真島さんに何と呼ばれたいですか?
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*何も記入しない場合、青山美香になります。


花火大会

後編: 二人きりの花火大会

盆踊り会場は、隣の花火大会会場に人が集中しているため、比較的、混雑していなかった。
会場は、お寺の広場で行われていた。その会場を囲うように、ずらりとカラフルな屋台が立ち並んでいる。オレンジ色に灯されたちょうちんが、やぐらから放射線状に飾られていた。その下では、綺麗な浴衣に身を包んだ女の人や子供たちが行き交っていて、まるで別世界に来たようだった。

屋台のほうから香ばしい匂いが漂ってきた。
「ねえ、真島さん、せっかくだから屋台見ない?あれ?」
さっきまで隣にいたはずの真島さんの姿がない。

「お〜い、!」
「金魚すくい、せえへんか?」
さっきまでのテンションとは裏腹に真島さんは、わくわくとした様子で金魚の水槽の前で手を振っている。私が小走りに行って、水槽を覗くと、赤と黒の金魚が悠々と泳いでいた。
「おばちゃん、ほな、二人分で一回ずつや」
真島さんがお金を渡すと、おばちゃんが網を渡してくれた。私は赤い金魚に狙いを定めた。

破れないように水の抵抗を受けないように、こうして、よいしょ……)
「やったぁ!」
「あ〜!アカン!」
真島さんを見ると、網がもう破れている。私は笑いを噛み締めながら、
「やり方教えてあげよっか?」
と、いたずらっぽく訊いた。
「アホか!こないなモン、ガキかて出来るわ!」
ムキになって言う真島さんは、また二枚、網をもらって、私に一枚くれた。これが四回繰り返され、五回目となった。私の器には四匹の赤い金魚がスイスイと泳いでいる。真島さんの器には、まだ水が張られているだけある。

「しゃあない!大物狙いや。あの一番でかい黒の出目金いくでぇ!」
そう言いながら、真島さんは浴衣を袖まくりして網を構えた。
(絶対ムリだよ……)
私は、隣で真島さんの網の動きを見守った。真島さんが、網をゆっくり斜めに水に入れた。そっと金魚を救い上げると、網の上で大きな黒の出目金がピチピチと跳ねた。
「ごっつい大物やでぇ!まあ、こんなん獲れるヤツは俺くらいやけどなあ!」
「は、早く器に入れようよ!」
真島さんが、勝ち誇ったような笑みを浮かべている間に――
網が破れて幻の金魚は水槽にポトリと落ちてしまった。
「クソーッ!」
真島さんは、落胆の声を上げ、がっくりと肩を落とした。おばちゃんが、水の入ったビニール袋の中に赤い金魚と、オマケに小さな黒の出目金を入れてくれた。
私は、口をオレンジ色の紐で縛られた袋を吊り下げて歩き出した。

「金魚、可愛いねえ?」
私は、袋を目線まで持ち上げて元気に泳ぐ金魚を眺めた。
「そないなモン、可愛いか?」
ぼそっと言った仏頂面の真島さんは、ちらりと金魚を見た。
「ふふ。ねえ、次、どこ行く?」
「せや!射的や!お前の好きなモン取ったるでぇ!」
得意そうに言って、目を輝かせている真島さんは、無邪気な小学生みたいで、私は苦笑しつつも、頷いたのだ。

射的屋に着くと、赤いフェルトが敷かれた台には、色とりどりのおもちゃやお菓子がずらりと並んでいた。そのレトロな雰囲気に見とれていると、隣で真島さんが銃口にコルクの弾を詰め始めた。
「おい、、出来んのは、四回や。どれが欲しいか言うてみろや」
「え?四個も?えっと、じゃあ、上のくまのぬいぐるみと、その横のアロマキャンドルとミニマグカップと、それから下の苺ポッキーかな!」
「ほう、それでええんやな」
真島さんは、口の端をクイッと上げて笑みを浮かべると、銃口を景品に定めて、構えることなく引き金を引いた。

パシッ!
ぬいぐるみが弾かれるように後ろに落ちた。真島さんは、素早く弾を詰めてまた引き金を引く。横のアロマキャンドルも倒れた。
「すごい、二つも取れた!真島さん、さすが!」
「こんくらい朝メシ前や。まあ、ホンマモンには、かなわんけどなあ!」
ヒヒッと笑った真島さんは、その後も流れるように景品に弾を当てていった。

「ほな、の番やでぇ」
「は?」
「ホンマは、まだ一回分残っとるんや」
意地の悪い笑みを浮かべた真島さんは、銃を私に渡すと、
「狙ってみ?」
と、言って私の後ろに回った。
「そんなぁ……」
「ええから、早うし」
「じゃあ、真島さん、何が欲しいの?」
「せやなあ。あのでかいアンパンマンにせい」
「はあ?」
言われるままに狙いを定めるけど、なかなかうまくいかない。
「ええか?あの腹に合わせるんや」
真島さんの息が頬に当たる。背中に彼の手が添えられていて、私は真島さんに覆われるように銃を構えている。 心臓が高鳴って、目に見えてわかるくらい手が震えてしまう。

「ほれ、集中せい」
「あ、はい」
慌てて銃を握り締める。
「せや。今や。引け!」
目を閉じて引き金を引いてしまった。

パシッ!
ゆっくりと瞼を開けると、見事にアンパンマンが後ろに倒れていた。
「やったぁ!」
弾んだ声で振り向くと、満足そうな顔の真島さんが、
「さすがやでぇ」
と、手を伸ばして、私の頭をポンポンと撫でてくれた。

