ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

日本経済が力強く発展していた時代

キングギドラ――1964年『三大怪獣 地球最大の決戦』より


 1964年は4月公開の『モスラ対ゴジラ』と12月公開の『三大怪獣 地球最大の決戦』の2本のゴジラ映画が製作された。ゴジラシリーズをはじめとした怪獣映画が次々とヒットしたこともあり、他の映画会社も特撮怪獣映画を次々と世に送り出し、第一次怪獣ブームと呼ばれる時代の幕が上がった。

『三大怪獣 地球最大の決戦』ではゴジラ・ラドン・モスラの3大怪獣が、新怪獣キングギドラの侵攻から地球を守るべく、力を合わせて立ち向かうという内容。単体同士ならゴジラ以上の破壊力を誇り、ラドン以上の飛行能力を有しているというキングギドラ。高度な文明を誇った金星人をわずか3日で滅ぼしたという設定だが、金星は文明はおろか生物が発生する要件が全く整っていないことが分かっているのに、それを滅ぼしたと言われても「3日かかって金星には何もないことを確認しただけじゃね?」と思わずツッコミたくなる。それはさておき、隕石に姿を変えて地球にやってきたキングギドラが炎の中から現れるシーンは秀逸で、今見ても凄みがある。贅沢な映画、などという表現は好きではないが、それぞれ単体で主役を張ったことのある人気怪獣の揃い踏みに、更なる凶悪怪獣の登場という“贅沢”という言葉がぴったりな映画である。

 1964年は、戦後日本復興の象徴である東京オリンピックが開催された年であった。東京オリンピックでは中華人民共和国のボイコットがあったうえに、開催期間中に同国初の核実験という国際的事件が起こり、世界的な関心がそちらに奪われた面があったが、オリンピック史上最も成功した例の一つとして数えられるだけの成功を収めた。1954年終わりごろから1973年終わりごろまでが高度経済成長の時代と呼ばれ、識者によっては1954年終わりから1961年終わりごろを第一期、1965年終わりごろから1973年終わりごろまでを第二期と呼んでいる。第一期は設備投資主導型の成長を遂げ、1964年の証券不況を克服したのちは輸出・財政主導型の成長を遂げ、1968年には、GDP世界第二位に上り詰める。1973年終わりごろのオイルショックなどをきっかけに戦後初のマイナス成長を記録したことで高度経済成長は終わりをつげ、安定成長期(中成長期)へと移行していく。

 1964年という時代は、丁度、第一期から第二期へ移行している転換期に当たる。1956年の経済白書で『もはや戦後ではない』という言葉が記載され流行語になった。この言葉を執筆した経済企画庁の担当者の本音は、「もはや戦後復興の経済発展の伸びしろがある時期は終わってしまった」という意味であったという。実際、朝鮮戦争特需があったとはいえ、日本の経済活動は戦前の水準にまで回復していた。しかし、日本の経済発展は、その後も天井知らずに伸びていったため、『もはや戦後ではない』という言葉は、明るく希望にあふれた日本の未来を見据え、日本の高度経済成長の時代を声高らかに宣言するかのような言葉として、今日では受け取られている。『三大怪獣 地球最大の決戦』は1964年の東京オリンピック、1970年の大阪万博と大規模なプロジェクトを次々と成功させた時代の日本の力強さを、垣間見えるような作品になっていると感じる。

 ところで、キングギドラの名前の由来はギリシア神話のヒュドラからのものだろう。ヘラクレスの12の試練の1つに出てくる9つの首を持つ大蛇(神話の中では時として蛇と竜やドラゴンが同質の存在として扱われることがある)である。また、日本の八岐大蛇や九頭竜王、インドのナーガ・ラージャ、中国の八大竜王、旧約聖書のレヴィアタンも複数の首を持つ悪魔として描かれることがあるように、神話の中には複数の首を持った大蛇やドラゴン(多頭竜)といった存在が出現することがある。もちろん、その役割は様々でもあるし、首が多い=一本の首しか持たない大蛇やドラゴンより格上、と一概に言えるわけでもないのだろうが、見た目の迫力は群を抜いたものになるだろう。キングギドラはまさしく多頭竜のキングといった雰囲気をまとわせてスクリーンにデビューした。もっとも、その後のシリーズでは、宇宙人や未来人に操られて地球を襲う存在になってしまっているのは悲しい。

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