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16. 秋山駿

十二月中旬になると、神室町もクリスマスムードに包まれた。商店はクリスマスセールの看板を出し、飲食店もクリスマス限定メニューを掲げている。
真島は天下一通りをぶらぶら歩いていた。色々な店から軽快なクリスマスソングが聞こえてくる。
「ハァ……。何が楽しいんや。どいつもこいつもクリスマス、クリスマスって」
真島は、ぼそっと呟くと、コンビニのポッポへ向かった。入り口にクリスマスケーキの店頭販売の看板が目える。
店内に入り、弁当コーナーの商品を見渡した。いつも組員に買わせる弁当は隅に追いやられて、パーティー向けのオードブルが並んでいた。
「何や、ここまでクリスマスかいな」
真島は小声で言うと、レジに行って欲しくもない煙草を買った。
サンタクロースのコスプレをした店員が爽やかに「ありがとうございました」と笑う。隣のレジでは、山のように揚げられたチキンを店員が愛想よくさばいていた。
どうしようもない苛立ちを抱えたまま、真島は店を出た。

煙草に火をつけて煙を吐いた。白く細い煙が灰色の空に吸い込まれて消えていゆく。真島は深い溜息をついた。
「あれ、真島さんじゃないですか?」
振り向くと、黒髪をオールバックにまとめた、長身で無精髭をはやした男が立っていた。黒いスラックスにワインレッドのジャケットを羽織り、胸元まで開いた黒いシャツからは、金のネックレスが光っている。左腕には金の時計が輝いていた。
「お前は、たしか、スカイファイナスのなんたらいう……」
「秋山ですよ」
「せや、金貸しや」
「止めて下さいよ。その呼び方。それにしても、久しぶりですね。真島さん、元気でしたか?」
「元気もクソもあらへんわ」
秋山が首を傾ける。
「何かあったんですか?」

真島は、吸いかけの煙草をコンビニの前の灰皿に押しつけた。
「どこ行ってもクリスマスやろ?それが嫌やねん」
「まあ、俺も嫌ですけどね」
「あん?なんでお前もやねん。お前は女と過ごすんちゃうんか?」
「いませんよ。俺は彼女募集中です」
秋山は、ズボンのポケットに手をつっこんで、ニコリと笑った。
真島は目を見開いた。
「ホンマか!?お前もやったか。嬉しいでぇ。仲間かあ。せや、お前キャバクラのオーナーだったな?」
「ええ、そうですよ」
「女、ぎょうさん見とるわな?」
「まあ、一応」
と秋山は言って、軽く笑いながら、頭を右手で髪をかき上げた。
「ほんなら、ちぃと相談があるんやけど」
「え?俺にですか?」
「せや。頼むわ」
真島が眉間にしわを寄せて真剣な眼差しで秋山を見つめる。秋山は、軽く溜息をついて、右手で頭を掻いた。
「困ったなあ。俺なんかでいいのかな」
「ええねん!」
「分かりました。それでしたら、俺の事務所がすぐそこなんで、よかったら、来ません?」
「おう。行くでぇ。助かるわ〜」
真島は、ほっとすると、背伸びをして両手を組んで頭の後ろに当てた。

二人は歩き出した。目の前には、真島の行きつけのバー、ニューセレナが入っている雑居ビルが見える。秋山の事務所は、その五階だという。真島は、秋山の後ろについて、ビルの裏から鉄階段を上り始めた。カンカンと靴音が薄暗い裏路地に響く。真島が、錆びた手すりを触りながら尋ねた。
「なんで、このビル、五階までエレベーターがないねん?」
「さあ、なぜだか?」
「お前、金あるんやから、もっとええとこに引っ越せや」
「無茶なことを言うなあ」
秋山は苦笑しながら、だるそうに鉄階段を上った。

事務所に着くと、真島は室内をぐるりと見渡した。奥には、いくつかの机があり書類やファイルが山積みにされている。入り口近くには、黒革のソファが向かい合わせに並び、その間のテーブルには無造作に週刊誌が投げられていた。灰皿は煙草の吸殻で山盛りになっている。
「すいませんね。事務の女の子が休んでいるもんで」
秋山は焦った様子で、雑誌を除け、吸殻をゴミ箱へ捨てた。
真島が、ソファにドカっと腰を下ろして、煙草を口にくわえた。
秋山も、真島の向かいに座り、スラックスから煙草を取り出し、煙草に火をつける。
「それで、ご相談とは?」
そう言うと、秋山は身を前に乗り出した。
「女のことやねん」
「女?」
秋山は目を丸くして驚いた。真島は、煙草に火をつけると、脚を組んで続けた。
「女から連絡が来うへんようになるのは、なんでや?」
真島が秋山の目をじっと見据える。真島は、からなぜ連絡が来ないか教えて欲しくて仕方がなかった。
秋山は、煙草の灰を見つめて考えていた。長くなった灰が堪え切れずにスラックスの膝を汚した。
「あれれ、ちょっと待って下さい」
秋山は、膝を右手ではたき、吸いさしを灰皿に押しつけた。

「あのう、真島さん?それって、色々原因があると思うんですけど……しつこかったりとか、あるんじゃないでしょうか」
秋山が、ハハハと笑う。
「正直驚きましたよ。真島さんから女性のことを相談されるなんて」
真島は両手を顔の前で合わせて溜息をついた。
「しつこいか……」
真島は、ぼそりと呟いた。心当たる節がある。一日に二回は必ず電話をし、メールは十回以上していた。
には負担だったのかもしれない。宙を見つめる真島を見て、
「真島さん、でも、しつこいと決まった訳じゃないですから」
と秋山が笑顔で元気づける。
「せやな。ほな、帰るわ」
真島が険しい表情で立ち上がった。
「じゃあ、下まで行きますよ」
「ええわ」
「すまんかったな」
「あ、ちょっと、真島さん?」
真島は、大股で事務所をあとにした。鉄階段を降りるカンカンという靴音が、寂しく裏路地に響いていた。

つづく

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