盆踊りの会場での時間は、ゆっくり過ぎていった。お面、リンゴ飴、カキ氷、綿菓子、ヨーヨー釣りなどの屋台が並び、愛想のいいおじさんが屋台の中から客引きをしている。
、何や喉渇いたなあ。カキ氷でも食うか?」
「うん!そうだね」
そうやって二人でカキ氷を食べたり、会場内をのんびりと歩いて食べて回っていた。
「おお!」
突然、真島さんが大声を上げ、空を見た。私もつられて空を見上げる。
色とりどりの大輪の花が夜空に次々と咲き始めた。大きな音と何色もの光が組み合わさり、心が奪われる。お腹の底に花火の音が鳴り響いた。
「綺麗〜!」
真島さんと並んで、私は思わず大きな声を上げた。

その時、真島さんがいきなり私の手を引っ張って歩き始めた。
「え?どこ行くの?」
「ええからついて来ぃや」
真島さんは、お寺の境内のほうへどんどん進んでいく。境内に着くと、人の気配がない。祭の客に開放していないようで、通行止めの鎖が渡してあるようだ。真島さんは、その鎖をいとも簡単に跨ぎ越した。
「おい、こっちや!」
「こんなこと、しちゃダメなんじゃ……」
そう言いつつも、私は差し出された手を握り、鎖を跨いだ。そこを通り抜けると、真島さんは境内の裏にある石畳の階段をを登り始めた。
草むらにうずくまるように点々と石仏が並び、それぞれが、かすかな笑みを浮かべている。
「ねえ、怖いよ……。本当にどこ行くの……?」
「特等席や」

そう真島さんが言った瞬間、パッと見晴らしが良くなった。眼下には、オレンジ色に灯ったちょうちんや、ライトに照らされた色とりどりの屋台が小さく見える。
「すごい!真島さん、どうしてこんなとこ知ってるの?」
「勘や!」
「勘?」
ぽかんと固まった私の顔を見て、笑い出した真島さんは、
「ちゅうのは冗談で、寺を見た時、後ろが丘みたいやったんで、二人きりになれるんちゃうかと思うただけや」
私たちは、笑いながら、ベンチのようになった石に腰を下ろした。

真島さんは、満足そうに夜空を見上ていた。赤、黄、青、緑といった華やかな花火がいくつも上がり、空を彩っては消えていく。
「ホンマ綺麗やなあ。下とは迫力がちゃうでぇ」
「うん!今まで見た花火も綺麗だったけど、これが一番……」
真島さんを見ると、両手を後ろについて、夜風を浴びながら空を見上げている。花火に見入っているようだ。
大きくはだけた胸元にひそかに胸が高鳴ってしまう。

ふと、真島さんが振り向いた。優しい視線とぶつかる。
「んっ」
そっと唇が重ねられて、思わず目を見開いてしまった。真島さんが頬を撫でて、もう一度唇を重ねた。さっきよりも熱いキスにどんどん力を奪われて、頭がボーっとしてしまう。真島さんが背中に手を回してきたので、腕の中にストンと身を任せた。火照った頬が真島さんのたくましい胸に触れた。そのひんやりした素肌に鼓動はどんどん速くなる。

パシャン。
私が持っていた金魚の袋から水が跳ねた。我に返った私が、
「ふふ、金魚がやきもち焼いてるのかも」 と小声で言うと、
「せやったら、チビ助の出目金やろな。は渡さへんでぇ」
そうささやいた真島さんは、いたずらっぽい笑みを浮かべて、私をぎゅっと抱きすくめた。

大きな音が鳴り響き、七色の光に私たちは包み込まれた。それはまるで夢の中にいるようだった。あまりの美しさに、真島さんの胸の中からそっと顔を上げると、吸い寄せられるように、視線が絡み合った。
真島さんが、私のうなじをふわりと撫でて、耳のそばに頬を当てた。

「なあ、、お前ホンマにええ子やなあ」
真島さんが低い声でささやく。耳に息がかかって背中がピクンとする。
「お前と一緒やったら、楽しいてしゃあないわ」
「そ、それはどうも……」
「それになあ、は優しいねん」
「え?そ、そうかな?」
真島さんの抱きしめる手に力が入った。
……、お前が初めてなんや。こないに惚れた女は」
真島さんは、間を置いて言った。私は、真島さんの意外な言葉に鼓動を刺激されて、必死に呼吸を整えた。私は、夢を見ているのだろうか。それとも、本当に私が一番の女なのだろうか?

一際大きな音がした。見上げると、金色の大輪の花火が、夜空一杯に咲いていた。一瞬にして金色の光に包まれる。光が丸く下に垂れ、柳のようにキラキラとゆっくり落ちてくる。
「……ねえ、本当に私が一番、なの……?」
「お前は最高や」
真島さんは低い声でささやくと、背中に回した腕で力強く私を包んでくる。真島さんの首筋に頬をすり寄せた。私たちの上から、数え切れない光が降ってくる。
まるで流れ星のよう……。
(どうかこの夢から覚めませんように……)
次々と上がる花火の音を遠くに聞きながら、私は真島さんの首筋に顔を埋めて、そっと願いを込めた。

前編:喧嘩ばかり?

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