アキちゃん      シリーズ
                                                 安西 果歩


 その 2  

       チョロ と リン


 アキちゃんちはシャム猫を二匹飼っています。

 名前は「チョロ」と「リン」ちゃんです。チョロはリンちゃんのこどもです。だからリンちゃんはいつもチョロちゃんと遊んであげたり、しつけをしたりします。でも、このごろのチョロちゃんときたら、もう、すっかり大人になったつもりで、ちっともリンちゃんの言うことをききません。そういうわけで、チョロちゃんとリンちゃんはこのごろよくけんかをします。

 アキちゃんは、そんな二匹を見ていて「いったいどうなっているんだろう。ああ、ネコちゃんたちとお話がしたいなあ。ネコちゃんたちが人間みたいにしゃべれたらなあ」と思うのです。

 ところがある日、アキちゃんがパパたちに「おやすみなさい」を言って、ベッドにはいってからのことです。

「アキちゃん!」「アキちゃん!」

 とドアーのそとでちいさな声がします。

 「うん?」

 アキちゃんはベッドの中で目をあけました。

 いいえ、目をあけようとしたのですが、目があかなかったのでした。

 アキちゃんは眠ったままで考えました。

”うーんと、きょうは何曜日だったっけ。誰だろう?ヨウコちゃんかな?でも、まだねむいなあ。どうしてこんなに眠いのだろう”

「アキちゃん」「アキちゃん」「アキちゃん」

 ますます何回もアキちゃんを呼ぶ声がします。ほんとに、誰だろう?

「うーん」

 アキちゃんはベッドの中で両手を伸ばしてのびをしました。そうしたら少し目がさめました。

 フトンの中から足を出してベッドのわきにおろしてみました。

「アキちゃん、アキちゃん、アキちゃん」

 また呼んでる・・・。

 ヨウコちゃんじゃないみたい。

「うーん、いままって。いくから・・・。」

 アキちゃんはねむそうな声でそういうとベッドから出てドアーのところへいきました。

 ドアーのむこうは静かになっています。アキちゃんがドアーを開けてくれるらしいのでおとなしくまっているのでしょう。

 ふと、アキちゃんはふりかえって窓の方をみました。窓にはカーテンがかかっていて、その向こうのお外は暗そうです。

”まだ暗いみたい。こんなに早く、誰なんだろう。ほんとに・・・。誰かゆうべお泊まりしたっけ?ううん、ぜったい泊まっていない。だって、ヨウコちゃんだって、マーちゃんだって、お泊りする時はここに寝るんだもん”

 アキちゃんはいつもヨウコちゃんがお泊りするところを見ました。誰のおふとんもありません。

「だーれ?」

 アキちゃんは言いながらドアをあけました。

「あら、チョロにリン!」

 そこにはシャムネコのチョロとリンが並んでたっていたのです。

「なあんだ。早くはいりなさいよ」

 アキちゃんはがっかりして、少ししゃくにさわってきました。

「だからアキが寝るときに一緒にくればよかったのに・・・。途中で起こすなんて、もう・・・」

 ぶつぶつ言いながら、アキちゃんがドアをしめようとすると、

「おじゃましまあす」

 と、いきなりリンちゃんが言ったのです。

「うん、いいよ」 

 と答えてアキちゃんはちょっと変に思いました。

「いま、なんか言った?」

 アキちゃんはリンをふりかえりました。

「ええ、おじゃまします」

 またリンちゃんがいいました。

「まあ、いいけど。もう寝るのよ、アキは」

「だめよ。これからが遊びの時間じゃないの」

 今度はチョロちゃんが言いました。

「もう、チョロったら、夜中なのよ。アキ明日学校なんだから、だめ!」

「じゃ、遊べない?」

 チョロちゃんは大きな可愛い目をもっと大きくひらいて言いました」

「ねえ、少しならいいんじゃない?」

 リンちゃんがやさしい声で言いました。

「そうねえ、じゃ、何して遊ぶ?」

 アキちゃんもとうとう、そう言いました。

「かくれんぼだよ!きまってるじゃない」

 チョロちゃんは、いっそう目をキラキラさせて、もう、少し興奮しているようです。

「いいよ。じゃあ誰がおにになるの?」

「はじめは私がおにになるわよ。アキちゃんとチョロはかくれなさい」

 リンちゃんが年上らしく言いました。

「うん、じゃあね。あ、そうそう、どことどこだけ隠れていいことにするの?」

「ぜーんぶ。どこも」

 チョロはいたずらそうに首をまわして言いました。

「わかった。でもさ、パパとママの部屋はいいけど・・・おじいちゃんとおばあちゃんの部屋はだめだよ」

「どうして?あたしあそこに、かくれるとこいっぱい知っているんだよ」

「だめよ、チョロ。おじいちゃんはねぼけるじゃない。あそこにかくれていたら、タヌキ退治だ!って、追い回されるわよ。

「リンちゃんは前に一度おじいちゃんの足もとで眠っていて、いきなりそれをやられたのです。

「こいつめ、!こいつめ!」って、まくらでたたかれたのです。

「ばけタヌキ!タヌキじるにするぞ!」なんて、それはおそろしかったのです。

「そうだね、わかった。おじいちやんの部屋はなしにしようね」

 チョロもやっとなっとくしました。

「いち、にいい、さーん、しーい・・・」

 リンちゃんは三十までかぞえると、すぐ二人を、いえ、一匹と一人をさがしてあるきはじめました。

 チョロがかくれるところなんか、リンはとっくに分かっているのです。

 だって、二匹は毎晩あそんでいるのです。

 アキちゃんはどこにかくれたのでしょう?

