突然だった。
突然、声を掛けられたんだ。
知らない声だった。
知ってる子だった。
同じクラスの・・・不二家。
あまり話したことが無かったんで、声を聞いても分からなかった。
差し出してるのは?
・・・ああ、そうか。今日はバレンタインか。
チョコだな。
僕には別に好きな子がいる。
受けとらまいとも思ったが、それも自意識過剰な気もするし、義理かも知れない。
正直、悪い気はしない。もらっとこう。
受け取ろうとした瞬間、それは僕の手に触れることなく床に落ちる。
落としたのか?
ことんと床に当たり、二人の間にぱたんと仰向けになった。
僕は反射的にかがみ、それを拾おうとした。
不二家もドジだな・・・
再び、不二家が喋った。
でも、最初と全く印象の違う声色。
それに、おかしなことを言っている。
そりゃ、くれるもんは欲しいけどさ、もうちょい言い方ってもんが・・・。
まあいい、とりあえずチョコを拾って立ち上がろう。
正気かこいつ・・・!
黒田の体重の半分が、僕の手とチョコにのしかかる。
チョコが割れてもいいのかよ!僕の手があるから大丈夫なのか?
いや、大丈夫じゃねえよ!
僕は、不二家の足をどかそうと、もうひとつの手を伸ばした。
正気じゃない・・・!
しまった、あまりのことに唖然としてしまった。
無視をして、走って逃げればよかったんだ。
不二家は、口をあけて見上げている僕の両手を、後ろ手にしてマフラーで固く結んでしまった。
・・・狂ってる。逆らっては駄目だ。
僕は上半身をさらに落とし、あごを突き出した。
犬のように。
↓↓↓