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15. 音信不通

十二月に入ると、気候は急に冬めいてきた。
それにも関わらず、真島は、素肌に蛇柄のジャケットを羽織り事務所に通っていた。
事務所に着いたのは、昼過ぎだった。真島は、組長室のソファに腰を下ろし、いつも通りからのメールをチェックする。だが、一通もない。
「おかしいなあ。学校が忙しいんやろか?」
真島は、渋々メールを打って、携帯をズボンにしまった。

その日は、仕事をしながら、何度も携帯を見たが、からの連絡はなかった。八時に帰宅した真島は、冷蔵庫から缶ビールを取り出しソファに座ると、に電話をしてみた。
だが、聞こえてきたのは、
『ただいま電話に出ることができません』
というアナウンスだった。
ちゃん、何があったんや?どうして、連絡くれへんねや?)
真島は、携帯を握り締めたまま、窓からの夜景を呆然と眺めた。

次の日から真島はに連絡し続けた。その頻度は、どんど高くなっていく。
真島の頭に、の可愛らしいメールが浮かぶ。透き通った声が聞こえる。
だが、何度、電話をかけても、アナウンスが聞こえてくるだけだった。真島は、仕事に身が入らなくなっていった。

四日後、真島は、組長室で朝を迎えた。部屋には、ウイスキーの空瓶が五本転がり、六十インチのテレビスクリーンには、異形の化物が獣みたいなうなり声を上げている様子が画面一杯に映し出されている。
真島が十一時に目を覚ますと、ドアをノックする音が聞こえ、ドアの隙間から西田が姿を見せた。
「あん、何や?」
「親父、あの冴島の叔父貴が来られてますけど」
「はぁ?なんで兄弟が来とんねん。まあ、入れって言うとけ」

真島は、ソファに横になったまま起きようとしない。二日酔いで痛む頭を押さえながら、ソファの背に顔を埋めていた。
ガチャっと音が聞こえると、冴島が、大股で入ってきた。
「なんや、兄弟。この部屋えらい酒臭いで。窓開けるたるわ」
冴島は、窓際まで歩くと、窓を一気に開けた。
冬の冷たい風が一気に吹き込んでくる。
真島の頬はひんやりして、全身がゾクゾクした。急いで自分の身体を両腕で抱きしめる。

「止めや、兄弟。寒いやないか!早う帰れや」
「何言うてんねや。お前が昨日の幹部会に来うへんかったから、心配して顔見に来てやったんやろが。何があったんや?」
冴島は、窓を閉めると、真島の横に腰を掛けた。その優しい眼差しは、じっと真島に向けられている。
真島は、頭をぐしゃぐしゃと掻きながら、座りペットボトルの水をぐいっと飲んだ。
「兄弟、俺なあ、もうアカンねや」
「何言うてんねや」
ちゃんや」
ちゃんやて?」
「せや。ちゃんから連絡がないねん……。もう嫌われてしもうたんや」

真島が、がっくりと肩を落とし、床を見つめる。
冴島は、腕を組んで、目の前のテレビを見た。化物が、金髪の女の首筋に食らい付いて、派手な血を撒き散らしている様子が映っていた。冴島が真島に顔を向けた。
「兄弟、ちゃんは、いきなり連絡して来んような娘やないで。何か事情があるんやないんか?」
「事情って何やねん」
「俺にも分からん。せやけど、もうちょう待ってみたらどないやねん」
真島は、下を向いたまま黙る。冴島が続けた。

「こんなん兄弟らしないで。待っとればええこと、あるかもしれへんのやで」
冴島が、真島の肩に手を乗せて、顔を覗き込む。真島がポツリと呟いた。
「せやな……。せやけど、女でこないに参ったの初めてやわ。あ〜、しんど」
「それだけ、本気ちゅうことやろ」
冴島がフッと笑う。真島が、太ももを両手でパンと勢いよく叩き、立ち上がった。

「よっしゃあ。もうメソメソするのは終わりや!兄弟、今夜は韓来にでも行って、腹いっぱいホルモンでも食うか?」
「何や、いきなり元気になってからに。まあええわ。せやけど、なんで、あないな趣味の悪いモン観るんや?」
「ああ、ゾンビ映画のことか?ええやないか。好きなんやからしゃあないやろ?」
「せやけど、ちゃんは嫌いかも知れへんで」
冴島は、いたずらっぽい笑みを浮かべたかと思うと、
「ほな、また夜に韓来でな」
と言って、真島の肩をポンと叩き、部屋を出て行った。

部屋に残された真島は、散らばったウィスキーの空瓶を見渡し、腰に両手を当てた。
(飲んだくれとる場合ちゃうな。これやったら、もしちゃんから連絡があっても、嫌わてまうで)
ニヤリと笑った真島は、大声で西田を呼びつけ、部屋を掃除するよう命令した。必死で空瓶やごみを集める西田を見て、真島はテレビを消し尋ねた。
「西田、今日の予定は何や?」
西田はポケットから手帳を取り出した。
「えっと、午後は、西新宿に建てているビルの現場を見てもらいたいそうです」
「よっしゃあ。昼メシ食うたら、メット持って出発や。西田、九州一番にラーメンでも食いに行くで」
真島は、西田の背中を勢いよく叩くと、バタンと勢いよく扉を閉めて部屋を出た。

つづく

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