ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

皇帝のいない八月(1978年)

DATE

1978年劇場公開

監督:山本薩夫   原作:小林久三  脚本:山田信夫  渋谷正行

キャスト  藤崎顕正:渡瀬恒彦  藤崎杏子:吉永小百合  利倉保久:高橋悦史  石森宏明:山本圭  東上正:山崎努  有賀弘一:森田健作  佐橋総理大臣:滝沢修  大畑剛造:佐分利信  江見為一郎:三國連太郎


内容にはネタばれを含んでいます。  解説・感想  ストーリー  映画の中の自衛隊

【解説・感想】

 小林久三の同名小説の映画化作品。原作は、自衛隊クーデターを中心にすえた一種の社会派推理小説であり、鉄道ミステリーでもある。1978年の公開の映画化作品では、藤崎顕正元一等陸尉を主人公に、アメリカ追従の政権を見限り武力クーデターによる右翼政権樹立を目指す反乱分子と、それを秘密裏に鎮圧しようとする政府各機関との攻防を描いたポリティカル・フィクションとなっている。

 自衛隊クーデターを扱った内容だけに自衛隊からの撮影協力は得られず、火器や車両は1979年公開の映画『戦国自衛隊』で使用されたものと同じものを使用したという。また、その内容から国鉄からも撮影協力は得られず、ブルートレイン「さくら」の概観・内装はセットによる撮影だったという。さらに、最後に「さくら」を爆破したことで国鉄上層部を大激怒させる羽目になったという。

 反乱部隊のリーダーでもある藤崎顕正の役は、当初は渡哲也氏に依頼する予定だったが、所属プロダクションの方針から適わず、白羽の矢が立ったのは当時は底辺でもがくアウトローのような粗暴な役が多かった弟の渡瀬恒彦氏だった。結果、狂気を含んだ信念を持った元エリート自衛官にして反乱部隊のリーダーを演じきった。同年は『事件』で、ブルーリボン賞・日本アカデミー賞・キネマ旬報等助演男優賞を受賞し、渡瀬氏にとって役者としての評価を大いに高めた年になった。

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【ストーリー】

 8月14日、岩手県の国道4号線で不審なトラックを追跡したパトカーが銃撃された。陸上自衛隊による調査の結果、銃弾は5.56mmNATO弾と判明。それは、日本では用いていない米国の輸出用だった。内閣調査室長の利倉はクーデターの可能性――それもアメリカが関わっている可能性を考えざるを得なかった。

 数日後。陸上幕僚監部警務部長は江見為一郎は、法事のために鹿児島にあったが、東京に戻るように突然命じられた。東京に向かう途中に博多に立ち寄り、結婚して元自衛官で運送会社を経営している藤崎顕正と結婚している娘の杏子を訪ねた。藤崎は不在で、杏子だけが家にいた。父の訪問に不安を感じる杏子。さらに父が帰った直後に届いた藤崎からの手紙。不穏なものを覚えた杏子は博多駅に向かい、そこで昔の恋人の石森宏明と再会し、さらに藤崎の姿を見つけブルートレイン「さくら」に乗り込む。

 杏子とともに「さくら」に乗り込んだ石森は、下関駅付近で不審な動きをする人影を見る。杏子が、何か知っていると考えた石森は杏子に詰め寄るが、その時小銃で武装した兵士たちが行動を起こした。彼らは、アメリカに媚を売り腐敗した現在の民政党政権と佐橋総理大臣を排除すべく、クーデター「皇帝のいない八月」を宣言。西日本各地から同調する反乱分子たちを「さくら」に集めながら一路東京へと向かっていた。

 クーデター計画には政界の大物である大畑元総理や自衛隊幹部も含まれていた。佐橋総理は、内閣調査室の利倉に極秘に反乱の鎮圧を命じる。密命を受けた利倉は未蜂起の部隊を次々と武装解除させ、蜂起した部隊は自衛隊の部隊を投入して壊滅させていく。一方、江見は数年前に通信社が報じたクーデター計画「ブループラン」の首謀者とされた真野陸将を尋問していたが、真野は自殺してしまう。さらに、CIAも介入を始めた。

 次々と蜂起部隊が鎮圧されても、藤崎顕正は立ち止まろうとはしなかった。「さくら」の中では石森と顕正が対立する中、杏子は夫である顕正への複雑な思いを捨て切れずにいた。そして、大畑元総理が殺害される。そして、利倉の指揮の下、「さくら」に鎮圧作戦の命を受けた武装部隊が近付いていた。

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【映画の中の自衛隊】

 戦後日本のクーデターといえば1961年(昭和36年)12月に発覚した三無事件と1970年(昭和45年)11月25日に発生した三島由紀夫が陸上自衛隊員に決起を訴えた事件(三島事件)が思い浮かぶ。三無事件は荒唐無稽としか言いようなく、公安にあっさりと潰され、三島由紀夫事件では三島の演説に同調する自衛隊員はおらず、三島は失意のうちに自害して果てた。映画『皇帝のいない八月』でも、九州から東京へ向かうストーリーは、関係者の多くが九州北部の出身者であった三無事件を踏まえているように思えるし、「さくら」の中での藤崎顕正の演説は、三島事件における三島由紀夫のそれと酷似している。戦後、自衛隊内の一部不満分子によるクーデター未遂事件は、表に出てきていないだけで幾度かあったという話もある。自分には、その真偽を確かめる情報があるわけではないので何とも言えないけれど、警察の公安は自衛隊のクーデターを警戒し右翼思想をもった隊員を監視しているという話もある。

 クーデターとはかなり異なるが、記憶に新しいところでは1995年の一連のオウム真理教事件において、オウム真理教が自衛隊内に複数の信者を獲得していた事実があった。これらの隊員はオウム真理教に対して内部情報を提供するのみにとどまらず、ある隊員に至っては精鋭とされる第一空挺団長の身内の誘拐計画にも関わっていた事実が判明した(空挺団長の身内を人質に、空挺団をオウム軍としようとしたらしい)。最終的にオウム真理教事件に関連して5名の自衛隊員が懲戒処分を受けている。国を護るという使命を徹底的に叩きこまれ、国から報奨を受け取っていても、テロ集団に与する者が現れてしまう。そういう組織に首を突っ込んでしまう理由は、自衛隊や社会に対する不満なのか、愛国心から来るものなのか。

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