ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦(2015年)

DATE

2015年劇場公開

監督・脚本:  押井守

キャスト   後藤田継次:筧利夫  泉野明:真野恵里菜  塩原佑馬:福士誠治  カーシャ(エカタリーナ・クラチェヴナ・カヌカエヴァ):太田莉菜  山崎弘道:田尻茂一  大田原勇:堀本能礼  御酒屋慎司:しおつかこうへい  淵山義勝:藤木義勝  シバシゲオ:千葉繁  灰原零:森カンナ  小野寺:吉田鋼太郎  高畑慧:高島礼子

内容にはネタばれを含んでいます。  解説・感想  ストーリー  映画の中の自衛隊

【解説・感想】

 2013年3月に、『機動警察パトレイバー』の実写化プロジェクト『THE NEXT GENERATION パトレイバー 』が正式に発表された。『機動警察パトレイバー』は1988年のOVAの発売から、漫画、TVアニメ、映画、小説と多角的に展開されたリアルロボットアニメの金字塔である。現在で言うメディアミックスの先駆けとなった作品として知られる。

 舞台となるのは20世紀末〜21世紀初頭。人間が操縦する「多足歩行型作業機械」ロボット――通称レイバーが一般化した時代。しかしそれは、レイバー犯罪という新たな犯罪を生み出した。警察はこの新たな脅威に対処すべく、警視庁警備部内に特車二課を設立し、その対処に当たることとした。というのが基本設定。

『THE NEXT GENERATION パトレイバー 』は、その設定を踏襲しつつ、15年以上が経過した時代が舞台。特車二課のメンバーは全員が代替わりし、3代目となっていた。特車二課に残っているのは整備班長となったシバシゲオのみとなっていた。特車二課も、レイバーが下火となり、レイバー犯罪が激減した今や無用の長物として消滅を待つばかりとなっている。配備されているのはもはや骨董品となった旧式の警察用レイバー『98式AVイングラム』が2機のみ。その中で奮闘する、現特車二課の面々を、コミカルに描いている。

『THE NEXT GENERATION パトレイバー 』は前12話+1話を7回に分けて劇場公開された短編作品と、2015年5月に公開された長編作品『THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦』で構成されている。どの作品のアニメ版で用いられたテーマやリメイク的なシーンがふんだんに取り込まれており、新作というよりも実写リメイクのように思える。いる。首都決戦は、1993年公開された『機動警察パトレイバー2 The movie』の十数年後を舞台に、防衛省全面協力の下、首都圏で繰り広げられるテロリズムとの戦いが描かれている。

ページの先頭へ→


【ストーリー】

 2002年の柘植行人による幻のクーデター事件から11年。日本は長期の経済不況から抜け出せずにいたが、それでも概ね平和だった。しかし、そんな日本を根幹から揺るがすような事件が発生する。東京湾の交通の要所、レインボーブリッジが何者かによって爆破されたのだ。日本中が騒然となる中、特車二課に警視庁公安部外事三課の高畑警部が、レインボーブリッジ爆破犯に関する情報を持って訪れる。

 数日前に強奪された陸上自衛隊の最新鋭攻撃ヘリ『AH-88J2改』――通称『グレイゴースト』と、失踪した天才的操縦技術を持つパイロット・灰原令の存在。そして、裏で糸を引いていると思われる柘植のシンパと思われる存在。グレイゴーストは最新の熱光学迷彩によって、レーダーはおろか、肉眼による目視すら困難にした、見えない戦闘ヘリ。それが東京の上空に潜んでいるということは、すなわち東京都民1000万人が人質も同然ということになる。

 特車二課の伝統という言い回しを使い、この事件に特車二課を関わらせようとする高畑。最初は難色を示す後藤田だったが、かつて特車二課で後藤と共に初代隊長の一人として辣腕を振るい柘植のクーデターに関わった南雲しのぶが帰国し、特車二課が事件の後、解隊を免れた理由を聞かされる。それは、後藤田に一つの決心をさせた。敵のアジトの一つが判明したため、隊員に急襲を命じる。表立った行動ができない公安に代わり、超法規的活動で事態を収拾するチャンネルを作り出そうとしたのだ。急襲は成功したかに見えたが、灰原がグレイゴーストを起動させ、その火力に太刀打ちできない急襲チームは敗走し、敵を逃してしまう。