 たしか、下におりていったはずです。

 リンは一階におりて探す事にしました。どうせ、チョロも一階なのですから。

 まず、リンは座敷の堀こたつの中をのぞきました。でも、いません。食堂の方で音がしました。あっちです。

 リンは走っていきました。でも、いません。

 アキちゃんはにげたのです。足音がしているのに姿が見えないのです。

 キッチンにいきました。いません。反対のドアーから出たのです。

 こうなったら、チョロを見つけて二人で、いえ、二匹ではさみうちにした方がよさそうです。

 リンはチョロを探しにおフロ場のほうえ行きました。

「あ、いた!」

 すぐ見つかりました。だって、いつもかくれる洗濯機のうしろではなくて、もっと近いトイレにいたのです。

 ネコ用の紙の砂がはいったきれいなトイレです。そこでチョロは、つま先だって、じーと一点を見つめて、おしっこをしていたのです。

「ばかねえ、かくれんぼの途中でおしっこをするなんて・・・。見つかるにきまっているじゃないの」

「もう・・・。つまんない。だってがまんできなかったし、リンはアキちゃんばかり探してて・・・。だから、そのあいだに、とおもったんだよ、もう・・・」

 チョロは見つけられて、ぶつくさ言いながら、トイレの砂をきれいにおしっこのうえにかけて、ちょっと手足をふると出てきました。

「ねえ、アキちゃんてずるいのよ。じっとかくれてないで、ぐるぐる逃げ回るの。だから、あたしたちではさみうちにしよう」

 リンが言うとチョロもうなずいて、二匹はアキちゃんをはさみうちにすることにしました。

「アキちゃん、いたら、返事をしてね」

 と、リンが声をかけると、つられたのか、だれかがごそっと動きました。

 もちろん、アキちゃんです。どうも、階段のかげにいるようです。

「そっちへまわって」

 リンはチョロに目で合図を送ると、二匹で協力してとうとうアキちゃんをつかまえてしまいました。

「ずるいよ、ずるいよ、はさみうちなんて。最後までひとりで探すのよ。鬼が二人もいたらつまらないじゃないの」

 アキちゃんは抗議をしました。

「わかった。じゃ、今度はわたしが鬼だから、最後まで一人で探すよ。はい、かくれてかくれて・・・。いち、にいい、さーん・・・」

 こんどはチョロが鬼になりました。

 アキちゃんは自分のへやにとびこんで、ベッドの下にかくれました。

「さーて、リンのいるところはわかっているんだ。フフフンフン。ララランラン。チロチロチロチロチロリンリン・・・と」

 チョロは鼻歌まじりに二階へ上がってきました。ベッドのしたのアキちゃんは、チョロがまじめじゃないので少しはらがたちました。

「もう、鬼は鬼らしく、まじめにしてよ!ちっとも鬼らしくないよ!」

 アキちゃんはヒステリックにそう言うと、

「もういちどやりなおしよ」と言ってチョロを部屋の外に出しました。

「わかってますよ」

 チョロは少しやけぎみに言うと、パパとママの部屋に入っていきました。どうせリンはママのフトンの中です。いつも決まっているのですから。

 チョロはママのフトンのえりのところから少し様子をうかがっていましたが、手をつっこんでリンのからだにさわろうとしました。だいぶ奥の方にいるようです。チョロはますますだいたんに、フトンの中に首をつっこみました。

「うーん。誰?チョロなの?早く入りなさいよ、ほら」

 ママはねがえりをうつと、チョロの片手をつかんでフトンの中へひきずりこもうとしました。

 チョロは、しまったと思いながら足をふんばりました。でも、ママの力は強く、とうとうフトンのなかにひきずりこまれてしまいました。

 さきに入っていたリンの背中の上に、チョロは無理にのっかってしまいました。

「もう、チョロのばか!」

 リンはうなって、フトンから飛び出し、逃げていきました。

「あ、ずるい!}

 チョロもとびだそうとしたら、もう少しのところで、片足をママにつかまれてしまいました。

「うるさいわねえ。静かにねないと追い出すわよ!」

”追い出してくれればいいのに・・・”

 そう思いながらチョロは、すきを見てママのフトンのなかから飛び出しました。

「ようし、こうなったら、アキちゃんのほうだ」

 チョロはアキちゃんの部屋を探しに行きました。

 ところがアキちゃんは、いつまでたってもチョロが探しにこないので、ベッドの下からそろそろと首を出しました

そのとき、アキちゃんは、たいへんなものを見ました。

「ギャ!」

 アキちゃんは大きな声で叫ぶと、頭をひっこめようとしました。そして、ベッドのわくに思い切り頭をぶつけて気を失ってしまいました。

 あまりさわがしいので、パパが下りてきました。そしてアキちゃんの部屋へ入ってパパもびっくりしました。

「なんだ。おまえ、チョロなのか?」

 そこにはチョロちゃんが、ゆうべの豆まきのときにパパがかぶった鬼のお面をかぶって立っていたのです。

「ほら、アキ、起きなさい。ベッドの下でなんか寝てはいけないよ。あばれて頭を打ったのだろう」

「まあ、チョロったら。おには外のお面に顔をつっこんじゃったのね。ほら、アキちゃん、ちゃんとベッドに入って寝なさいよ」

 ママも起きてきて言いました。

 アキちゃんは目をあけて、チョロをにらみつけました。

「よくもわたしをおどかしたわね」

 チョロもアキちゃんに言いました。

「だって、アキちゃんが、鬼はおにらしくってなれって言ったじゃないの。フン!」


 朝、アキちゃんが目をさますと、ベッドには、チョロちゃんとリンちゃんが仲良くよりそって眠っていました。

「あー、面白かった」

 アキちゃんは二匹のネコにほほずりをしました。

                                         (おわり)

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