ゴジラ対自衛隊 〜映画の中の自衛隊〜

1発だけなら誤射かも知れない

2003年4月20日――朝日新聞東京版朝刊


 2003年(平成15年)6月の通常国会で武力攻撃事態等における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(武力攻撃事態法)が成立した。これによって、長年の懸案でありながらタブー視されてきた有事法制の基礎段階が成立したことになる。

 有事法制は、1965年(昭和40年)に発覚した三矢研究問題などをきっかけに、長らく封印されてきた。憲法によって国の交戦権が否定されているにも関わらず、国が交戦状態となった時の法整備をする矛盾という、日本国の特殊な状況に起因するものである。しかし、それは同時に有事のことを全く想定しない、国として無責任な状態がまかり通ってきたことでもあった。

  1998年、周辺事態法が成立。日米新ガイドラインに基づき、周辺事態における日米両国の具体的な協力について規定され、日米同盟は新たな局面を迎えることとなった。アメリカは、周辺事態法が規定する共同作戦を行うための、日本国内での環境整備を求め、政府・与党もそれを受けて有事法制の検討が開始された。

 前述したとおり、有事法制は長らく日本国内ではタブーとされてきた分野であった。しかし、1998年の北朝鮮によるテポドン発射騒動1999年3月の能登半島沖不審船事件2001年12月の九州南西海域工作船事件と立て続けに発生した不審船事件など、日本が決して危機と無縁ではないことが法律成立を後押しした。表題の言葉は、2003年4月20日の朝日新聞東京版朝刊第2面に掲載されていた、「有事法制ここが分からない「武力攻撃事態」」というQ&Aの中で出てきたフレーズである。

Qミサイルが飛んできたら。
A武力攻撃事態ということになるだろうけど、1発だけなら、誤射かもしれない。

 1998年8月のテポドン発射騒動を念頭に置いた言であろうが、この事件をきっかけに日本は軍事偵察衛星を保有するに至った。ミサイル1発だろうとその1発が核や化学兵器を搭載していたらその一発で終わりである。他国からの武力攻撃の可能性を頑なに否定しようとする姿勢と、朝日新聞の国家安全保障を軽視する姿勢だと思わざるをえない。このフレーズは、本来の意味を超えて、朝日新聞の記事に対するツッコミなどで今でもネット上で広く使われている。

自衛隊・安全保障をめぐる言葉