 ついに動き出したグレイゴーストは手始めに特車二課棟を攻撃する。同じ頃、警視庁上層部は特車二課解隊を決定し、後藤田を呼び出す。それはかつて、初代隊長の後藤、南雲の両名が通った道でもあった。警視庁上層部に愛想が尽き果て、さらに南雲からの電話によって決別を決断した後藤は、そのまま会議室を後にした。その次の瞬間、グレイゴーストの機関銃の掃射を浴び、その機能を失った警視庁。このテロ事件を画策した首謀者の小野寺とその部下たちは公安によって拘束されるが、東京の街はグレイゴーストを操縦する灰原によって蹂躙され、出動した陸上自衛隊の戦闘ヘリ部隊も灰原に一蹴されてしまい、もはや成す術なしかと思われた。

 後藤田は特車二課への攻撃を予想し、密かに隊員とイングラムを別のところに移動させていた。後藤田は灰原の性格を読み、東京湾ゲートブリッジを最終決戦の場として定め、グレイゴーストを待ち受ける。そして現れたグレイゴースト。最後の決戦の火蓋が切って落とされた。


【映画の中の自衛隊】

 テロリズムへの脅威、今そこにある危機を描いた作品は1990年代後半以降多く製作されたが、その契機となったのは1995年3月のオウム真理教による新宿サリン事件、1998年8月の北朝鮮のテポドン発射実験、2001年9月のアメリカ同時多発テロだろう。平穏な日常というのが、いかに脆く、いかにあっさりと失われてしまうのかが、改めて見せ付けられ、起こりうる人為的な危機への警戒と備えが必要であるという現実が突きつけられた。特に、国と国との間で交わされる正規の戦争はその役割は小さくなり、テロリズムがより現実的な脅威として認識された。それに伴い、法改正が行われ自衛隊もその活動の範囲は拡大し、より機能的な組織になることを求められることとなった。

 AH-88ヘルハウンドは、機動警察パトレイバーに出てくる架空の攻撃ヘリであり、作中では陸上自衛隊が採用しているAH-1Sコブラの後継機という位置づけをなされている。AH-1Sは1979年度、1980年度に研究用に1機ずつ配備され、1982年度から本格的な調達が始まり、その後は富士重工業(エンジンは川崎重工業)によってライセンス生産も行われた。2000年度までに90機が生産され、2015年3月現在においても60機が運用されており、各地の対戦車ヘリコプター部隊に配備されている。AH-1Sの本当の後継機は2001年度に正式に調達が決定されたAH-64Dアパッチである。AH-64Dは当初62機の購入が見込まれていたが、縮小傾向にあった防衛予算の中で高額な攻撃ヘリ購入のためには年数機の購入しかできず、それが更なる機体の価格高騰を招いたことや、2007年にアメリカでのブロックUの生産終了が発表されたことで部品供給を前提とした川崎重工によるライセンス生産ができなくなったことにより、13機で調達が終了した。そのため、防衛省はAH-1Sの新たな後継の攻撃ヘリの選定を行っているとされているが、2015年3月現在、正式な候補は報道されていない。

『首都決戦』の見せ場の一つがグレイゴーストとアパッチの攻撃ヘリ同士の空中戦。小回りが利き、機動性に長けた攻撃ヘリ同士の見ごたえのある映像になっている。機動警察パトレイバーシリーズの特色は、レイバーの運用や問題を具体的に示している――真偽のほどはとにかく、それをうまくエンターテイメントとして融合させている――点であろうと思う。二足歩行ロボットがいかに無用の長物であるかを語っている文章を読んだことはあるが、「まぁ、フィクションだからねぇ」で済まされてしまうところを突き詰めて描いている点が、これまでのロボットアニメと異なる点だったように思う。クライマックスがグレイゴーストとイングラムの一騎打ちである以上、アパッチの敗北は最初から決まっていたものの、戦いにおける優位性を決めるのは攻撃力ではなく機動力であるという立場に立つと、移動砲台に過ぎないイングラムは戦闘の場においては無用の長物にしか思えなくなってくる。 

ページの先頭へ→