聖徳太子 「憲法十七条」そのB 

                                  その@ そのA

第十一条

原文

十一曰。明察功過。罰賞必當。日者賞不在功。罰不在罪。執事群卿。宜明賞罰。

 

読み

十一、功過(こうか)を明らかに察して、賞罰必ず当てよ。このごろ、賞は功においてせず、罰は罪においてせず、事を執る群卿、よろしく賞罰を明らかにすべし。

 

口語

十一、官吏たちの功績・過失をよくみて、それにみあう賞罰をかならず行いなさい。近頃の褒賞はかならずしも功績によらず、懲罰は罪によらない。指導的な立場で政務にあたっている官吏たちは、賞罰を適正かつ明確に行うべきである。

第十二条

原文

十二曰。国司国造。勿斂百姓。国非二君。民無兩主。率土兆民。以王為主。所任官司。皆是王臣。何敢與公。賦斂百姓。

 

読み

十二、国司(こくし)国造(くにのみやつこ)百姓(ひゃくせい)(おさ)めとることなかれ。国に二君なく、民に両主なし。率土(そつど)(ちょう)(みん)は、王をもって(あるじ)となす。任ずる所の官司(かんじ)はみなこれ王の臣なり。何ぞ(おおやけ)とともに百姓に賦斂(ふれん)せんや。

 

口語

十二、国司・国造は勝手に人民から税をとってはならない。国に2人の君主はなく、人民にとって2人の主人などいない。国内のすべての人民にとって、天皇だけが主人である。役所の官吏は任命されて政務にあたっているのであって、みな天皇の臣下である。どうして公的な徴税と一緒に、人民から私的な徴税をしてよいものか。

第十三条

原文

十三曰。諸任官者。同知職掌。或病或使。有闕於事。然得知之日。和如曾識。其非以與聞。勿防公務。

 

読み

十三、もろもろの官に任ずる者同じく職掌(しょくしょう)を知れ。あるいは病し、あるいは使して、事を()くことあらん。しかれども、知ること得るの日には、和すること(かっ)てより()れるが如くせよ。それあずかり聞くことなしというをもって、公務を防ぐることなかれ。

 

口語

十三、いろいろな官職に任じられた者たちは、前任者と同じように職掌を熟知するようにしなさい。病気や出張などで職務にいない場合もあろう。しかし政務をとれるときには汝で、前々より熟知していたかのようにしなさい。前のことなどは自分は知らないといって、公務を停滞させてはならない。

第十四条

原文

十四曰。群臣百寮無有嫉妬。我既嫉人人亦嫉我。嫉妬之患不知其極。所以智勝於己則不悦。才優於己則嫉妬。是以五百之後。乃今遇賢。千載以難待一聖。其不得賢聖。何以治国。

 

読み

十四、群臣百寮、嫉妬(しっと)あることなかれ。われすでに人を(ねた)めば、人またわれを嫉む。嫉妬の(わずらい)その(きわまり)を知らず。ゆえに、智おのれに勝るときは則ち(よろこ)ばず、才おのれに(まさ)るときは則ち嫉妬(ねた)む。ここをもって、五百(いおとせ)にしていまし賢に遇うとも、千載(せんざい)にしてもってひとりの(ひじり)を待つこと(かた)し。それ賢聖を得ざれば、何をもってか国を治めん。

 

口語

十四、官吏たちは、嫉妬の気持ちをもってはならない。自分がまず相手を嫉妬すれば、相手もまた自分を嫉妬する。嫉妬の憂いははてしない。それゆえに、自分より英知がすぐれている人がいるとよろこばず、才能がまさっていると思えば嫉妬する。それでは500年たっても賢者にあうことはできず、1000年の間に1人の聖人の出現を期待することすら困難である。聖人・賢者といわれるすぐれた人材がなくては国をおさめることはできない。

第十五条

原文

十五曰。背私向公。是臣之道矣。凡人有私必有恨。有憾必非同。非同則以私妨公。憾起則違制害法。故初章云。上下和諧。其亦是情歟。

 

読み

十五、私に背きて(おおやけ)に向うは、これ臣の道なり。およそ人、私あれば必ず(うらみ)あり、(うらみ)あれば必ず(ととのお)らず。同らざれば則ち私をもって公を妨ぐ。(うらみ)起こるときは則ち制に(たが)い法を(そこな)う。故に、初めの章に云わく、上下和諧(わかい)せよ。それまたこの(こころ)なるか。

 

口語

十五、私心をすてて公務にむかうのは、臣たるものの道である。およそ人に私心があるとき、恨みの心がおきる。恨みがあれば、かならず不和が生じる。不和になれば私心で公務をとることとなり、結果としては公務の妨げをなす。恨みの心がおこってくれば、制度や法律をやぶる人も出てくる。第一条で「上の者も下の者も協調・親睦の気持ちをもって論議しなさい」といっているのは、こういう心情からである。

第十六条

原文

十六曰。使民以時。古之良典。故冬月有間。以可使民。従春至秋。農桑之節。不可使民。其不農何食。不桑何服。

 

読み

十六、民を使うに時をもってするは、古の良き(のり)なり。故に、冬の月には(いとま)あり、もって民を使うべし。春より秋に至るまでは、(のう)(そう)(とき)なり。民を使うべからず。それ(たつく)らざれば何をか(くら)わん。桑とらざれば何をか()ん。

 

口語

十六、人民を使役するにはその時期をよく考えてする、とは昔の人のよい教えである。だから冬(旧暦の10月〜12)に暇があるときに、人民を動員すればよい。春から秋までは、農耕・養蚕などに力をつくすべきときである。人民を使役してはいけない。人民が農耕をしなければ何を食べていけばよいのか。養蚕がなされなければ、何を着たらよいというのか。

第十七条

原文

十七曰。夫事不可独断。必與衆宜論。少事是輕。不可必衆。唯逮論大事。若疑有失。故與衆相辨。辞則得理。

 

読み

十七、それ事は独り(さだ)むべからず。必ず衆とともによろしく(あげつら)うべし。少事はこれ(かろ)し。必ずしも衆とすべからず。ただ大事を論うに(およ)びては、もしは(あやまち)あらんことを疑う。故に、衆とともに(あい)(わきま)うるときは、(ことば)すなわち(ことわり)を得ん。

 

口語

十七、ものごとはひとりで判断してはいけない。必ずみんなで論議して判断しなさい。些細なことは、必ずしもみんなで論議しなくてもよい。ただ重大な事柄を論議する時は、判断を誤ることもあるかもしれない。そのときみんなで検討すれば、道理にかなう結論が得られよう。