図書館の地下二階にいるギコとモララーだが、係員が全く居ない。どうすれば良いのか、まったく見当がつかない。

「あの棚、一つずつ確認していくのか?」
「いや、それは御免だ」
「じゃあ、やっぱり反対のフロアから係員呼んでくるか」
「そうしよう」

二人は一旦、このフロアを出て、階段の反対側のフロアに向かった。昔の資料が集まっているこの階なので、フロアが違っても大体はわかる係員が居るはずだ。

「ほほう、こっちのフロアには、昔の本がいっぱいだな」
「この地下二階には、けっこう重要な文献が揃っている、と」
「まあ、そういう事になるんじゃない?」

「こっちには人が居るな。あの地図のほうより広いし」
「ああ、地図なんて、どっかの学者が見るくらいで、大した興味も惹かないしな」
「それだったらこっちだって……」
「でも、昔の本といったって、幅広いんだぜ? 江戸時代とかそういう時代のものだけじゃない。昭和の時代の本だって、二十年くらい前までのやつは、ここに集まってるはずだ。地図なんて昔のヤツに興味を持つ輩は聞いたことないな」
「モララー、詳しいな。お、ホントだ。鉄腕マトムとか、ヅャソグル大帝がある」
「なぜにアニメ。しかもなぜテツ゛カなんだ」
「テツ゛カフェチなんだyp」
「…………ギコ、お前がいったいどんな人生を送ってきのかを問いたくなるな」

そうこう話しているうちに、カウンタへと着いた二人は、カウンタの職員に言った。
「あの、隣のフロアに係員いなくて、こっちに来たんですが……」
「おや、そうですか。……そうだ、向こうのフロアの担当は、いま総がかりで、書庫の整理中ですよ。なんでも、あっちの書庫の中に虫が湧いたらしくて」
「うわ、致命的」
「ええ、そうなんですよ。もう数本巻物がやられて、それから本も数冊。被害はそれだけで食い止めてるみたいですけどね」
「ああ、そうなんだ。でも、一人くらい受付に残しとかないか? あるいは、他の……たとえばここから一人や二人派遣したって……」
「それが、色々あって―――ここの事情なのですが―――無理なんですよ。まあ兎に角、行ってみましょう。ところでどんな物をお捜しですか?」
「ええ、地図をちょっと」

そんなこんなで、もう一度地図の棚に戻ってきた。
「えーと、その巻物を見せてください。……あー、こりゃやっちゃいましたね。インクですか?」
「いえ、こっちの馬鹿がこぼしたコーヒーです」
「あ、あ……そうですか、ひどいですね、これは」
「悪かったなゴルァ」
「いえ……」

係員はもう一度棚を見直し、地図を照らし合わせているが、どうも分からない様子だ。
「この巻物に書かれている場所が何処なのかってのは、僕ではちょっと判らないですね。あ、そうだ、ここと併設の歴史博物館の担当職員なら、わかると思いますよ。あっちには歴史に詳しい、歴史オタクみたいな人がいっぱい居ますから」
「オタク……」
「まあ、アキバとかを想像しないで下さいよ。あっちの『萌え』とかそういうタイプじゃないです」
「マルオ君タイプ?」
「んー、まあそっち系ですかね……」
「うわ、もっと嫌かも……」
「まあそう言わずに。十分くらい待っててもらえますか。隣の博物館から人を呼んできますんで」
「あ、そうですか」

ギコは軽く返事を返し、担当員は走っていった。だが二人は顔を見合わせ、
「また待たされるよ……」
と嘆くのであった。


───十分後

「すいませーん! お待たせしましたぁ!」
威勢良く係員が帰ってきた。かたわらには図書館の担当員とは格好の違う、緑色のネクタイをした博物館の担当員がいる。ちなみに図書館の職員は腰から青いエプロンをしている。

「どうも、大耳モナーと申します。となりの博物館の文学館担当です」
「あ、どうも」
ギコとモララーも軽い挨拶をした。担当職員の大耳モナーは、耳が異常に大きい。後はモナーとほぼ同じ背格好をしている。

「えーと、巻物を見せてください」
「これです」
「おや、これはひどいですね」
「インクじゃなくてコーヒーですよ」
「え? あ、そうですか……で、問題はここですね。地名がわからないと。でも、地形的に、この町から南に三十キロくらいいったところにある、ヤマブキ山の地図みたいですよ。えーと、……あった、これです」

「おっ、さすが地図オt……痛ッ!」
ギコの口から『オタク』という言葉が漏れないうちに、モララーと係員は足を踏んだ。大耳モナーはキョトンとしている。
「あの……大丈夫ですか?」
「おう、だ、大丈夫だぞゴルァ」
「ええ、それなら良いのですが」

大耳モナーは現在の地図を見せ、隣に巻物を置いて、説明を始めた。
「えーと、まず、巻物のこの道が、現在は旧遊歩道になってます。今はこっちの道が、遊歩道ですね。で、この城のマークが、ミドリ城。これは判りますよね。で、この巻物の地図の真ん中に書いてある赤い×印なんですが……」
「ああ、それなんですよ。そこがもしかしたら何か有るんじゃないかと、疑ってるんです」

モララーは待ちかねていたように、そう言った。だが大耳モナーは、顔を渋らせた。
「いや、実はですね……」
大耳モナーは言葉を切って、神妙な面持ちで言った。
「今現在の地図を見てください。×印の周辺は、道や建物の位置関係からすると、ここにある第六ダムの、底なんですよ……」

「えっ! 底ぉ!?」
二人がおどろきを隠せない状態になったのは言うまでもないが、大耳モナーはなお話を続けたいようだ。
「実は、丁度この×印の部分、ダムを深くする為に土を掘ったんですよ。で、その時の土は、首都の埋め立て工事に使われたはずなんです」
「じ、じゃあ、もう底にはなくて、今頃首都のビル街の真下に眠っている可能性もあるっていう事……ですか」
「ええ、そっちの方が確率的に非常に高いです……」
「そんなぁ……」


「仕方ない、モララー。諦めよう」
「ううっ、くそぉっ!! 億万長者の……億万長者の夢がァ……ア……ア───ッ!!」
「な、泣かないで下さい! 仕方ないじゃないですか……お気持ちはよく分かりますが、ここで泣かれても……」
「モララーも災難だったな。いったん俺の家に帰ろう」
「グスン……わかった、帰ろうか……」



がっくりと肩を落とした二人の姿は、ゆっくりと住宅街へ戻っていった。



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