ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

ゴジラ映画で初めての……

アンギラス――1955年『ゴジラの逆襲』より


 1955年の『ゴジラの逆襲』に初登場した暴龍アンギラスは、非常に好戦的な怪獣としてゴジラと死闘を繰り広げる。アンギラスの登場によって『ゴジラの逆襲』は日本初の怪獣同士の戦いを描いた作品として記録されることになった。そういう意味では、アンギラスは怪獣映画史の中でも特筆すべき位置づけのキャラクターと言えるのかもしれない。もっとも、『ゴジラの逆襲』ではゴジラとアンギラスの死闘は物語中盤で終わり、アンギラスはゴジラの放射能熱線によって焼き殺されてしまう。つまりはアンギラスはゴジラシリーズ史上初めてゴジラに殺された怪獣ということになる(しつこい?)。

 アンギラスは、その後、『怪獣総進撃』『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』『ゴジラ対メカゴジラ』などにも登場。好戦的な雰囲気は影を潜め、昭和ゴジラシリーズのなかで、「ゴジラのよき相棒」という独自のポジションに収まることなる。1971年の『地球攻撃命令 ゴジラ対ガイガン』で、キングギドラ・ガイガンを撃退したゴジラとアンギラスが海へ帰っていくシーンで、ゴジラがアンギラスを気遣うように時折振り返りながら歩き去っていく姿は、ゴジラが作中見せる人間臭い様相の中でも特に人間臭く感じる。……が、1955年に登場したアンギラスは、はっきりと殺されているので、これらに登場するのは別個体である。

 1954年の『ゴジラ』と、1955年の『ゴジラの逆襲』は、個人的には前編・後編の関係性だと思う。原作が香山滋氏だからというだけではなく、『ゴジラ』ではゴジラの圧倒的な恐怖と人間の無力を描き、『ゴジラの逆襲』では、ゴジラの恐怖に負けず復興に邁進し、ゴジラに立ち向かう人々が描かれている。その中で、アンギラスの立ち位置は何なのだろう。物語自体は、アンギラスがいなくても、成立してしまう。結局のところ、アンギラスはプロレスでいうところのジョバー(興行を盛り上げるためのやられ役)である。ゴジラシリーズ史上2番目(『ゴジラ』と『ゴジラの逆襲』のゴジラを別個体とみれば3番目か)に日本を震撼させた怪獣という栄誉あるポジションにいながら、話を盛り上げるためだけに登場したアンギラス自身には背負うべき物語もなく、その後はゴジラの格下のタッグパートナーのような地位に甘んじてしまったのは、最初から気の毒な生い立ちだったという感じがする。

 プロレスの用語がいくつか出たので思い出されるのが、映画公開のころ『昭和の巌流島』と呼ばれた力道山と木村政彦のプロレス試合が行われたことである。1954年12月22日に蔵前国技館でのことである。大相撲出身の力道山と、柔道出身の木村という異種格闘技戦の様相も漂うこの試合は、それだけでも注目を集めたが、試合途中に力道山の渾身のストレートパンチが木村の顎を貫く。あくまでも台本(ブック)のあるプロレスとしてリングに上がっていた木村は、何が起こったのかわからないまま力道山の張り手の連打を浴びて、マットに沈んだ。血に染まったリングに、いつものプロレスとは違ったものを感じた観客は騒然となったと伝えられる。試合の時には『ゴジラ』公開から1ヶ月以上は経っていたので既に続編の話は出ていただろう。怪獣同士の1対1の戦いという発想は、その辺からきているのかな、とも思う。

ゴジラとゴジラの敵たちの時代