルチェ&ガッパーナっていうブランドです。それ、なんか親父のイメージにぴったりっつーか」
「ホンマか!それどこや?」
「今調べてみます」
西田が携帯で調べると、その店は歩いてすぐ傍だった。

真島が、店の前に着くと、高級感のあるヨーロッパを思わせる壁がアーチ状になって店を囲んでいた。店内には、客らしき人は誰も見えない。
「ええ店やないか」
真島はニヤリと笑うと、勢いよく扉を開けた。真島を見た女性店員の顔が、一瞬で引きつる。
「いらっしゃいませ……」
「服見せてくれや」
「は、はい。こちらへどうぞ……」

メンズフロアに通されると、シャンデリアの下にシックな色合いの服がずらりと並べられていた。真島は、色々と手に取ってみる。 硬直した笑顔で若い男性店員が近寄って来た。その視線は、真島の蛇柄のジャケットの隙間から覗く刺青に向けられている。
「何かお探しでしょうか」
「普段着が欲しいんや」
「それでは、こちらのブラックのジャケットはいかがでしょう?」
「こんなん地味ちゃうかあ?」
「そうですね。色合い的には地味なんですが、これからの季節こちらのような色味が何かと着まわしできて便利かと」
「ほな、着てみるか」
「あ、よろしかったら、こちらもご一緒にどうぞ」
店員が、白いシャツとジーンズを差し出す。
真島は、それを受け取ると案内された試着室へ入っていった。しばらくするとドアが開いた。
真島が、鏡の前で仁王立ちしている。黒のジャケットと白いシャツのコントラストが美しく、真島の端正な顔立ちとマッチしている。ジーンズは、真島のすらりとした長い脚にフィットしていた。
「おい、兄ちゃん。どや?」
「とてもよくお似合いです」
店員がにっこり笑ってジーンズの裾を整えたり、ジャケットのしわを伸ばしたりする。
「よっしゃあ、兄ちゃん。他の服も持って来てくれや。まだまだ買うでぇ」
真島は、ジャケットとシャツをパッと脱ぎ捨てた。店員の目が鮮やかな刺青に釘付けになったのは、言うまでもない。この日、真島が買ったのは、二十着以上だった。初めに試着した服に身を包んだ真島は、店員全員にとびきりの笑顔で見送られて店を後にした。

帰りの車の中で、窓に映る自分を見ながら、真島は顎を撫でた。
(これで俺もモテオヤジやな)
真島は色々な角度から自分を眺め、見違えるようにお洒落になった自分に満足していた。

つづく

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